中国化で、香港人が最も恐れること
中国が香港国家安全維持法を施行し、日本の新聞が「香港は死んだ」と 1面に掲載して 1年がたちます。
この間、デモや集会が禁止され、民主活動家が相次いで逮捕・投獄され、民主派の議員が一掃されました。
香港の ”中国化” については、欧米を始めとする世界中の世論が歴史的大事件とみて注目しています。
日本のメディアは、事の重大さに気づいていないのか、中国共産党に配慮してか、驚くほど小さな扱いでしか報道していないようです。
私は、香港で働く日本人として、職場にいるごく普通の香港市民から聞いたホンネを日本の方々にお伝えしたいと思います。
言論の自由、報道の自由が死んだ
7月 1日。
この日は、UKが香港を中国に返還した記念日で、香港では祝日です。
祝日?
この日を “祝う” 人間などいません。
2019年 6月の大規模な民主化デモから、それまで平和だった香港は戦場と化しました。
この戦いが悲惨なのは、民主派 vs 体制派、香港市民 vs 香港警察というかたちで、同胞同士が憎み合い、殴り合い、殺し合っていることです。
先月、日本語を話す親日家として日本でも有名な周庭(アグネス・チョウ)が、7ヵ月の獄中から生還しました。
げっそりと痩せた無言の帰還に、多くの香港市民がショックを受けました。
拷問を受けて洗脳されてしまったのか、再逮捕を恐れて何も話せなくなってしまったのか、いずれにしても、すっかり牙を抜かれて廃人にされた印象でした。
先週、アップルデイリーという香港で非常にポピュラーな民主派新聞が廃刊に追い込まれたことは、国際世論だけでなく、香港市民にも大きなショックを与えました。
私の職場でも、まさかあの大衆紙が・・・と驚きを隠せない人たちがいました。
2021年の 7月 1日は、例年では考えられないほど、デモも集会もほとんど見られませんでした。
警察がコロナを理由にデモ・集会を禁止しているから、と表向きには報道されているようですが、本当の理由は 1年前に施行された「国家安全維持法」により、デモや集会を開いたら周庭やアップルデイリーの関係者らのように即逮捕・投獄されるからです。
この日、大規模なデモはなかったものの、一人の香港市民が警官を刺した後、自分の心臓を刺して死にました。
一市民が命と引き換えの抗議行動を示したことを、日本のメディアは伝えたのでしょうか?
「国家安全維持法」とは簡単に言えば、国家が一般市民を、誰でもいつでもどんな理由でも逮捕して投獄できる(最高刑は無期懲役)という、やりたい放題の法律です。
人を人とも思わない国家の万能の凶器。
現代人の常識からみれば、その法律の存在自体が違法と言えます。
ちなみに、この法律は香港人だけではなく、世界じゅうの人間に適用され、世界のありとあらゆる場所で適用可能、という建て付けになっています。
ここまでくると意味不明ですね。
いつから中国共産党は地球政府になったのでしょうか。
香港人が最も恐れることはみんな同じだった
香港人同士がホンネを言えなくなりました。
同胞同士の戦いですから、うっかりホンネを漏らしたら政治的立場の異なる者に殴られるかもしれないし、警察に密告されて即逮捕となりかねません。
私は職場で “信用できる日本人” という評価を得ているので、香港人同僚たちは私にはホンネを話してくれます。
私が話を聞いたのは、政治的に中立の立場の香港人 6人です。
その一部を紹介したいと思います。
知り合いが UK やカナダに移住したって話を聞くようになったね。
私は経済的に無理だけど(笑)
ただ、子供たちだけでも移住させたいとは思うね。
香港の学校がヤバいことになっていくだろうから。
まず、社会科 (Social Studies) の授業が変わるよね。
愛国教育という名の、共産党への忠誠が義務付けられるでしょ。
自分の子供が学校でそんな教育を受けると思うとゾッとするわ。
私たち大人は平気なんだよね。今さら共産党のプロパガンダには騙されない自信があるから(笑)
問題は、子供たちだよなあ。
香港の学校は、いろんな考え方があることを教えて、何が正しいか自分で考えさせるんだ。
でも、中国化したら変わるよね。
一つの “事実” しか教えなくなる。事実でもなんでもない “事実” をね。
じつは、だいぶ前から学校の語学教育が変わってきてたのよ。
英語を教えない学校が増えた。
広東語は母語だから当然教えるけど、マンダリンも教えるようになった。
それでも、親は英語が大事だってわかってるから、子供には英語を学ばせる。おかげで、香港の若者は広東語、マンダリン、英語を流暢に話せる。
でも、中国化したらマンダリン一色になるでしょ。英語は禁止されて、ヘタしたら広東語も禁止されるかもね。
自分の子供が広東語を話せないとか、ちょっと勘弁してほしいわ。
人間の時代、多様性の時代に、独裁政治とか情報統制なんてありえない。
Google も Facebook も YouTube も見れない生活なんて想像できない。
私たちはすでに知ってるからマシかもしれない。
でも、まだ世界を知らない子供たちに、何も見せない、何も知らせない、そんなことがあっていいのか?
