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Climate Techに挑む海外スタートアップが考える日本市場の可能性

Climate Tech (気候テック)とは、気候変動・地球温暖化対策に焦点をあてた技術領域を指す総称です。同領域に挑むスタートアップは、CO2排出削減をはじめとする課題に解決策を提案する存在として、多くの投資家や企業から注目を集めています。
本記事はDNX Venturesが開催した、Climate Techをテーマとするセミナーの一部を記事化したものです。同領域で革新的な事業を構想・展開するTernary Kinetics 社 (以下、Ternary) のCEOショーン・モロイ氏と、OpenStar Technologies 社 (以下、OpenStar) のCEOラトゥ・マタイラ氏が、それぞれの事業内容と日本市場への期待について語ります。

Ternary Kinetics - 輸送可能な液体電力を低コストで提供

Ternaryは、貯蔵可能かつ輸送可能な液体電力を低コストで提供する技術を開発しています。私たちが開発する技術は、世界各国で急務となっているカーボンニュートラルを実現するための画期的なソリューションでもあります。
私はTernaryのCEOを務めるショーン・モロイです。昨年NASDAQにも上場を果たした、持続可能なエネルギーソリューションを提供するクライメートテックのイノベーターであるLanzaTechでの早期メンバーとしての経験や、廃棄物から新たな価値を生み出すAvertanaの共同創業の経験を経て、Ternaryを創業しました。持続可能エネルギーの技術開発分野で、延べ 15 年以上の経験があります。
Ternaryには豊かな経験を重ねてきた経営陣が集っています。

共同創業者であるアーロン・マーシャル教授は、マクダイアミッド最先端材料・ナノテクノロジー研究機構の主任研究員であり、自ら創業したZincoveryでは、亜鉛廃棄物から亜鉛を取り出す独自の水素技術を開発しました。
共同創業者兼エグゼクティブ・チェアマンであるショーン・シンプソン氏は、LanzaTechの創業者であり、廃棄物から持続可能な燃料を製造するための新しい産業プラットフォームの開発と、その商業化を実現しました。同社は昨年NASDAQへの上場を果たしています。
そして取締役兼投資家であるピーター・ベック氏は、Rocket LabのCEO兼チーフエンジニアとして同社をNASDAQ上場に導き、NASAに革新的な宇宙技術を提供してきました。
また当社のチーフ・エンジニアであるアンドリュー・ソープ氏は、エレクトロンロケットに電力を供給する電気式液体酸素システムの設計者でもあります。
こうした多岐にわたる技術経験を持つメンバーが集うTernaryは、これまでにない技術を開発できるポテンシャルを持つ企業であると言えるでしょう。
ここからはTernaryが提供するソリューションについて説明します。

私たちの技術はクリーンかつ安価な液体電力を充電し、トラックや船で輸送した後、各種交通機関に直接注入します。この仕組みの強みは、既存のサプライチェーンを利用して持続可能なエネルギーを輸送できることと、そのエネルギーを再利用できることです。
当社が開発したコンバーター・システムは高効率なエネルギーキャリアを採用しており、全体の50%を電気に変換することができます。これはガソリンエンジンから得られるエネルギーの約2倍です。さらにコンバーターの充電時間は約10分間と非常に短いだけでなく、およそスーツケース3つ分という小さなサイズであることから、トラックなどの車両でも輸送できます。
想像してみてください。大阪まで500キロのロングドライブをするために、あなたは給油所に行きます。そこでたった5分、液体電力を満タンにすれば、非常に静かな走行で、二酸化炭素を排出することなく、あなたは大阪までたどりつくことができます。それと同じように、トラックや飛行機、船も液体電力によって移動しています。これが、Ternaryが実現したい世界です。

私たちは輸送、固定電力、産業用水素という3つの注力領域に技術を展開することを目指しつつ、パートナー企業と連携しながら技術検証を進めています。

OpenStar Technologies - 核融合によるエネルギー生成技術の実用化

OpenStarは太陽が持つ核融合エネルギーに着目し、その構造を再現する仕組みをつくることで、地球上に太陽と同様の核融合を生じさせるソリューションを開発しようとしています。私はOpenStarの創業者兼CEOのラトゥ・マタイラです。本日は、核融合技術の社会実装は30年先の未来の話ではないということを、限られた時間の中でお伝えしたいと思います。
私たちは宇宙で起こる核融合を再現するために、どのような仕組みが必要か研究してきました。従来のアプローチとして主流だったのは「Tokamak (トカマク)」と呼ばれる技術です。これは電磁石がドーナツ型に巻かれており、その中心に高温のプラズマを閉じ込められる磁場を生成するものです。

しかし、トカマクで生成されるプラズマは不安定で、維持するのが難しい性質があります。科学者やエンジニアは、このプラズマを維持する方法を見つけるために、多くの努力を重ねてきました。その結果わかってきた新たな課題は、プラズマを維持するためには非常に複雑かつ大規模な設備が必要であるということです。高価かつ非効率な電磁石に頼らなければならないため、収益性が乏しいだけでなく、設備のメンテナンスやアップデートなどの対応も困難であることが、本技術の社会実装の障壁となりました。
こうした背景から、私たちは安定したプラズマから核融合装置を設計するコンセプトに基づき、課題解決を試みています。物理学者である長谷川晃教授が提案したダイポールを起点とすることで、私たちは核融合を再現するための新たな道筋を見いだすことができました。私たちが開発するマシンの特徴は、安価かつ単純な電磁石を用いること、高い安定性を誇ること、柔軟なエネルギー供給に対応すること、そして短期間の開発とメンテナンスが実現するモジュール式であることです。ダイポールはトカマクの弱点を補える特性があり、核融合設備の製品化コストを従来の約10分の1まで削減できます。

