昨年12月29日の朝、韓国のムアン国際空港(務安国際空港)で滑走路の南側から着陸中、右側エンジンにバードストライクを受け(左側エンジンもバードストライクを受けたとの報道もあります。)
フラップを上げランディングギアを格納しながら着陸復行を試みたものの、バードストライクで壊れた(?)エンジンの推力が出なかった(エンジンを停止した)のか、十分に高度を上げることができないまま180度旋回し、エンジンへのバードストライクに起因する電気系統や油圧系統の不調(?)でランディングギアが降りなかったのか、また、ランディングギアを手動で自然落下させる時間もなかったのか
滑走路の北側から胴体着陸したチェジュ航空2216便(バンコク発・ムアン行、機体記号・識別記号(国籍記号+登録記号)HL8088)が大破・炎上し、179名(機長、副操縦士、客室乗務員2名、(タイ国籍の乗客2名を含む)乗客175名)が命を落とす(生存者は最後尾のジャンプシートに着座していた客室乗務員2名(男性1名、女性1名)のみ)大事故が発生しました。亡くなられた乗客・乗員のご冥福をお祈りいたします。
https://www.youtube.com/watch?v=zW71FrX8t_g
※ 着陸復行(ゴーアラウンド)する際には、急上昇するために抵抗を減じる必要があるため、通常は、フラップを上げ(ウインドシア等に見舞われていない限り)ランディングギア(着陸装置)を格納します(引き込みます)。
ゴーアラウンド(着陸復行)の例
飛行機の百科事典 飛行機の百科事典編集委員会編 丸善出版 2009年12月発行
※ ボーイング737シリーズのランディングギアの内、左右の後輪(主脚)は格納時(引き込み時)にタイヤの側面が露出します。(露出したまま飛行します。)
※ 昨年末の事故では胴体着陸に備えて燃料を投棄する時間はありませんでしたが、(短距離用途に設計・製造された)ボーイング737シリーズやエアバスA320ファミリーの機体に燃料投棄システムは装備されていません。
※ HL8088(737-800 delivered to Ryanair(Boeing Customer Code: AS))は現在 SMBC Aviation Capital が所有している(チェジュ航空へリースされている)ようです。
事故直後に発見されたボイスレコーダーから既に回収されたコックピットの音声記録が公開されていないため内容に不備はあるようですが、政府機関や報道各社が公表した事故の経緯は概ね下記(引用)の通りです。
報道されている動画(空港近くで食堂・レストランを営む Lee Geun-young 氏が撮影)を見る限り、素人目にはとてもスムースに胴体着陸したように思われますが、中途半端(180度だけ旋回)にゴー・アラウンドして滑走路の北側から胴体着陸した先に設置されていたローカライザー(計器着陸時に横方向のずれを知らせる電波アンテナ)が(地面から約2m嵩上げされた)盛土の上に造られた(幅42m ✕ 奥行3.4m ✕ 厚さ0.3m(事故現場を撮影した写真では厚さが(2)倍(0.6m)はあるように見えます。)
のコンクリート製の上板が、一昨年から昨年にかけて、耐用年数(15年)を迎えたローカライザーの交換時に重ねられた)土台の上に設置されていたことが最悪の事態を招いたのではないかと、事故直後から韓国の国内外で論じられています。また、盛土の中には(おそらく交換前のローカライザーを支えていた)コンクリート製の柱(一辺の幅あるいは直径0.26m ✕ 高さ3m)19本が存在すると報道されています。
※ 3年ほど前に事故機(HL8088)が金浦空港を離陸中に尻餅をついてテールスキッド他を破損したにもかかわらず、そのまま済州空港へ向かった結果、チェジュ航空は高額の罰金(2億ウォン、1ウォン=0.11円)を課せられていたことが判明しました。1978年6月2日に伊丹空港へ着陸中に尻餅をついたJA8119(後に日本航空123便として飛行中に御巣鷹山に墜落)のように圧力隔壁等を損傷したわけではありませんが、軽微な事故とはいえ、チェジュ航空は事故後の記者会見で(ライアンエアーから当該機を譲り受けた後)HL8088が事故を起こしたことは一度もないと断言していました。
尻餅(しりもち)離陸の例
テールスキッド
(望遠レンズで撮影され、短く見える)滑走路の北端で延長工事が行われています。滑走路の上には胴体着陸した機体が左右のエンジンを車輪のように引き摺った跡が残っています。
ムアン国際空港の滑走路は、両端(標高は北端が15.5m、南端が9.9m)で5.6mの高低差があります。高低差を補正するために、ローカライザーは盛土の上に設置されたようです。
ローカライザーの足元をコンクリート等で固めることは珍しくないようですが、そのように頑強な土台が(航空機が衝突する高さまで)地面から嵩上げされている事例は例外的かもしれません。
日本国内でも(共用空港でない)民間空港を自衛隊が利用するケースは増えていますが、北朝鮮と休戦状態にある韓国では、民間空港も軍事利用されるので、空港の付帯設備も頑丈に造られているのかもしれません。
※ 計器着陸時に縦方向のずれ(降下経路の縦位置)を知らせる電波アンテナ(グライドパス)も盛土の上に設置されていたかもしれません。
ボーイング737のようなナローボディ(通路が一つしかない)シングル・アイルの航空機は機体の高さが低い(胴体の高さは4.01m、地上から胴体最上部まで5.56m(737-800))ため、地上で自走中に障害物に衝突する可能性は高いですが、今回のような胴体着陸では前方の障害物を避けることはほぼ不可能です。また、延長工事が行われているため、滑走路の長さが300m短く(2800m → 2500m)なっていました。
尚、ムアン国際空港の滑走路の両端には羽田空港のA滑走路(南側)に導入されたEMAS(アレスター・ベッド/アレスティング・システムの一種)等は敷設されていないようです。
安かろう悪かろうの格安航空会社が運航する機体の事故ですが、再発を防止するために、早期に原因が解明されることを切望します。
追記
麗水空港(ヨス空港)の滑走路の南側にあるローカライザーの土台は、務安国際空港(ムアン国際空港)の滑走路の南側にあったローカライザーの土台より一回り大きく2倍の高さがあるようです。構造(盛土とコンクリート)も似ているようです。