老後破産は遠い未来の話ではない
お年寄りを取り巻く環境は厳しい。年金、医療、介護といった社会保障給付費は、国民所得の30㌫を占めている。憲法が保障する最低限度の水準である生活保護について、「もらい過ぎではないか」という批判や不正受給問題を取り上げる一部マスメディアなどの「自己責任論」が目立つ。そのメディアは本当に現場を見ているのか、果たしてもらい過ぎなのか、NHK取材班がまとめた著書「老後破産~長寿という悪夢」を読んでから判断してもらいたい。本記では最新データを交えて著書を紹介する。最後の2章は、木暮独自の焦点を記した。
■老後にのしかかる医療費
「お金がなくて、病院にいくことを我慢している」
「年金暮らしなので、食事は1日1回。1食100円で切り詰めている」
高齢者が病気やケガなどをきっかけに自分だけの収入だけで暮らしていけなくなる「老後破産」が深刻になっている。その背景には、世帯当たりの収入が過去20年間近く減り続けているためだ。
2人分の年金を合算して生活を維持することができていても、いつか亡くなれば、ひとり分の年金で暮らしていかなくてはならない。その一人暮らしの年金収入を分析したところ、およそ半数の300万人近くが生活保護水準を下回る120万円未満であることがわかった。
たとえば、夫が亡くなり、遺産として広大な自宅を所有したとする。一人暮らしをしてきた妻の年金額が十数万円であれば、元気なうちは暮らせる。しかし、病気を患るとそういうわけにはいかない。
60代の医療費は、現役世代と同じ「3割」負担だ。75歳未満で現役並みの所得がなければ「2割」、75歳以上の高齢者は現役並みの所得があれば「3割」、なければ「1割」負担となっている。
■年金もらっても生活保護は受けられる
医療費の支払いのために持ち家を売却する人は賃貸住宅に住むことになるが、家賃を払いながら医療費を払うのは、生活が苦しくなる。こうした「老後破産」が避けられないケースが相次いでいる。
ひとり暮らしの高齢者が急激に増え、孤独死が多発していることを受け、東京・港区では2011年に大規模なアンケート調査を実施。65歳以上でひとり暮らしをしている高齢者6千人を調査した。回答を得られた4千人の中から、詳細な聞き取りも行った。明治学院大学の河合克義教授らが分析したところ、生活保護水準以下(年収150万円以下)の単身高齢者は31・9㌫以上にのぼった。そのうち生活保護を受けている人はおそよ2割ほどだ。一方、収入が400万円以上の人が12・3㌫に上っている。都市部の高齢者は「貧困層と富裕層」の「二極化」が顕著に進んでいる。
65歳以上の一人暮らしで、現役で仕事をしている人もいる。しかし、主な収入源が「年金」と答えた人は55㌫を超えている。
また、掃除や洗濯、入浴などの家事を支援してもらえる介護サービスの割合で81・6㌫の人が「利用していない」と答えた。
65歳以上の高齢者の場合、原則「1割負担」だが、要介護度に応じて差が生じる。5段階あり、「要介護5」になると、毎日のようにヘルパーが必要で介護用のベッド代など、実費を合わせて毎月10万円になることもある。
介護サービスを受けていなくても毎月の介護保険料は支払わなければならない。その保険料すら払えないと、2年以上の滞納でペナルティとして介護サービスの利用料が「3割負担」となる。
アンケート結果を受け、港区では2011年から「ふれあい相談」事業を通じて、訪問活動をしながら生活保護や訪問介護などの公的サービスいつなげている。
支援の対象となる独居高齢者6千人に対して相談員は11人しかいない。すべてを訪問するのは困難のため、経済的に困窮している200世帯に絞って訪問活動を行っている。追い返されることもあるという。時間をかけて信頼関係を築かないといけないらしい。
港区の相談員で社会福祉士の資格を持つ松田綾子さんの訪問活動に同行した取材班は、田代孝さんを紹介してもらう。
