成人発達理論をベースにしたレクティカの発達測定LDMAを体験してみた
※2023年5月22日加筆修正(5735字→8276字)
アメリカのレクティカ(https://lecticalive.org/)という機関が行っている成人発達理論をベースにしたアセスメント(LDMA)があります。私自身が2022年3月にこのアセスメントを受け、結果とフィードバックを得ました。
このnoteでは、そのLDMA(Lectical Leadership Decision Making Assessment)について解説します。
LDMAの概略とアセスメント項目の全体像
LDMAは「Lectical Leadership Decision Making Assessment」の略で、リーダーとしての意思決定力を測定するアセスメントです。
レクティカのいうリーダーシップの意思決定力は、各種研究やAIでの分析の結果、以下の3つで定義されています。
①認知と思考の複雑性(complexity)
①認知と思考の複雑性(complexity)は、私たちが世界をどれだけありのままに理解し、それをどの程度把握できているかを示します。
意識の発達段階・認知の発達段階を表しているとも言えます。
わかりやすく表現すると、私たちの世界や現実を捉える「目」がどのぐらい機能しているのか?を示すものです。
LDMAでは「認知と思考の複雑性(complexity)」を4つのレベルに分解しています。
①後期線的思考(Advanced linear thinking):物事を直線的かつ分解して考えるスキルです。複雑性(complexity)というより、煩雑性(Complicated)を扱うスキルになります。
②早期システム思考(Early system thinking):物事を直線的にだけではなく、全体の視点を保ち、考えるスキルです。早期というのは、小グループの中での全体という意味で、捉えられる幅を示しています。
③後期システム思考(Advanced system thinking):②がさらに成長したものです。捉えられる視野の幅が広がり、グループ同士における全体も含めて捉えられるようになります。
④早期原理思考(Ealry principles thinking):物事の複雑性を理解し、それらを結びつける原理を把握するスキルです。
LDMAでは、この4段階の中で自分がどの段階にあるのかが示されます。
日本でもよく知られるロバート・キーガンや、日本語でも論文が訳されているスザンヌ・クック・グロイターの発達測定は、この部分にフォーカスした発達測定です。
②考えを明瞭に示すスキル(明晰性:clarity)
明晰性は以下の4つで構成されています。
①議論を構成するスキル(Frame arguments):議論を一定の枠組みで構成をするスキルです。論点を設計する力と言ってもいいかもしれません。
②明確に議論をするスキル(Make clear arguments):情報をわかりやすく整理しつつ、議論を進める力です。
③アイディアを論理的に結びつけるスキル(Connected Idea Logically):複数の情報を論理的につなげて、結びつけて考える力です。論理的なつながりを見出す力と言えそうです。
④説得力のある議論をするスキル(Makes persuade arguments):情報を整理した上で、それを説得力ある形にまとめる力です。
LDMAでは、4つのスキルそれぞれの成熟度が示されます。
③人を効果的に巻き込むスキル(リーダーシップ:VUCA Skills)
VUCA Skillsは大きく4つに構成されています。
①文脈思考力(Contextual thinking):現実や世界を理解し、捉えた上で、それらをどの程度考慮に入れて意思決定できるかを示すスキルです。
たとえば、出来事の直接的な状況を捉える力、関係する個人または集団の文脈や世界などのより広い範囲の文脈を理解する力、文脈同士の文脈を把握する力などを見ています。
②視点調整力(Perspective coordination):現実の中で意思決定をするにあたり、関連する視点を特定したり、複数の視点を統合して意思決定を行うことができるかを示したスキルです。
たとえば、主要なステークホルダーを特定し、それぞれの視点を明確にするスキル、多様な視点を活用して状況をより完全に理解するスキル、複数の視点を活用して代替案を生み出すスキル、複数の関係者を共通の目的に沿って調整するスキルなどです。
③意思決定プロセス力(Decision-making process):意思決定のプロセスにおける成熟度を示すスキルです。問題の原因を特定する、その意思決定における目的・ゴールを設定する、情報の収集と評価を行う、意思決定プロセスにおけるツールを活用するスキル、意思決定の結果を適切に評価するスキルなどです。この点は、論理的思考に重きが置かれている印象があります。
④協働力(Collaborative capacity):他者と協働していくためのスキルです。これは世間で言われているリーダーシップ能力と言われているものと大きくは変わらないと捉えています。具体的には、多様なステークホルダーの共通の利益を見出した上で、働きかけるコミュニケーションスキル、自分の立場だけを主張するのではなくて、相手の利益もふまえた上でより良い意思決定に導くスキルなどです。
