『暗号名 黒猫を追え!』(1987年)- スパイ防止法(国家機密法)の制定を推進する目的で国際勝共連合が出資した映画
旧統一教会 が制作した迷作映画『インチョン(仁川)』(1981年プレミア上映 / 1982年公開)を以前に紹介しましたが、今回は、共産主義(ソ連やベトナムや北朝鮮や中国と言うよりも、日本共産党)と戦い続ける国際勝共連合が、スパイ防止法(国家機密法)の制定を推進するために出資したB級映画『暗号名 黒猫を追え!』(コードネーム ブラックキャットを追え!、1987年非公開)について書き留めます。
『この物語は、戦後日本でおこった数々のスパイ事件等々を参考にしているが、全体のストーリーは全く架空の物語で、如何なる個人、会社、団体にも関係はない。』
スパイ天国と呼ばれて久しい日本国内においても、昨年 Safeguard Defenders(セーフガード・ディフェンダーズ、スペインの人権団体)が発表した報告書は、特に、政府関係者を騒がせました。
https://safeguarddefenders.com/sites/default/files/pdf/110%20Overseas%20%28v5%29.pdf
(プーチン大統領もレニングラードやドレスデンの拠点で働いていた)ソ連のスパイ組織(KGB)が世界中で暗躍していたことを思い起こせば、中国の諜報機関や秘密警察も各国で大規模に活動していると推測されます。(007 トゥモロー・ネバー・ダイ(1997年公開)では先頃アカデミー賞(主演女優賞)を受賞したミシェル・ヨー(マレーシア国籍・華僑)が演じたウェイ・リン(中国外務局公安委員・スパイ)がピアース・ブロスナンが演じたジェームズ・ボンドと共闘しましたが...)
さて、国際勝共連合が出資したB級映画『暗号名 黒猫を追え!』(コードネーム ブラックキャットを追え!、1987年非公開)は、柴俊夫、榎木孝明、国広富之、高岡健二、田中美佐子、内藤剛志、荒木しげる、三ツ木清隆、伊吹剛、片桐竜次、川合伸旺、月丘千秋(月丘夢路の妹)、久保明、森次晃嗣、本郷功次郎、山村聡、他が出演しているにも関わらず、都倉俊一(文化庁長官、元 JASRAC会長)が音楽を担当しているにも関わらず、少し残念な仕上がりです。
エンド・クレジットの前に、縦書きで次のようなテロップが流れますが
実際に起きた様々なスパイ事件を束ねて一つにしたような内容の脚本であるため、主人公たち(主な男性陣はラグビー部で活躍した大学の同窓生)の間でトルストイも驚くような偶然が重なる展開となり、B級作品に落ち着いてしまったのかもしれません。(弟子の岩清水昌宏と共同で監督を務めた井上梅次(月丘夢路の夫)が、河田徹 名義で脚本も執筆しました。)また、昨今では『相棒』でも公安調査庁に加えて内閣情報調査室が登場し、昨年は『DCU Deep Crime Unit 〜手錠を持ったダイバー〜』等も製作・放送されており、1987年非公開の映画を現時点で鑑賞すると新鮮味に欠けます。
非公開(上映館なし)となった理由は沢辺有司 著『封印された発禁作品』(2016年)の中で次のように述べられています。
尚、この映画は長年お蔵入りとなっていましたが、2008年にシネマヴェーラ渋谷で上映されて以来、小さな映画館で興行されたり、自主上映されることも時折あるようです。
http://www.antiespionage-law.org/image/KURONEKO_PANHU.pdf
国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案
略称:スパイ防止法案、国家機密法案。
第102回国会・衆法30号
提出者:伊藤宗一郎、他9名
提出日:1985年(昭和60年)6月6日
廃案
国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案
(目的)
第1条 この法律は、外国のために国家秘密を探知し、又は収集し、これを外国に通報する等のスパイ行為等を防止することにより、我が国の安全に資することを目的とする。
(定義)
第2条 この法律において「国家秘密」とは、防衛及び外交に関する別表に掲げる事項並びにこれらの事項に係る文書、図画又は物件で、我が国の防衛上秘匿することを要し、かつ、公になっていないものをいう。
(国家秘密保護上の措置)
第3条 国家秘密を取り扱う国の行政機関の長は、政令で定めるところにより、国家秘密について、標記を付し、関係者に通知する等国家秘密の保護上必要な措置を講ずるものとする。
2 前項の措置を講ずるに当たり、国家秘密を取り扱う国の行政機関の長は、国家秘密を国の行政機関以外の者に取り扱わせる場合には、これを取り扱う者に対し国家秘密であることを周知させるための特別な配慮をしなければならない。
(罰則)
