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『暗号名 黒猫を追え!』(1987年)- スパイ防止法(国家機密法)の制定を推進する目的で国際勝共連合が出資した映画

勝共連合の「集い」に安倍幹事長が出席
1988.02.20 朝日新聞 東京朝刊 2頁 2総 

国家秘密法(スパイ防止法)の制定運動などを進めている国際勝共連合(久保木修己会長)が主催する「新春の集い」が19日昼、都内のホテルで開かれ、自民党の安倍幹事長、渡辺政調会長らが来賓として出席、祝辞を述べた。安倍氏周辺は「日ごろ各種選挙でお世話になっているので、そのお礼の意味をこめて出席した。国家秘密法制定とは直接、関係はない」としている。

関係者によると、「集い」は「1万円会費」のパーティー形式のもので、約400人の出席者の中には自民党の国会議員や議員秘書も目立った、という。安倍、渡辺両氏のあいさつとも、選挙や党活動への勝共連合の「物心両面」の協力に感謝を述べただけで、国家秘密法案の扱いなどには触れなかった。しかし、自民党防衛秘密外国通報行為等防止法制定特別委の箕輪登委員長は「現在行っている議員対象の説明会に続いて、全国各地で説明会を開き、国民の理解を求めたい」と、現状を報告したという。

1988.02.20 朝日新聞 東京朝刊 2頁

そして、僕が議員になると、今度はスパイ防止法の問題が出てきた。そこで組織を挙げてスパイ防止法問題で動いてくれた。同時に、僕の方では議員の中に同志を作ったり、勝共サイドでも積極的に議員の同志を作ってスパイ防止法の国民運動になっていった。それを国内の枢要なところに、広報宣伝をやっていった。

スパイ防止法の国民運動

それで勝共のメンバーでよくやっていたのが横田(浩一・現理事長)君だった。彼らと僕とで全国を講演して回ったことを覚えている。このスパイ防止法も制定寸前までいったのだが、残念ながら制定に至らず、流れてしまった。

また、スパイ防止法制定促進議員・有識者懇談会というものをつくって、事務局長を務めていた。この団体の会長には岸信介先生(元首相)が就任されていた。スパイ防止法制定促進国民会議の会長は東大名誉教授の宇野精一先生が務められた。保岡興治さんも議員連盟に入っていた。防衛政務次官を務めた箕輪登さんとか。広島出身の谷川和穂さんも一緒にやった覚えがあるね。

貴連合でも一生懸命政治家たちに働きかけたこともあって、貴連合が主催した大きな会合でも、安倍晋太郎幹事長、今の安倍晋三総理のお父さんらと、一緒に参加した覚えがある。今から思うと、今は世界平和連合ということでやっているが、僕と勝共連合とは深いつながりがあって、ずいぶん助けてもらった記憶がある。

何度も書いてきたように、日本にはスパイを防止する法律はない。それどころか月刊誌「正論」5月号によれば、日本の監視カメラの市場で中国企業のシェアが拡大している。日本にいながら中国に監視される。

孫子もびっくりのスパイ天国である。


旧統一教会 が制作した迷作映画『インチョン(仁川)』(1981年プレミア上映 / 1982年公開)を以前に紹介しましたが、今回は、共産主義(ソ連やベトナムや北朝鮮や中国と言うよりも、日本共産党)と戦い続ける国際勝共連合が、スパイ防止法(国家機密法)の制定を推進するために出資したB級映画『暗号名 黒猫を追え!』(コードネーム ブラックキャットを追え!、1987年公開)について書き留めます。

『この物語は、戦後日本でおこった数々のスパイ事件等々を参考にしているが、全体のストーリーは全く架空の物語で、如何なる個人、会社、団体にも関係はない。』


スパイ天国と呼ばれて久しい日本国内においても、昨年 Safeguard Defenders(セーフガード・ディフェンダーズ、スペインの人権団体)が発表した報告書は、特に、政府関係者を騒がせました。

https://safeguarddefenders.com/sites/default/files/pdf/110%20Overseas%20%28v5%29.pdf

(プーチン大統領もレニングラードやドレスデンの拠点で働いていた)ソ連のスパイ組織(KGB)が世界中で暗躍していたことを思い起こせば、中国の諜報機関や秘密警察も各国で大規模に活動していると推測されます。(007 トゥモロー・ネバー・ダイ(1997年公開)では先頃アカデミー賞(主演女優賞)を受賞したミシェル・ヨー(マレーシア国籍・華僑)が演じたウェイ・リン(中国外務局公安委員・スパイ)がピアース・ブロスナンが演じたジェームズ・ボンドと共闘しましたが...)