親ってやつは、子に自分を超える人間になってほしいと願うものだ。
子が自分よりはるかに退化するのを我慢できる親なんているかい?
真実を知ってしまってる人間に知らない状態に戻れって言われてもね(笑)
私たち香港人は、中国共産党の真実を知っている。
文化大革命。天安門事件。数々の民族浄化(ジェノサイド)。
中国人は何も知らされていないよね。
だから、香港人に中国人になれってのは無理な話なんだ。
でも、子供たちは違う。
まだ何も知らないからね。だからきちんと真実を教えなきゃいけないんだけど、中国化したら、「教えてはいけない」ってなる。
私が子供に天安門事件について語ったら、「パパは嘘つきだ!」って言われるの、想像してみてよ。
香港は中国の一部だっていうのはわかってる。
でも、香港人は香港人なんだよね。中国人ではない。全然違うから。
たぶん、中国人は統一の基盤を “民族” だと思ってるんじゃないかなあ。
私たち香港人は、”カルチャー” だと思ってる。
カルチャーをつくるのは教育だよね。
私たち大人が香港人のカルチャーを維持しながら、子供たちには中国人のカルチャーを植え付けるなんて・・・
世代間で戦争起こす気かよ。
人類に対する最も凶悪な犯罪
歴史を少しでも学んだ人なら、人類が過去に残虐非道な蛮行をさんざん繰り返してきたことを知っているでしょう。
先住民を殺し、異民族や異教徒を殺しまくってきたのが人類の歴史です。
私がとりわけ恐ろしいと感じるのは、時の為政者が自国の民を殺しまくった事実です。
異民族を ”夷狄” として、人間とみなさない中華思想。
異教徒は殺してもいい、と教えていたっぽい一神教。
こういうのは今さら驚かないわけですよ。そういう時代だったってことで。
でも、同じ国の無辜の民を、その国の指導者が大量虐殺するというのは、もうわけがわかりません。
世界史上、最も多く人を殺した人物ランキングだそうです。(殺した数)
第 1 位 毛沢東 (6,000 ~ 7,800万人)
第 2 位 スターリン(2,000 ~ 2,300万人)
第 3 位 ヒトラー (1,100 ~ 1,700万人)
殺した人数は出典によってバラツキがありますが、このトップ 3 とその順位は不動のようです。
民衆殺戮、すなわち政権が丸腰の自国民を大虐殺することを "デモサイド” (democide) というそうです。
デモサイドは中華王朝のお家芸です。
秦、唐、元、明、清、中華民国、そして中華人民共和国。
どの王朝・政権も民衆を殺しまくりました。もうメチャクチャです。
中華王朝=漢民族の国家とはかぎりません。
元はモンゴル人の国。清はツングース系女真族の国です。
しかし、そもそも元のあたりで漢民族がモンゴル人に根絶やしにされている可能性も含め、かの地を「民族」で語るのはナンセンスでしょう。
例えば、毛沢東のルーツが漢人なのかモンゴル人なのか満州人なのかはどうでもいい。
中華思想とは、中心に中華民族(=人間)がいて、その外縁にその他民族(人間と非人間の中間)がいて、さらにその外縁に動物(非人間)がいると考える、極端な選民思想です。
だから、異民族を殺しまくるのは、中華思想に適った行為です。
しかし、同胞(慰撫すべき民)まで殺しまくるのですから、そんなのは思想でもなんでもない。
香港人同僚が淡々と語ってくれました。
毛沢東が文化大革命で何人の国民を殺したか。たった50年前のことだ。
中国人はそんな最近の出来事も知らされていない。
それどころか、毛沢東を建国の父として敬愛するように教育されている。
香港が中国化して、私は殺されたっていい。
私の子供も殺されるかもしれない。それも仕方ない。
でも、もっと耐えがたいのは、私の子供が間違った教育を受けて大人になっていくことだ。
そして、私の子供の子供の代には、まったく私の知らない人間ができあがっているだろう。
そうなったら、私の人生は何だったんだって思う。
未開の新興国が存続するものか
私は、地球上で中華の王朝・国家だけが野蛮だったと言うつもりはありません。
人類はほぼ例外なく野蛮だったのです。
人の命を何とも思っていなかったのです。つい20世紀の後半まで。
つい最近まで野蛮だった人類が、急に人権だの人道だのと言い出したのです。
急にそんなこと言われても、中華人民共和国はついていけませんよ。
4千年もの間、異民族も同胞も殺しまくってきた王朝の継承者ですよ。
そんな未開人が新しい国家を建てて 70年しかたっていないのですよ。
その国家は一党独裁で、国民に無知と思考停止を強いているのですよ。
彼らからしてみれば、キレイごと言ってんじゃねーよ、と言いたくなるでしょうね。
もう明白ですよね。
中華人民共和国がどうなるか。
存続するわけがないのですよ。
存亡を繰り返してきた中華国家で、失政が必定の共産党独裁なんですよ。
ダブル役満じゃん。
それゆえ世界の首脳たちは意外と落ち着いているのかもしれませんね。
自滅を待てばいいわけですから。
一番かわいそうなのは、中華の人民たちです。