見出し画像

スピーキングに行き詰まったら、ライティングを磨いてみる

英語を話す力は、場数を踏むことである程度身につきますが、いつかノンネイティブとしての限界が見えてきます。
話すのはこれ以上うまくならない、と感じたら、書く力を磨くことをお勧めします。じつはそれが最も効果的で、しかも効率的な達人への道だからです。
仕事で英語の文書を無数に読み、上手な人のお手本を研究し、自らもさんざん書いてきた経験をもとに、ライティングの勘どころをお伝えします。


今後重要になるのは話すより書くスキル

ビジネスにおけるコミュニケーションの手段は、ざっくり言えば、次のように変遷してきました。

対面 ⇒ 電話 ⇒ メール

まず、リモートでの通信が今後も主流であることは間違いないでしょう。
リモートの通信手段には、電話やメールのほかにもチャット、ビデオ、SMS、メッセンジャー(WhatsApp, Line, WeChatなど)などがあります。

電話、チャット、ビデオは、同時性が長所ですが、それは短所でもあります。
短所とは、相手の時間を束縛することと、ゆっくり考える時間が与えられないことです。
さらに、時差のことまで考慮に入れると、同時性のコミュニケーションは今後ますます人気がなくなっていくと考えられます。

(今でもすでにそうですが)これからも、ビジネスコミュニケーションは、主にメールとメッセンジャーアプリを併用することになるでしょう。

つまり、英語は話すより書く機会のほうが圧倒的に多くなるということです。

やっぱり日本人はグラマーに強い

自分の英語力に劣等感をもっていた時期が私にもありました。
英語の上手なオランダ人やドイツ人やインド人などに囲まれ、こいつらよりうまくなれる気がしない、と思ったものです。

あるとき、オランダ人の書いたメールを読んで、意外とお粗末な英文だな、と感じました。イギリス人顔負けの英語を話す人が、書いたらこんなもんなのか、と。大きな間違いはないものの、ダラダラと読みにくい文章でした。

インド人が書いたメールを読んだときは、かなり衝撃を受けました。
こいつ学校出てるのか?と思いました。
文法メチャクチャ。スペルミスだらけ。日本の高校生でももう少しまともな英文を書くだろう、というレベルです。
そんな人が、私より自信満々に英語を話していたことが衝撃だったのです。

そして気づきました。
文法では誰にも負けないんだな、と。

日本の学校が文法中心の英語教育を続けてきたことは、あながち間違っていなかったんだ、と思いました。
なぜなら、このインド人にこれから英語の文法を教えるのは無理だと思うからです。文法メチャクチャでも話せちゃうんだから。今さら文法を学ぶ気なんてないでしょ。

私たち日本人は、じつは有利なんです。
まず文法をちゃんと身につけているから。
話せないのは、後からいくらでも場数を踏めば、話せるようになります。

そして、日本人の高い文法力は、書くときにこそ発揮されるのです。

ごまかしが効かないライティングは実力の差がモロに出る

私はなぜ、インド人が話すのを聞いて「勝てる気がしない」と感じ、書いたメールを読んで「負ける気がしない」と思ったのでしょう。
それは、話すのはごまかしが効くけど、書くのはごまかしが効かないからです。

書くスキルは、実力の差がモロに出ます。
間違った文法は一目瞭然だし、幼稚な単語使いや美しくない表現は誰が見てもわかります。人間は聴覚より視覚のが敏感なのでしょう。
しかも、書いたものは残ります。

英語を書くスキルと組織内のポジションは正比例します。
これはもう私の経験から断言できます。
話すスキルもポジションにほぼ正比例しますが、書くスキルのほうがより綺麗な相関を描きます。

正しくて美しい英文を書く人は学歴と教養が高いと思われますし、シンプルでわかりやすい英文はロジカルで頭の良い人と評価されるからです。

イギリス人が書いたメールをよーく読むと見えてくるもの

イギリス人といってもいろんな人がいますが、ビジネスで出会うイギリス人は大きく2つのタイプに分けられると考えています。

A. インターナショナルな経験とスキルを備えたイギリス人
B. 国外では通用しないドメスティックなイギリス人

その人の話す英語を聞けば一発でわかります。
Aタイプは、ノンネイティブに配慮した正しくて美しい英語をゆっくり話します。
Bタイプは、ネイティブにしか通じないブロークンな英語をネイティブにしか聞き取れないスピードで話します。