さて、国際勝共連合が出資したB級映画『暗号名 黒猫を追え!』(コードネーム ブラックキャットを追え!、1987年公開)は、柴俊夫榎木孝明国広富之高岡健二田中美佐子内藤剛志荒木しげる三ツ木清隆伊吹剛片桐竜次川合伸旺月丘千秋月丘夢路の妹)、久保明森次晃嗣本郷功次郎山村聡、他が出演しているにも関わらず、都倉俊一(文化庁長官、元 JASRAC会長)が音楽を担当しているにも関わらず、少し残念な仕上がりです。

エンド・クレジットの前に、縦書きで次のようなテロップが流れますが

この物語は
戦後日本でおこった
数々のスパイ事件

昭和25~30年 第一・二・三次北鮮スパイ事件
昭和29年 ラストボロフ事件
昭和37年 大寿丸事件
昭和38年 酒田事件
昭和39年 寝屋川事件
昭和42年 コノノフ事件
昭和44年 岩崎・能代事件
昭和48年 水山事件
昭和49年 切浜事件
昭和50年 鶴見・寺尾事件
昭和51年 汪養然事件
昭和55年 自衛隊・コズロフ事件
昭和57年 レフチェンコ証言問題
昭和60年 小住(朴)・金事件
昭和60年 白い高速船事件
昭和60年 ソウル・辛事件

等々を
参考にしているが
全体のストーリーは
全く架空の物語で
如何なる
個人、会社、団体にも
関係はない

暗号名 黒猫を追え!(1987年)

実際に起きた様々なスパイ事件を束ねて一つにしたような内容の脚本であるため、主人公たち(主な男性陣はラグビー部で活躍した大学の同窓生)の間でトルストイも驚くような偶然が重なる展開となり、B級作品に落ち着いてしまったのかもしれません。(弟子の岩清水昌宏と共同で監督を務めた井上梅次月丘夢路の夫)が、河田徹 名義で脚本も執筆しました。)また、昨今では『相棒』でも公安調査庁に加えて内閣情報調査室が登場し、昨年は『DCU Deep Crime Unit 〜手錠を持ったダイバー〜』等も製作・放送されており、1987年公開の映画を現時点で鑑賞すると新鮮味に欠けます。

月丘夢路は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と関係の密接な一和高麗人参茶のTVCMに出演した。夫・井上梅次も、教団が関わった『絶唱母を呼ぶ歌 鳥よ翼をかして』(1985年)と『暗号名 黒猫を追え!』(1987年)の2本の映画を監督した。そのため会員の疑惑が持ち上がったが、月丘は、「CMのスポンサーであっただけで」「私はローマ・カトリック信者で洗礼の記録も残っている」と否定した。

はっきりしているのは、井上梅次という督と月丘夢路という女優の夫婦は、そろって統一教会(もしくは関連団体)のPR活動に力を貸したということ、2人がジャニーズ事務所と接点があり、特に月丘は同事務所とかなり密接だったということだけである。

公開(上映館なし)となった理由は沢辺有司 著『封印された発禁作品』(2016年)の中で次のように述べられています。

1987年5月に完成したこの映画。6月23日に完成記念上映会が開かれた。しかし、なぜか劇場公開は行われなかった。エンターテインメントとしても十分に興行収入を期待できたはずなのだが……。

その原因は、これがスパイ防止法制定を目指したプロパガンダ映画であって、スパイ防止法に反対する運動に押しつぶされたためである。

この映画の支援・監修をしているのは、スパイ防止法制定促進国民会議という名の現存する団体である。その名の通り、スパイ防止法の制定を目指して活動している団体である。この団体の運営母体は反共産主義活動をすすめる政治団体・国際勝共連合。この政治団体は統一教会(世界基督教統一神霊協会)とのつながりが深い。