現在、私たちはマサチューセッツ工科大学と東京大学における研究結果を合わせた上で、当社の先端技術を組み込んだ設備によって、大規模な電磁石を作る技術拡張を試みています。高性能のダイポールを構築すること、そのダイポールが有用な設備であることを証明することが、次の目標です。 
当社はすでに1,200万ドルの資金調達を達成しており、そのうち約800万ドルを研究に投資することで現フェーズまでたどりつきました。今後の目標を達成していくためには、さらなる資金調達が必要になってくると想定しています。私たちの技術に興味を抱くアジアを拠点とする投資家の皆さんと、ぜひお話をさせてください。

パネルディスカッションー日本市場の可能性

エネルギー分野において、革新的な技術に挑戦する二社の現状を踏まえたうえで、本記事の後半はDNXの野村が二人を迎えて行ったパネルディスカッションの一部をお届けする。

野村:お二人が核融合や液体電力といった技術領域に取り組むべきだと感じたきっかけをお聞かせください。

ラトゥ:私でなければ実現できないような野心的なプロジェクトに取り組みたいという欲望は、おこがましいながらもありました。ただし、それは現在取り組んでいるような大規模な核融合プロジェクトではなく、もっと控えめなものでも構いませんでした。
私がこの技術領域に対して強い気持ちを抱いたのは、長谷川教授が提唱するダイポールと出会ったからです。長谷川教授は現代に大きな影響を与えたトランジスタや携帯電話、衛星通信、光ファイバーなどあらゆる発明に貢献した“神様”とも言える人です。ダイポールも未来に貢献する発明として高く評価されることでしょう。

ショーン:子どもの頃、私は父と共に車で登山やハイキングにいくことが多くありました。父はオーストラリアとイギリスの車を持っていましたが、それらは残念ながら毎週修理をしなければ走りませんでした。父が連れていってくれた自然を愛する気持ちと、そのための手段だった車を愛する気持ち。「どちらも矛盾しないためには何をすべきか」という問いが、私のキャリアの基盤になっています。もしも子どもの頃、信頼できる日本車に出会っていたら、私は今ここにいなかったかもしれません。

野村:エネルギーとCO2排出削減の観点から、日本市場を優先する理由は何でしょうか。

ラトゥ:日本はエネルギーの約90%を輸入しなければならない特性上、CO2排出削減への関心が強い国です。また、日本は核融合発電所に必要なものすべてを国内で作れる産業力を持つ、数少ない国のひとつでもあります。私たちの技術の核となる電磁石も、日本で製造されたものです。市場と技術、そしてサプライチェーンにおいて、日本にはすでに素晴らしい組み合わせがそろっています。私たちはこの日本市場において、技術分野における戦略的なパートナーシップを組むことが重要になってくると考えています。

ショーン:日本には驚くほどのビジネスチャンスが集中しています。日本には業界トップクラスの製造業者や開発業者が集っており、一企業が複数の分野を横断して事業を展開することもしばしばあります。これは他の国ではそう多く見られない条件です。日本企業と提携するということは、世界的に見て高い事業運営基準をクリアした企業であるという証になります。

野村:技術・事業を開発していくためのパートナーとしての日本企業への期待が大きいのですね。ここでショーンに質問です。Ternary創業以前、日本企業との取引もあったと聞いていますが、日本企業と協業して驚いたことはありますか?

ショーン:以前の会社で、家庭ごみからエチレンを生成するプロジェクトにおいて、日本のある大手化学工業会社と協業した経験があります。スタートアップながら当時からトップレベルの事業運営をしていた自負はありましたが、その日本企業からは調査、文書化、深度の深い技術理解といった観点で、私たちの想定以上に高いレベルの事業運営を求められました。当時の事業フェーズにおいて、彼らの要求に対応するのは非常に難しかったものの、その経験を活かしたその後の協業において、私たちは多くの企業から勤勉さと品質の高さにおいて高い評価を受けることができました。言語や文化を越えて日本企業との友情を深めることができましたし、非常に価値ある取り組みだったと感じています。

野村:ラトゥに質問です。日本企業と仕事をする上で、どのような課題が予想されますか?

ラトゥ:私たちが取り組んでいる技術は、試行錯誤と学習と再試行によるところが大きいです。私たちはその試行錯誤のプロセスをダイナミックに進めていますが、その反対はショーンが話した厳格さです。私たちが将来的に販売したい製品は、ダイナミックであるだけでなく厳格である必要があります。そう言った意味で、ショーンが過去経験したように、私たちも同じように日本企業から厳格さを学ぶことになると思います。

野村:最後に、日本企業の方々へメッセージをお願いします。

ショーン:私たちはすでに日本の自動車メーカーと機器メーカーとの間に話し合いの場を設けており、彼らの重要課題や、私たちの技術に対する見解について、貴重な意見を聞くことができました。こうした会話は、エネルギーソリューションの開発において非常に価値ある機会だと捉えています。今後も燃料電池メーカー、自動車メーカー、航空機・船舶を扱う事業者など、脱炭素化に資するソリューションを探している日本企業の皆さまと積極的に議論していきたいです。

ラトゥ:私が皆さまに伝えたいのは、核融合技術に挑む各国のイノベーションと努力は、必ず報われるということです。その努力が自国でより良いエネルギー生成を実現し、私たちだけでなく、私たちの後世を継ぐ子孫にとってより良い世界が築きあげられることを、ぜひ想像してみてください。

(DNX for Corporates 編集部 執筆・宿木雪樹、編集・野村佳美)

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