当社はグローバル企業なので、ほとんどのイギリス人がAタイプです。
以前はBタイプのイギリス人もいましたが、ほとんど解雇されました。

Aタイプのイギリス人は、グローバル企業において最強の存在です。
私は、彼らが書く長めのメールや全社員に発信するメッセージなどをお手本にしてきました。

イギリス人が書く良質な英文の特徴は以下のとおりです。

1) 簡潔にして要点を捉えている
2) 文法的な誤りが絶対にない
3) 基本的には易しい単語を使っているが、時々超難度の単語を混ぜる

イギリス人特有のウィットに富んだ慣用句や名言や格言などを織り込んでくる技も見られますが、これらはマネできないので無視していいです。

時々超難度の単語を混ぜるのは、ネイティブ感を出すために意図的にやっています。易しい単語だけだと、バカだと思われるおそれがあるからです。

こうしてみると、一部の例外を除いて、特別なことはやっていないことがわかります。

正しい文法と易しい単語を使って簡にして要

日本人が日本語のビジネス文書を書くときの心構えと変わりませんね。

時制を制する者はライティングを制す

時制の一致。学校で習いましたよね。
学校というところは、時々大切なことを教えてくれることがあるので侮れません。

時制の厄介なところは、日本語と英語が必ずしも同じでないことです。
例えば、「SAPシステムが稼働しました」と日本語では過去形っぽく言うところを、英語では “The SAP system goes live” と現在形で言います。

過去形と現在完了形も混同しやすいです。
日本語で「上期の目標が達成されました」と言うと過去形っぽいですが、英語では ”The 1H target has been achieved” です。

イギリス人が過去形を使うときは、「いつのことなのか」をはっきりさせたがるので、明確に過去を表す副詞とセットで使われることが多いのです。
例えば、last year, a couple of months ago, yesterday などです。

現在進行形と現在形も要注意です。
「お返事をお待ちしています」は ”I look forward to your reply” です。
"I am looking forward to your reply" は間違いとまでは言いませんが、素人が書く英文です。

お気づきかもしれませんが、ビジネス文書で使われる英語というのは、ほとんどが現在形と現在完了形なんですね。
そりゃそうですよ。過去の話をしてもしょーがないし、電話のような同時性のコミュニケーションではないのだから動作が進行しているのは変です。
「プロジェクトが進行しています」と言いたかったら、”The project is in progress” なのでやっぱり現在形です。進行形ではありません。

イギリス人は絶対に時制を間違えません。
逆に拙いビジネス英文は、過去形や現在進行形が多用されているものです。

ところで、中国語には時制という概念がないそうです。
彼らが何年たっても英語がうまくならない理由のひとつかもしれません。

自動詞と他動詞を完璧に使い分ける

これも学校で習いましたね。

自動詞は、目的語を伴なわない第1文型(S+V)
他動詞は、目的語を必要とする第3文型(S+V+O)

動詞を使うときには必ず、それが自動詞なのか他動詞なのかを意識するようにしましょう。自信がないときは調べるべきです。

基本的には、「~を」と続く動詞が他動詞なのですが、よく使う動詞にも曲者がいるので注意が必要です。

例えば、inform は「~に知らせる」なのに、他動詞です。
~の部分には人がきます。
Please inform him. (彼に知らせてください)
「~を知らせる」と言いたいときは、前置詞 of が必要です。
Please inform him of the outcome. (彼に結果を知らせてください)

Please inform the outcome to him.
と書いてしまう人がけっこういますが、これは誤りです。

逆に、「~を」なのに自動詞という曲者の代表格が wait でしょう。
「~を待つ」は、前置詞 for が必要です。

また、自動詞は目的語をもたないので、受身形にはなりえません。
The shipment will be arrived next week.
などはよく見かける間違いです。