70年代末頃から、国際勝共連合は、共産主義勢力のスパイ活動を取り締まるべきとして、スパイ防止法の制定に向けた運動を繰り広げていた。1985年には、関係議員らのいる自民党からスパイ防止法案(第3次修正案)が通常国会に提出されている。しかし、野党の抵抗で審議未了で廃案に追い込まれている。

それでも法案制定をあきらめない国際勝共連合は、スパイ防止法の国民への啓蒙のために本作の制作を企画する。

それに対し、スパイ防止法反対派は上映阻止運動を展開したというわけだ。

反対派が運動のなかで特に問題としたのは、国際勝共連合の運動や映画の制作資金が統一教会から出ていたことである。統一教会といえば、手相鑑定をしては高額の壷などを売りさばく霊感商法で資金集めをしていたとして、当時、マスコミにたたかれていた。そんな金が映画の資金になっていたとなると、劇場側も公然と上映するわけにはいかなくなる。

沢辺有司 著 『封印された発禁作品』 65~66頁(彩図社 2016年)

尚、この映画は長年お蔵入りとなっていましたが、2008年にシネマヴェーラ渋谷で上映されて以来、小さな映画館で興行されたり、自主上映されることも時折あるようです。

過去上映作品
妄執、異形の人々Ⅲ(2008/08/23 ~ 2008/09/19)
『暗号名 黒猫を追え!』



http://www.antiespionage-law.org/image/KURONEKO_PANHU.pdf



岸信介氏と安倍晋太郎氏の訃報を伝える国際勝共連合の機関紙「思想新聞」
思想新聞には「スパイ防止法」の見出しが頻繁に登場する。

勝共連合は、「スパイ防止法」制定のための運動を展開した。78年には「3000万人署名」を行い、79年発足の「スパイ防止法制定促進国民会議」には久保木修己会長が参加した。勝共連合は全都道府県に下部組織をつくり、地方議会への請願運動を展開した。


国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案

  • 略称:スパイ防止法案、国家機密法案。

  • 第102回国会・衆法30号

  • 提出者:伊藤宗一郎、他9名

  • 提出日:1985年(昭和60年)6月6日

  • 廃案


国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案

(目的)
第1条 この法律は、外国のために国家秘密を探知し、又は収集し、これを外国に通報する等のスパイ行為等を防止することにより、我が国の安全に資することを目的とする。

(定義)
第2条 この法律において「国家秘密」とは、防衛及び外交に関する別表に掲げる事項並びにこれらの事項に係る文書、図画又は物件で、我が国の防衛上秘匿することを要し、かつ、公になっていないものをいう。

(国家秘密保護上の措置)
第3条 国家秘密を取り扱う国の行政機関の長は、政令で定めるところにより、国家秘密について、標記を付し、関係者に通知する等国家秘密の保護上必要な措置を講ずるものとする。
2 前項の措置を講ずるに当たり、国家秘密を取り扱う国の行政機関の長は、国家秘密を国の行政機関以外の者に取り扱わせる場合には、これを取り扱う者に対し国家秘密であることを周知させるための特別な配慮をしなければならない。

(罰則)
第4条 次の各号の一に該当する者は、死刑又は無期懲役に処する。
1 外国(外国のために行動する者を含む。以下この条、次条及び第6条において同じ。)に通報する目的をもって、又は不当な方法で、国家秘密を探知し、又は収集した者で、その探知し、又は収集した国家秘密を外国に通報して、我が国の安全を著しく害する危険を生じさせたもの
2 国家秘密を取り扱うことを業務とし、又は業務としていた者で、その業務により知得し、又は領有した国家秘密を外国に通報して、我が国の安全を著しく害する危険を生じさせたもの

