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桜色のオレンジ
「こっちの方が早いよ」
歩道橋の方を指す女の子。
「ん?……こっちの方がいいよ」
信号のある下道に向かう男の子。
ああ、いいなあ、いいなあ。
暗い田舎の夜にきらめく、学ランのボタンが眩しい。
最寄りの駅へ向かう道は、田舎にしては広い道で車通りも多く、信号待ちもそこそこ長い。
近所の中高生は当然それを知っていて、信号がすぐには変わらないと分かると、ぞろぞろと歩道橋を上っていくのがお決まりだ。
わいわいがやがや連なって歩く、黒アリみたいな学生服たち。
ひとり音楽を聴きながら歩くセーラー、
後ろ向きで喋りながら歩いて足がもつれるブレザー、
何を思ったか急に全力疾走し出す学ラン。
夕方4時頃の黒アリたちは大体そんなのばかりだ。
ところが夜の時間帯、歩道橋がオレンジの街灯に染まる頃になると、初々しい男女2人組が格段に増えてくる。
腕を組んだり手を繋いだりはしていないけれど、お互いの高揚感とか緊張感みたいなものがふわっと香ってきて、すれ違う疲れた大人は「あ、」と思う。
「あ、わたしは空気にならなければ、」と。
存在感を消して心持ち穏やかな表情をつくって、なるべくやわらかい空気として通り過ぎる。
ああ、いいなあ、いいなあ。
信号待ちは、少しでも長く一緒にいるための言い訳。
オレンジの街灯に照らされて顔色は見えないけれど、たぶん、2人とも桜色の頬をしていた。
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