こういう間違いをしてしまう人は、そもそも自動詞・他動詞という区別がないと思われますので、基礎から文法をやり直したほうがいいかもしれません。

ライティングの達人への道。最終章は冠詞

動詞、前置詞、接続詞、関係代名詞など、英語にはいくつかの難関がありますが、最も奥が深いのは冠詞かもしれません。

要するに、a なのか、the なのか、何もつかないのかの 3択です。
簡単そうですが、じつはこれがなかなか難しいのです。
イギリス人でも間違えるくらいですから。

低レベルな英文の典型とは、冠詞を無視している、つまり名詞に a も the もついていない文章です。
ドイツ語を学ぶとわかるのですが、すべての名詞には冠詞が必要なのです。
それは「格」を表すためです。
日本語で格を表すのは助詞です。
ドイツ語ではそれを冠詞が担っているのです。
で、英語はというと、語順が格を表す言語なので、冠詞の役割が薄れて、なくても意味が通じるようになっています。だから軽視されるのでしょう。

しかしさすがにイギリス人は冠詞を重視します。(間違える人もいますが)
そこに教養の差が表れるからでしょう。

冠詞を正しくつける(またはつけない)ためには、2つのステップを踏むのがわかりやすいでしょう。

ステップ1:  the の要否を判断する

これも学校で習ったはずですが、名詞に the をつける必要があるのは以下のケースです。

1) 特定の事物を指す場合
2) 語法的に決められているもの(the best, in the morning, play the guitar)
3) 世界に1つしかないもの(the moon, the internet, the US president)
4) 固有名詞(the Netherlands, the Bank of Japan, the White House)

2)~4) は覚えるしかないので、まあよしとしましょう。
問題は1) ですよね。
人や物だと比較的わかりやすいです。
一般的な(誰でもいい)男の子は a boy
特定の(今そこにいる)男の子は the boy

これが抽象概念になるとちょっと迷います。
例えば、「リスク」という言葉(概念)。
「よくわからないけどなんらかのリスクがある」と言いたい場合は、a risk でしょうね。
「株価が下がって損失が出るリスク」とまで特定して話していれば、the riskでしょう。

感覚に近いものがありますが、迷ったら、「なんらかの、どこにでもある」というニュアンスを出したいときには a を、「特定の、限定された」というニュアンスを出したいときには the を選べばいいと思います。

ステップ2:  the がつかない場合、可算名詞で単数の場合に a をつける

可算名詞とは数えられるものです。これの判断が厄介ですね。
物か概念かで判定できるとは限りません。
物でも、water は不可算名詞。水を「1つ、2つ」とは数えませんから。
概念でも、先ほど例に挙げた risk は可算名詞。「3つのリスクがあります」とか言いますからね。

実際に数えてみるしかないのかなあ(👈 ややギブアップ気味)

単数か複数かというのも、意外に重要です。
とくに日本人は、複数に s をつけるという考え方に馴染みがないせいか、何でも単数表記してしまう傾向があります。

可算名詞は複数で語ることが多い、と覚えておくといいでしょう。
例えば、「飲み終わったら紙コップを片付けましょう」と言いたいなら、
“Tidy up your paper cups when finished”
オフィスに紙コップが1個だけとか普通ありえませんからね。

最後にもうひとつだけ。
2つの単語を繋げて1つの名詞のように扱うことがありますよね。
例えば、information system(情報システム)みたいに。
information(情報)は不可算名詞なので、a (an) をつけてはいけません。
しかし、system(コンピュータシステム)は可算名詞なので、information system で1つの名詞になったら、an information system と書かなければいけません。
このときの information は形容詞のようなもので、system が名詞になりますから、a をつけるかどうかは system を見て決めなければなりません。

書く力がつくと、話す力もついてくる

さすがに疲れてきました。

見出しのとおりです。わかりますよね?

え? わかりませんか? なぜ書く力が話す力に影響するのかって?

じつは、私もわかりません
経験がそう言っているだけなので。

書くときと話すときとでは、脳の違う部分を使っているような気もします。
ただ、日本語でもプレゼンが苦手な人は、話す内容(全文)をスクリプトとして文章に起こす(書く)作業をすることで、見違えるようにプレゼンがうまくなるようです。

私たち日本人は、書く ⇒ 話す という順序で言葉を磨くのが合っているのかもしれませんよ。

(追記)
海外で上を目指す人が必須とする「高度な英語力」とはどのくらいのレベルなのか、英語力シリーズの序章として書いています。

(追々記)
第3章。初級者が話すスキルを 1レベルアップさせるための、"はじめの一歩" とは何か、テクニカルとマインドの両面で考えてみました。

第4章。英語を話すときの頭の使い方の提案です。日本語で考え、素早く英語に変換する。最もシンプルな文型を使って、端的に話すべし。