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日本人の課題 “学力 vs 教養”

日本から世界で活躍できる人材が輩出されにくいのはなぜか?
最大の理由は英語力の問題でしょうが、そのテの話は耳タコだと思うので、ここでは語りません。
それより、もう一つ大きな理由がある、と私は考えています。

普通の国には塾も宿題もない

普通の国ってどこや、って話ですが、私が住んでいたのはおもにヨーロッパです。
ヨーロッパで学習塾というものの存在を聞いたことがありません。じつはあるのかもしれませんが、お子さんを塾に通わせているご家庭を知りません。

また、ヨーロッパの学校には宿題がありません。
私の娘が通っていたジュネーブの学校の校則には、”No Homework Policy” と明記されています。
放課後に Extracurricular Activity という自主参加の課外活動がありますが、それらはスポーツ、アート、ゲーム、音楽、ダンスなどです。

ヨーロッパの子供は、日本の子供ほど勉強していないと思われます。
私の娘はずっとインターナショナルスクールなので単純比較しにくいですが、塾や宿題に追われる日本の同学年の子たちに比べたら、娘の学力は格段に落ちます。

長いこと日本を離れていてあまり実感がないのですが、日本の子供が猛勉強するのは中学受験競争が激化しているからでしょうか。
韓国や中国にもその傾向があるようですね。
現在住んでいる香港にも激しい競争があるらしいですが、娘をそれに参加させようとは思いません。

10歳やそこらで身につけた学力が将来どれほど役に立つのか、疑問だからです。

基礎学力は何のため?

初等~中等教育(日本で言えば高校まで)は、基礎学力を身につけるところです。基礎学力の重要性は理解しますが、基礎学力だけ身につけてもあまり意味がないと思います。

例えば・・・
枕草子を現代語訳する
世界史年表の暗記
微分積分
モル計算
フレミングの左手

こういった勉強が、大人になって何かの役に立っていますか?
基礎学力というのは、高等教育に入る前の準備のようなものです。
大学受験で求められるのは、せいぜいその程度の学力でしかないのです。
出口ではなく、入り口です。

大学以降の勉強量で差がつく教養

日本の大学生は勉強しない。
私が子供の頃からそう言われていたような気がしますが、今でもそうなのでしょうか。
過酷な受験戦争を勝ち抜き、大学に合格さえしてしまえばあとは遊ぶだけ。
日本の教育は、ずーっとそんなことを繰り返していませんか。
「大学は勉強するところです、などともっともらしい正論を吐くな!」と言われるのを承知で、大真面目に言いたいのです。

このおかしな風潮が、日本の人材を劣化させているのではないですか?

日本企業で働いていた頃、昭和のオジサンたちが大学時代いかに勉強しなかったかを自慢する、フシギな武勇伝をさんざん聞かされました。
「勉強しないでバイトばかりしてたよ」
「学校行かずに雀荘に通いつめてたな」

彼らの学力は、高校 3年生がピークだったのでしょうか。
18歳で成長をやめてしまった大人たちが、日本の政治や経済を動かしてきたのですか?
それでなんとかなっていた時代があったのかもしれませんが、はたして今の時代はどうでしょう。

本来、最も勉強すべきなのは、中学・高校・大学受験ではなく、高等教育、すなわち大学に入ってからです。
考えてもみてください。
大学受験のために猛勉強した高校生がどんな難しい問題を解けたとしても、大学で学ぶ内容はレベルも質も全然違いますから、そこでしっかり勉強する人はあっという間に抜き去ります。いわんや、中学・高校受験をや。

修士や博士などの学位を持つ、正しい意味での高学歴者を適切に処遇しない日本企業の採用姿勢も大いに疑問です。
修士以上の学位を持つ人は、大学・大学院時代にしっかり勉強している人が多く、わずか 2年の違いでも実質 6年分の学力差があります。
高校 3年で学力が止まっている人は、大学以降も勉強して修士号を取得した人に太刀打ちできないくらい大きな差がついているものです。

大学以降に身につけたものは、学力というより、教養という言葉がふさわしいかもしれませんね。
日本の教育システムは、基礎学力ばかりに重きを置き、次のステップである高度な学力(あるいは教養)を軽視しているのではないでしょうか。

アソシエイトとして優秀でも、マネジメントとして未熟

日本人社員は、アソシエイト(非マネジメント職)としてはピカイチだが、マネジメント職になると優劣が逆転する。
17年の海外勤務経験のなかで痛感してきたことです。

ヨーロッパのビジネスエリートの優秀さはどこからくるのか、ずっと考えてきて辿り着いた答えがこれです。
彼らは大学・大学院で、日本人と比較にならないくらい勉強してきたから。
例えば、ラテン語を習得して古典を読んでいるから、名文を書くし、名言などがさらりと出てくる。
ローマ史だけでなく、近現代史をみっちり学んでいるから、リーダーの資質が自然に備わっている。
狡猾さと社内政治に長けているのは、マキアヴェッリを読んでいるから。

10代の頃は日本人のほうが勉強したかもしれない。でもそれは、試験で良い点をとるための勉強なので、せいぜい事務処理能力を高めてくれるくらい。
つまり、アソシエイトとしての優秀さ止まりなのです。

念のため付け加えますと、ビジネス書やハウツー本や自己啓発書の類いは、教養とは無縁です。

勤務先の経営陣や、日本の政権の顔ぶれを思い浮かべてみてください。
彼らが大学時代にガッツリ勉強したと思われますか?

ちょっと背筋が寒くなってきませんか?


(追記)
本稿の続編です。