田代さんは港区の高齢者施設を利用している。高齢者の健康維持を目的に作られた公共施設でお風呂や囲碁室があるほか、大きなフロアでは催しが定期的に開かれている。60歳以上の住民は登録だけで無料で利用できる。居酒屋が倒産したあと、預金を使い果たし、年金だけで食べていくことで精一杯でご祝儀で出費が予想される結婚式や仲間内の食事会などに参加できないという。理由は、お金がないことを悟られたくないためだ。お年玉が発生する正月休みでさえもひとりで過ごすことになる。
そんな田代さんのもとに自治体から連絡が入る。田代さんは毎月10万円程度の年金収入があるため、生活費の不足分として月々5万円程度が支給されることになった。
しかし、田代さんに残された問題がある。それは「住まい」だ。住んでいるアパートの家賃が生活保護の上限で認められいる額(都内で5万4千円)を超えているため、引っ越し代や敷金を考え、あきらめていた。そこでケースワーカーが都営団地の募集を聞きつけ申し込むことにした。ただし、倍率は高い。ちなみにケースワーカーは100人以上を担当している。
木村さんの場合、過去に自治体の窓口で生活保護の相談をしたが、数十万円の預金があることを伝えると、「なくなったら、また来てください」と言われたのだ。預金がなくなったからといって、確実に受け取れるとは限らない。しかし、預金額が一定の額まで減ると、生活保護は受けられると松田さんは話す。
病気になっても病院に行くことさえ我慢してしまう人も少なくない。
山本さんは退職時に厚生年金を一括で受け取ることができる「厚生年金脱退手当金制度」を利用してしまったために、厚生年金を受け取ることができなくなった。
年金額が低く、他に預貯金や財産もないため生活が困窮している人は、生活保護が受けることができる。憲法25条で「生存権」が保障されているためだ。田代さんのように年金を10万円受け取っているのに、生活保護が受けられないと思い込んでいる人はいる。この制度で「住宅扶助」として賃貸住宅の家賃を補助してもらうことができるので、ぜひ利用してもらいたい。
生活保護を制度を利用して「住まい」や「生活」の心配が拭われたら、その先は「つながり」の再構築だ。孤立しがちな高齢者に「地域のつながりを持ってもらおう」という取り組みは、各地で進んでいる。高齢者の生活相談や介護サービスの拠点でもある「地域包括支援センター」などを起点に、福祉団体、NPO、介護事業所、社会福祉協議会などが提携している。港区でも、障害学習やボランティアなどで「つながり」を再構築中だ。
■国の年金額引き下げは、貧困老人の生活の質を下げるだけ
原則、介護サービスの費用は1割負担となる。しかし、その1割が支払えず、上限まで利用することができない人が少ない。一人暮らしで寝たきりの高齢者など、介護保険で認められている上限を超えた分は、全額負担となる。1回1時間ほどであれば、千円程度だが、全額負担は1万円以上かかる。
この費用が払えないために、十分な訪問サービスを受けられない人が増えている。東京・北区の訪問介護ステーションの横山美奈子所長は、介護サービスを切り詰めてる深刻なケースを紹介している。
そんな状況の中、国は段階的に年金額を引き下げてる。菊池さんにとっては年間で5千円ほどの減額となり、消費税増額に伴って預金を取り崩すペースは加速を増すばかりだ。
さらに、菊池さんは体調の悪化で、ケアマネージャーから介護認定の見直しを提案される。ケアマネージャーとは、介護プランを作る責任者のこと。問題なのは、介護サービスを増やせる分、負担額も増えてしまうことにある。それを解消するには、生活保護制度しかない。この制度は医療や介護の費用の減額や免除など、菊池さんの問題を解決してくれる。
■家があっても、生活保護は受けられる
家を資産とみなされ、たとえ収入が少なくても生活保護を受けることができないケースが多い。家や土地を売却し、そのお金で必要なサービスを利用するように促される。
しかし、この原則は緩和されつつある。家が古かったり、土地の価格が安かったりする場合は持ち家に住んでいる状況を維持したままでも生活保護を受けられるようになった。
■リバースモーゲージの罠