LDMAでは、これら4つの能力の自分のスコア、現時点で可能なこと、次なる成長ステップ、次のステップに向かうため実践方法が詳細に記述されています。
各アセスメント項目のさらなる詳細に興味のある方は以下リンク先のGoogleスライドをご覧ください。(https://lecticalive.org/about/ldma#gsc.tab=0)
LDMAの特徴は、これらのスキルを単純に「できる」または「できない」とレベルで測るだけでなく、それらのスキルがどの意識レベルで使用されているかを明らかにすることです。つまり、それぞれのスキルが、どのような思考過程を経て行動に結びついているのかを評価するのです。
以上がLDMAの内容とアセスメント項目の紹介です。次に、私がLDMAを受け、フィードバックを受けるまでの流れを共有します。
LDMAを受けるまでのプロセス
大きく分けて3つのプロセスがあります。
この3つのプロセスを最速でやろうと思えば1か月ぐらいで完了できるかもしれませんが、3か月ぐらい掛けて進めていくと日常生活の中でもこなせるかなと思います。1か月は集中的に取り組めるとしたらという特急プランのようなものですね。
アセスメントは本来英語ですが、
以下を経由すると日本語でのサポートがもらえます。
なので、最初から英語で回答できる人は直接レクティカへ、日本語で回答したい方は人Integral Vision & Practiceのサポートを得ると良いと思います。必要であればご紹介してお繋ぎしますので、私までご連絡をいただければ幸いです。
なお、翻訳する場合は費用が別途掛かりますので、総額で30万円~40万円ぐらいになります。(2023年追記:現在では為替レートや物価上昇などで価格の変動があるかもしれません)
LDMAの重要な思想:発達段階そのものを直接向上させることはできない
LDMAの重要な点として、発達段階の捉え方があります。
LDMAを開発したレクティカは、発達段階を直接向上させることは不可能で、それは具体的な行動と実践を通じて自然に進化するという考え方を採用しています。
したがって、LDMAでは発達段階のスコアが直接的に示されるのではなく、上に書いたように、自分の思考の明晰性×発達段階、他者を巻き込むスキル×発達段階が掛け合わされたものがフィードバックされます。
個人的な感覚としてはレクティカの思想にはおおむね共感しています。
自分自身を振り返ってみても、コミュニケーション力を高める実践の中で内省する視点が身に着いたり、本当に自分の心の底を明らかにする体験を経て、自分の捉え方や人間関係が大きく変わるような体験をしてきたからです。
ただ、人の存在そのものに働きかける実践はあることにはあり、僕も体験していて効果は感じているので、そのようなアプローチを必ずしも否定しなくてもよいと感じています。(こちらのような実践は、今回のようなフィードバックや他者に要請されて取り組むものではなく、あくまで自分の意思で取り組むものと考えています)
他のアセスメントとの違い①:意識段階の測定が可能
実はスキル定義だけでみれば、LDMAのスキルセットは必ずしもユニークなものではありません。似たようなスキルを測定するアセスメントはたくさんあります。
では他のアセスメントとLDMAの違いは何か?
大きく分けて2つあると考えています。
(1)については既に触れたので、ここでは省略します。
(2)についてですが、LDMAでは自身がとある組織のリーダーとして、論理的に分析するだけでは判断が難しい場面が提示され、どのような決定を下すのか、その思考プロセスはどのようなものかなど、5つ程度の問いに対し、それぞれ1000文字~2000文字程度の文章で回答します。総論述は、1000文字~2000文字程度×5問=5000文字~10,000文字程度の論述ということになります。
これは体験してみるとわかるのですが、まず、お題は何か特定の正解があるようなものではありません。あちらを立てればこちらが立たないというような極めて迷う・悩むお題です。
回答期間は目安はあるものの明確な締め切りがあるわけではなく、実際に僕の場合は全体で1か月、実質的には1週間程度で取り組みました。その範囲内であればどれだけ時間を使ってもいいし、何か調べたりすることも制限されません。実質的に時間制限は無いと捉えてよいと思います。
大学の持ち込み可の試験で、時間制限がない版と考えるとわかりやすいです。
つまり「時間がない」「ケースに書かれている問題への知識がない」といった言い訳が通用しないのです。(ちなみにお題も複数から自分にフィットしたものを選ぶことができるので、お題が自分と合わないという言い訳も使えませんw)
なお、できうる対策としては、複雑な状況下における意思決定の実践を積んでリフレクションをする、以外にはあまり無いと思います。身もフタもないですが、それだけごまかしが効かないと言えます。
このプロセスを経ることに加えて、緻密な分析による結果が返ってくるので、必然的にレポ―トの納得性は高くなります。
一方で、自己診断を用いたものや360度フィードバックは、それぞれどうしても緻密さへの限界があります。その限界が、結果を受け入れられない、反発したくなるなどの反応を起こしやすいと考えています。
実際にLDMAのフィードバックを受けている最中は、結果に反応するでも反論するでもなく、ほぼ心が揺れずに「まあそうだよね」と極めてフラットに受け止められました。
他のアセスメントとの違い②:アセスメントの領域が深く、精度も極めて高い