第5条 次の各号の一に該当する者は、無期又は3年以上の懲役に処する。
1 外国に通報する目的をもって、又は不当な方法で、国家秘密を探知し、又は収集した者で、その探知し、又は収集した国家秘密を外国に通報したもの
2 国家秘密を取り扱うことを業務とし、又は業務としていた者で、その業務により知得し、又は領有した国家秘密を外国に通報したもの
3 前項第1号又は第2号に該当する者を除き、国家秘密を外国に通報して、我が国の安全を著しく害する危険を生じさせたもの

第6条 次の各号の一に該当する者は、2年以上の有期懲役に処する。
1 外国に通報する目的をもって、国家秘密を探知し、又は収集した者
2 前項第1号又は第2号に該当する者を除き、国家秘密を外国に通報したもの

第7条 次の各号の一に該当する者は、10年以下の懲役に処する。
1 不当な方法で、国家秘密を探知し、又は収集した者
2 国家秘密を取り扱うことを業務とし、又は業務としていた者で、その業務により知得し、又は領有した国家秘密を他人に漏らしたもの

第8条 前項第2号に該当する者を除き、国家秘密を他人に漏らした者は、5年以下の懲役に処する。

第9条 第5条(同第3項に係る部分を除く。)及び前3条の未遂罪は、罰する。

第10条 国家秘密を取り扱うことを業務とし、又は業務としていた者で、その業務により知得し、又は領有した国家秘密を過失により他人に漏らした者は、2年以下の禁錮又は20万円以下の罰金に処する。
2 前項に該当する者を除き、業務により知得し、又は領有した国家秘密を過失により他人に漏らした者は、1年以下の禁錮又は10万円以下の罰金に処する。

第11条 第5条(同条第3号に係る部分を除く。)の罪の予備又は陰謀をした者は、10年以下の懲役に処する。
2 第6条の罪の予備又は陰謀をした者は、7年以下の懲役に処する。
3 第7条の罪の陰謀をした者は、5年以下の懲役に処する。
4 第8条の罪の陰謀をした者は、3年以下の懲役に処する。
5 第5条(同条第3号に係る部分を除く。)の罪を犯すことを教唆し、又は扇動した者は、第1項と同様とし、第6条の罪を犯すことを教唆し、又は扇動した者は、第2項と同様とし、第7条の罪を犯すことを教唆し、又は扇動した者は、第3項と同様とし、第8条の罪を犯すことを教唆し、又は扇動した者は、前項と同様とする。
6 前項の規定は、教唆された者が教唆に係る犯罪を実行した場合において、刑法(明治40年法律第45号)総則に定める教唆の規定の適用を排除するものではない。

(自首減免)
第12条 第6条第1号、第7条第1号、第9条又は前条第1項から第4項までの罪を犯した者が自首したときは、その刑を軽減し、又は免除する。

(国外犯)
第13条 第4条から第10条まで及び第11条第1項から第5項までの罪は、刑法第2条の例に従う。

(この法律の解釈適用)
第14条 この法律の適用に当たっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならない。

附則
この法律は、公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

別表(第2条関係)

1 防衛のための体制等に関する事項
イ 防衛のための体制、能力若しくは行動に関する構想、方針若しくは計画又はその実行の状況
ロ 自衛隊の部隊の編成又は装備
ハ 自衛隊の部隊の任務、配備、行動又は教育訓練
ニ 自衛隊の施設の構造、性能又は強度
ホ 自衛隊に部隊の輸送、通信の内容または暗号
ヘ 防衛上必要な外国に関する情報

2 自衛隊の任務の遂行に必要な装備品及び資材に関する事項
イ 艦船、航空機、武器、弾薬、通信機材、電波機材その他の装備品及び資材(以下「装備品等」という。)の構造、性能若しくは製作、保管若しくは修理に関する技術、使用の方法又は品名及び数量
ロ 装備品等の研究開発若しくは実験計画、その実施の状況又はその成果

3 外交に関する事項
イ 外交上の方針
ロ 外交交渉の内容
ハ 外交上必要な外国に関する情報
ニ 外交上の通信に用いる暗号


特定秘密保護法と新聞メディアの記憶-刑法改正およびスパイ防止法論議との比較を中心に-、赤尾光史、2014年3月、Journalism & Media No.7


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