家を持っている高齢者に注目が集まっているのが、「リバースモーゲージ」だ。自治体などが自宅を担保にしてお金を貸してくれる制度で、契約が満期になるか、満期になる前に本人がなくなれば、その家を売却処分にして借金を返済する仕組みだ。自治体にとっては、回収の見込みが立つので、積極的に進めている。しかし、この制度には弱点もある。借金が毎月「年金」のように振り込まれるが、満期になれば分割ではなく一括返済を求められる。長生きすれば、家は没収され、住まいも失ってしまう。
■節約の矛盾
医療費の節約が症状を悪化させ、かえって介護費用や医療費がかさむ結果を招いている。ある程度の年金をもらっている人こそ、支援を受けようとしないため、病気が重くなれば「老後破産」に陥ってしまうようだ。つまり、年金額が極端に少ないなど生活困窮がはっきりとしている人のほうが支援につながりやすいのだ。ひとり暮らしの高齢者は、認知症や病気などが悪化する前に支援できれば、孤独死といった最悪のケースを避けられる。こうした「老後破産」の予備軍への支援強化が求められる。
高齢者の住まいは、老後の過ごし方に応じて多様化している。国は、自宅でのひとり暮らしが難しくなった人にも安心して入居してもらえる高齢者専用の賃貸住宅「サービス付き高齢者向け住宅」の整備を進めている。管理人が24時間常駐し、食事も運んでもらえる。ただし、特別養護老人ホームのように医師や看護師、ヘルパーが常駐して医療も介護も安心して受けられる施設ではない。そうしたサービスを受けるには、費用の高い民間の施設しかない。収入の少ない高齢者にとっては入居が難しい。さらに、介護付きを謳っている「有料老人ホーム」は元気な高齢者向けのメニューを充実させているところが多い。
そうしたサービスが難しい場合は都営団地の選択もある。所得に応じて賃貸が設定されていて、年金収入が少ない高齢者などは1万円程度で住むこともできる。さらに、国は、施設ではなく老後は住み慣れた自宅で療養し、在宅医療や在宅介護を拡充していく方針だ。理由は一人暮らしをしていると目が行き届けにくいためだ。健康なときはやっていけとも重病化した場合、収入が少ない高齢者にとってはますます生活が苦しくなる。
東京・品川区にある昭和大学病院の救命救急センターセンター長の三宅康史医師は、熱中症で倒れる高齢者が急増していると訴える。重症化するまで病院にかかろうとせず、緊急搬送され、瀬戸際で命をとりとめる人も少なくない。
横浜市の汐田総合病院では、そんな低所得者向けに「無料定額診療」事業を行っている。全日本民主医療機関連合会(民医連)に加盟する180近くの病院の一つだ。この病院に搬送された武田さんは、退院後、行き場がなくて困っている高齢者だった。
武田さんは、施設の職員たちが自治体と掛け合った結果、生活保護を受けられるようになり、新たな有料老人ホームも決まった。
■貿易自由化で地方の農家は疲弊
地方でも都市部と同じように独居高齢者が増えている。
きっかけは、貿易自由化によって米価が下落したためだ。
秋田県内陸部に住む北見成子さん(仮名)は、これをきっかけに「老後破産」した。
北見さんは、自宅の固定資産税などの税金が払えなくなり、その支払いを免除してもらうための「減免申請の手続き」を教えてもらうため、「秋田県生活と健康を守る会」に参加した。
北見さんの居間には、カレンダーが5つ飾られている。農村では、よくある話で誰かが遊びに来た時に、送り主を嫌な気分にさせないために飾るというのだ。
農家が多い山形県最上町で行われた調査では、一人暮らしの高齢者のうち、収入が生活保護の水準を下回る人が50㌫超えている。農家の多くは田畑や自宅を所有しているため、食料が手に入れば困っているようには見えないことも多い。しかし、北見さんのように将来の不安を訴える声も多く寄せられている。
■親族が支援の壁になる
老後破産の最前線で対応に苦慮しているのが在宅介護や在宅医療に携わる人たち。東京・足立区にある介護ヘルパーステーションでは、生活苦の高齢者の対応にあたっている。ここでは、高齢者のケアプランを作成するケアマネージャーやヘルパーなど10人のスタッフが在籍している。人手が足りておらず、業務を兼務。このステーションでは、対応の難しい例が増え続けている。「生活保護を受けさせたくない」と支援を拒む親族の存在があるためだ。