第4条 次の各号の一に該当する者は、死刑又は無期懲役に処する。
1 外国(外国のために行動する者を含む。以下この条、次条及び第6条において同じ。)に通報する目的をもって、又は不当な方法で、国家秘密を探知し、又は収集した者で、その探知し、又は収集した国家秘密を外国に通報して、我が国の安全を著しく害する危険を生じさせたもの
2 国家秘密を取り扱うことを業務とし、又は業務としていた者で、その業務により知得し、又は領有した国家秘密を外国に通報して、我が国の安全を著しく害する危険を生じさせたもの
第5条 次の各号の一に該当する者は、無期又は3年以上の懲役に処する。
1 外国に通報する目的をもって、又は不当な方法で、国家秘密を探知し、又は収集した者で、その探知し、又は収集した国家秘密を外国に通報したもの
2 国家秘密を取り扱うことを業務とし、又は業務としていた者で、その業務により知得し、又は領有した国家秘密を外国に通報したもの
3 前項第1号又は第2号に該当する者を除き、国家秘密を外国に通報して、我が国の安全を著しく害する危険を生じさせたもの
第6条 次の各号の一に該当する者は、2年以上の有期懲役に処する。
1 外国に通報する目的をもって、国家秘密を探知し、又は収集した者
2 前項第1号又は第2号に該当する者を除き、国家秘密を外国に通報したもの
第7条 次の各号の一に該当する者は、10年以下の懲役に処する。
1 不当な方法で、国家秘密を探知し、又は収集した者
2 国家秘密を取り扱うことを業務とし、又は業務としていた者で、その業務により知得し、又は領有した国家秘密を他人に漏らしたもの
第8条 前項第2号に該当する者を除き、国家秘密を他人に漏らした者は、5年以下の懲役に処する。
第9条 第5条(同第3項に係る部分を除く。)及び前3条の未遂罪は、罰する。
第10条 国家秘密を取り扱うことを業務とし、又は業務としていた者で、その業務により知得し、又は領有した国家秘密を過失により他人に漏らした者は、2年以下の禁錮又は20万円以下の罰金に処する。
2 前項に該当する者を除き、業務により知得し、又は領有した国家秘密を過失により他人に漏らした者は、1年以下の禁錮又は10万円以下の罰金に処する。
第11条 第5条(同条第3号に係る部分を除く。)の罪の予備又は陰謀をした者は、10年以下の懲役に処する。
2 第6条の罪の予備又は陰謀をした者は、7年以下の懲役に処する。
3 第7条の罪の陰謀をした者は、5年以下の懲役に処する。
4 第8条の罪の陰謀をした者は、3年以下の懲役に処する。
5 第5条(同条第3号に係る部分を除く。)の罪を犯すことを教唆し、又は扇動した者は、第1項と同様とし、第6条の罪を犯すことを教唆し、又は扇動した者は、第2項と同様とし、第7条の罪を犯すことを教唆し、又は扇動した者は、第3項と同様とし、第8条の罪を犯すことを教唆し、又は扇動した者は、前項と同様とする。
6 前項の規定は、教唆された者が教唆に係る犯罪を実行した場合において、刑法(明治40年法律第45号)総則に定める教唆の規定の適用を排除するものではない。
(自首減免)
第12条 第6条第1号、第7条第1号、第9条又は前条第1項から第4項までの罪を犯した者が自首したときは、その刑を軽減し、又は免除する。
(国外犯)
第13条 第4条から第10条まで及び第11条第1項から第5項までの罪は、刑法第2条の例に従う。
(この法律の解釈適用)
第14条 この法律の適用に当たっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならない。
附則
この法律は、公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
別表(第2条関係)
1 防衛のための体制等に関する事項
イ 防衛のための体制、能力若しくは行動に関する構想、方針若しくは計画又はその実行の状況
ロ 自衛隊の部隊の編成又は装備
ハ 自衛隊の部隊の任務、配備、行動又は教育訓練
ニ 自衛隊の施設の構造、性能又は強度
ホ 自衛隊に部隊の輸送、通信の内容または暗号
ヘ 防衛上必要な外国に関する情報
2 自衛隊の任務の遂行に必要な装備品及び資材に関する事項
イ 艦船、航空機、武器、弾薬、通信機材、電波機材その他の装備品及び資材(以下「装備品等」という。)の構造、性能若しくは製作、保管若しくは修理に関する技術、使用の方法又は品名及び数量
ロ 装備品等の研究開発若しくは実験計画、その実施の状況又はその成果
3 外交に関する事項
イ 外交上の方針
ロ 外交交渉の内容
ハ 外交上必要な外国に関する情報
ニ 外交上の通信に用いる暗号
特定秘密保護法と新聞メディアの記憶-刑法改正およびスパイ防止法論議との比較を中心に-、赤尾光史、2014年3月、Journalism & Media No.7