ヨーロッパ・ファミリー
先日、山下さんというスイスに長年住んでいる日本人男性と飲んでいたときのこと。
ヨーロッパについて他愛のない話をしていて山下さんが言った。
「なんかヨーロッパの国って、仲の悪い兄弟みたいだな」
私「ケンカばかりしてますよね」
山下「でも共通の敵が現れると兄弟みたいに団結するんだよね」
共通の敵とは、ロシアだったり中国だったり、アメリカだったりするのだろう。
私「ヨーロッパの国たちが兄弟だったら、長男は・・・」
山下「ドイツだろうな」
長男はドイツか。
ヨーロッパ随一の人口、経済力、技術力を誇り、何をやらせても最強というイメージがある。ケンカも強い。
いわば・・・
私「ラオウですか」
山下「ラオウだね」
または、ひとつ屋根の下の江口であり、ゴッドファーザーのソニーである。兄弟の大黒柱的存在といったところか。
「スラムダンクで言えば、赤木ですかね」
「湘北は兄弟じゃねーだろ(笑)」
「長女はフランスで決まりでしょうね」
「うむ。満票でフランスだね」
長女フランス。
その圧倒的な風格と威厳によって、誰もが震え上がる不気味な存在である。
普段は長兄ドイツの顔を立てて淑女然としているが、事が起こったときには真打ち登場とばかりにオモテに躍り出てくる。
弟・妹たちはひそかに思っている。
(兄ちゃんは強くておっかないけど、本当に怒らせたらヤバいのは姉ちゃんのほうだ)
「ザビ家で言えば、キシリアですか」
「長男より恐ろしい長女だな」
長女ポジションは、キャッツ・アイの泪であり、若草物語のメグでもある。
次男はどの国だろう。
次男と言えば、偉大な長男とは対照的に、ヘラヘラして世の中ナメきってる根性なしのマザコンと相場が決まっている。
「次男はイタリアにしますか」
「・・・なんで?」
「マザコンっぽいじゃないですか」
「なるほど。じゃあイタリアだな」
ゴッドファーザーで次男はフレド。
ハマりすぎてて怖い。
次女は重要である。
次男を頼りない国にしてしまったので、次女はしっかり者でなければならないのだ。
長男ドイツと長女フランスが対立したときに、間に入って仲裁できるほどの調整能力とバランス感覚をもつ国とは・・・
「次女はドイツとフランスの仲裁役にしましょう」
「じゃあルクセンブルク」
「そうですね」
山下さんは、私が以前ルクセンブルクに住んでいたことを知っていて配慮してくれたのだろう。
次女は、兄と姉の間をとりもつだけでなく、長女と三女の間に挟まれる立場である。厳格でコワい長女と、いい加減でナマイキな三女の間で、調整役を引き受けているうちに、いやでもバランスのとれた人格者になってしまったのだ。
(あの家は次女でもっている)
と、世間はひそかに評している。
さて、もうひとり重要なのは三男である。
末弟として甘やかされて育ってしまったため、世間知らずの放蕩息子なのだが、次男はもちろん長男をも超える大器でなければならないのだ。
なぜならば、ケンシロウも、ゴッドファーザーのマイケルも、跡継ぎの運命を背負っていたではないか。
「三男はオランダがいいと思います」
「それはなんで?」
「万が一長男ドイツが死んだ場合、跡を継ぐ実力がありますから」
「長男よりクレバーかもな(笑)」
「この兄弟にスイスはいないのかね」
と山下さんが言った。
「スイスは三女ですよ」
「三女はどんなキャラなの?」
「血はつながってるけど、誰ともつるまない才女です」
「スイスだね」
三女スイス。
家に寄りつかず、我が道を行く。兄弟仲が悪いわけではない。ただ集団行動が苦手で、独自の才があるため、兄や姉たちとは距離を置いている。
ファミリーから距離を置くことで、敵対勢力等ファミリー外にネットワークを有するなど、無二のポジションを築いている。
「あと、養子がいますね」
「養子?」
「血はつながってないけど、ファミリー内に食い込んで意外と強い発言権をもつ存在です」
「UKか」
そう、ゴッドファーザーのトム・ヘイゲンである。
策略と外交に長け、ファミリーの相談役として重鎮ヅラしているが、血で結ばれていないためか、しばしば裏切り者の疑いをかけられる。
「このファミリー、団結できる気がしないんですけど」
「どいつもこいつもアクが強いからねぇ」
「前に出たら叩かれるし、後ろに下がるとどやされるし」
「結局、つかず離れずのスイスと UKが賢いのかもね」