親族の関わりがあるとかえって支援が難しい。完全に孤立無援の人のほうが支援しやすいのが現実である。こうした弊害は生活保護以外に「成年後見制度」にも顕著に表れる。この制度は認知症など、病気で判断能力がなくなり、金銭感覚や契約行為ができなくなると、本人や親族の申し立てなどが難しい場合に自治体の首長が成年後見人を選定するというもの。制度を拒否される理由は、「相続できる資産を目減りさせたくない」という企みからだ。親族の中には子孫である「自分たちに使う権利がある」と思い込んでいる節がある。その権利を脅かす親族の企みが高齢者の生活を追い詰めている。しかし、親族の意思も無視するわけにはいかない。
「市民後見人」の養成を進めるNPO代表の神田典治さんは、自治体職員として福祉行政に携わった経験から、行政だけでは「成年後年人」を活用できないと考え、NPO法人を立ち上げた。ここでは、後見業務の相談や第三者の市民が後見人となる「市民後見人」を育てている。
後見人の選定は、親族探しから始まる。親族が拒めば、手続きはできない。親族が見つからない場合も、甥や姪など遠縁まで徹底して調べる。やっかいなのは、調べつくして首長が申し立てした後、突然現れるケースだ。そのリスクを考えると行政では選任が難航する。それでも、選任される事例が増えているのは、「ひとり暮らし」で「頼れる親族がいない」高齢者が増えているためであろう。
■8050問題の生活実態
東京・墨田区の一軒家に暮らす80代の両親と50代の息子が住んでいる。息子は数年前にリストラで仕事を失い、無職。両親の年金で息子も生活しているという状態だった。仕事を探すように促しても怒るなどして手に付けられなくなる。さらに深刻なのは、再就職できない息子が老いた母に虐待をしている疑いがあるケース。地域包括支援センターが見回りに行くが、なにも交渉できないままで終わる。このままでは、母親の破産は避けられても、息子の破産は避けられない事態を招く。
■介護離職の顛末
介護離職者は毎年10万人にのぼる。親の介護のために仕事を辞めた子どもが同居して共倒れになるパターンもある。
澤田さんは1年ほど付きっきりで介護し、母親を自宅で看取った。唯一の親族だった母親が亡くなったあとは、身元保証人がいなくなったため、賃貸住宅を見つけられなかった。澤田さんも脳梗塞の後遺症があり、受け入れてくれる不動産屋は見つからなかった。行きついたのは、バックパッカーといわれる海外旅行者向けの格安ホテルだ。
澤田さんは生活保護の相談に行っているが、預金残高が5万円になったら来てくれと言われたという。この時点で生活保護が受けられなければ、生活が破綻する。医療費が高額になれば、一定額以上は返金される制度があることや無料定額診療を行っている病院を知っても、澤田さんは行こうとしない。
■【木暮補足】高齢者医療費改正で年間年金額200~250万円世帯に歪み
厚労省では、国勢調査をもとに、負担率の基準を検討してきた。
2022(令和4)年の法改正では、高齢者医療を支える現役世代の負担軽減を目的に、75歳以上が課税所得が28万円以上かつ「年金収入+その他の合計所得金額」が単身世帯の場合200万円以上、複数世帯の場合合計320万円以上の方は、窓口負担割合が2割に引き上げた。
2割に引き上げたことによって一人当たり年間約3万円増える。配慮措置として、2025年9月末まで外来医療のみ負担増加分が1カ月あたり3千円までに抑えられる。医療費が月5万円の場合、自己負担が1割は5千円、2割は1万円で、負担増加分は5千円となるので、3千円引くと2千円分が手元に戻ってくる。
しかし、この改正で年間年金額200~250万円世帯に歪みが生じる。
2割負担の中で年間収入200万円から211万円は非課税なのに212万円を超えると、住民税が最大で年間7万円ほどかかる。250万円までの場合、自治体にもよるが、住民税は最大で年間9万円ほど発生する。政府は、後期高齢者の医療費負担を優先させて、200万円以上とした。しかし、年間医療費3万円増加を考えると、75歳以上のの負担額が約880億円から約470憶円に減ったとしても高齢者の年間収入240万円以上にすべきだったのではないだろうか。
そこで、手元にお金を残す手段として住民税非課税も検討してもらいたい。住民税が非課税になる公的年金の額は211万円。いわゆる「211万円の壁」だ。これには前提があり、収入が年金のみの65歳以上の方で、配偶者を扶養している方が対象となる。
住民税が非課税になることで、国や自治体からさまざまな恩恵をうけることができる。
①国民健康保険料の減額
②介護保険料の減額
③高額療養費制度の自己負担額軽減
④各種給付金の対象
ちなみに若い世代の場合
①0~2歳の保育料が無料になる
②高等教育無償化の対象になる
③国民健康保険料が免除になる
自治体によっては
①高額介護サービス費の利用者負担の軽減
②介護施設入居者の住居費・食費の軽減
③インフルエンザ予防接種の費用の軽減・無料
人によっては住民税を非課税にするために、あえて年金の繰上げ受給を60歳に選択して意図的に年金受給額を下げるという方もいる。 ただ一旦減額された年金は、その金額が死ぬまで続くので、しっかり比較検討した上で判断してほしい。救済措置についてはおすまいの自治体のHPを見れば確認することができます。
■【木暮総括】家族実態の変化に制度が追いついていない
国民全員が年金に加入する国民年金制度ができたのは1961年。当時は3世代世帯が多く、年金は「おこづかい」のようなものだった。1980年代には65歳以上の高齢者のいる世帯の3世帯同居率は50・1㌫、2019年には9・4㌫まで低下している。内閣府によると、65歳以上の一人暮らしの者は男女ともに増加傾向にあるという。1980(昭和55)年には65歳以上の男女それぞれの人口に占める割合は男性4.3%、女性11.2%であったが、2020(令和2)年には男性15.0%、女性22.1%となっている。
家族機能がここまで落ち込むと、年金制度そのものが時代にそぐわないものになる。その救済策は、生活保護制度と住民税非課税など、選択肢がある。その選択肢すら知らない人も多い。
生活保護を受けることは
「国のお世話になることは罪悪感がある」
⇒戦前生まれの「お国のために贅沢しない思想」
「高齢者は、家を持っているから生活保護水準と同列に見られない」
⇒現役世代の偏見
などの声も多いが、生活保護制度の2つの要素を補填してくれる。
家賃=「住宅扶助」
生活費=「生活扶助」
国民年金だけで暮らしている人は、預金などの資産がなければ生活保護を受ける権利がある。低収入の場合も税金を減らす工夫もできる。その権利を遠慮なく行使し、国にはベーシックインカムの導入など救済支援の強化に動いてもらいたい。
日本が少子高齢化によって抱える社会課題の一つとして、「2035年問題」がある。団塊の世代が85歳以上となる2035年、人口における高齢者は3割以上となり、高まる介護需要に対しての人材不足や、現役世代の減少による経済の縮小など、将来は暗い。そこで、健康寿命を伸ばそうと、認知症予防など予防医療の分野が注目を集めている。
慶應義塾大学名誉教授の竹中平蔵氏は、2022年に和歌山市内で行われた講演会で、世界の経済情勢、内政、国際競争力の観点から、アルツハイマー型認知症の根本治療薬の開発を進めるために、国からの支援が急務と話している。日本の課題である高齢化社会を「健康でいつまでも働ける社会」にして、高齢者にも働いてもらおうというのが狙い。しかし、すべての高齢者が働きたいとは限らない。生活保護の代わりにお札を刷って全国民に定額金を給付するベーシックインカムの導入など画期的な提言もされている。日本国憲法第二十五条に、(1)「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」とあるので、国に対して積極的な導入を期待したい。