ただ、成人発達理論をベースにした他のアセスメントでも、LDMAのように自分の著述や文章から測定する手法が用いられています。
これらのアセスメントとLDMAの決定的な違いは、意識段階を測定するものか?スキルレベルを測定するものか?というところにあります。
LDMA以外のアセスメントは、LDMAではフィードバックされない意識段階の測定が可能ですが、実際のパフォーマンスレベルを測定するものではありません。
成人発達理論を実践で活用していく中で多くの人がぶつかる壁ですが、意識段階が高いからと言って、パフォーマンスも高いかというと、必ずしもそうではありません。
意識段階が高いからと言ってパフォーマンスも高いとは限らず、そのため意識段階だけを示されても、パフォーマンスをどう上げればいいのかという具体的な解答も示されません。
一方で、LDMAは「考えを明瞭に示すスキル」「人を効果的に巻き込むスキル」など具体的なパフォーマンスレベルがフィードバックされます。なので、仕事の場面への置き換えもやりやすく、具体的に何が必要なのか?も掴みやすいです。
先述したようにLDMAとて万能ではなく、人のすべてを明らかにするわけではなく、あくまで複雑性に対応できる意思決定スキルをどの程度発揮しているのか?に関するフィードバックです。
なので、本来的には多様なアセスメントを受けると、より自分の全体像が見えやすくなるはずですが、現時点でどれか一つしか受けられないとすれば僕はLDMAをお勧めします。
仕事への応用や人生における活用など具体的な実践を念頭に置けば、緻密で実践的なLDMAの方が活用しやすいと考えられるためです。
LDMAを受けてみての感想
①フィードバックを受けても、ネガティブな感覚を引き起こさず、納得感を持って結果を受け入れられる
レポートにはスキルレベルが数値で示されたり、今のスキルレベルでできること、これから必要なことが示されます。
通常この手のレポートを読むと少なからずショックを受けたりするものですが、こちらも先述のようにLDMAの場合、一つひとつの内容が「その通り」という感じなので、疑ってかかるでも鵜呑みにするでもなく、反応したり反論する気があまり起きず、理解が進むといった感じでした。
なので、人によってはフィードバックのプロセスは淡々したものと感じるかもしれません。
これは一見インパクトが薄そうに感じられますが、行動変容といった観点ではボディーブローのようにじわじわと効いてくると考えています。
フィードバック自体を受け入れられないと、そもそも行動を変える気にならないからです。
特にこの手のフィードバックに慣れていない人(ほとんどの人がそう)からすると「受け入れやすいアセスメント」「優しいフィードバック」と感じるかもしれません。
LDMAを受けて、気持ちが穏やかになる、心が落ち着いたといった感想を抱く方もいるらしく、その背景にはこういったものが作用しているのかもしれないと思います。
僕もそことなく落ち着くというか揺れが収まるような感覚がありました。
②ビジネスでの応用可能性はかなりありそう
成人発達理論を扱う中でどうしても出てくるのが「じゃあ具体的に何をしたらいいの?」という問いです。もちろん発達理論の研究が進む中で、各段階ごとに効果的な実践というものが徐々に明らかにされていますが、特に高次の段階になればなるほどマニアックになっていき、一般向けではないなと感じています。
その点、LDMAの場合、次のステップに進むための実践が現実的・具体的なものが複数提示され、学習リソース(動画や文章)も提供されるので、その中から自分がトライしてみたいものを選べるようになっています。
なお、スキルレベルはAI(部分的にアナログ)で判定されているとのことですが、提示されるアクションはレクティカとフィードバッカーの方で話し合いながら選択されるとのことです。
また、LDMAでは、統計的に見出された今後の成長可能性もフィードバックされます。つまり、この後自分がどの程度成長する余地があるのか、統計的な分析結果がわかります。
詳しくはリンク先のレポートのP28(https://lecticalive.org/about/ldma#gsc.tab=0)を参照してほしいのですが、縦軸がスコアで横軸が年齢です。
あくまで統計上のものなので、これだけを選定基準にするのも危ないとは思いますが、少なくとも認知や思考の複雑さといった点において伸びしろのある人材は誰か?を把握する材料の一つとしては活用できるかもしれません。
リンク先のグラフ推移をみると、中年期以降は成長が緩やかになる傾向が高まっていきます。
もちろん早期に成長が止まる人もおり、全てがそうだとは言えませんが、やはりある程度早い段階(10代から40歳ぐらいまで)から長期的に成長を試みることが人材育成の観点からは重要と言えそうです。
ただ、やみくもな早期育成は、発達に逆効果とも言われており、この2つの考え方を統合してみると、「早期からゆっくりとしたペースで実践を続けること」が効果的と言えるのかもしれません。
発達に関しては「slower is better」と言われるのもこういった背景も理由の一つにあると言えそうです。
③とはいえLDMAが万能かつオールマイティというわけではない
先述のようにLDMAは発達段階やその人のあり方を示すものではありません。よって中にはあまりインパクトが無かったと感じる人もいるようです。
また、個人的な経験からも、あり方やBEINGの探求は決して無駄なものではなく、効果や効能がすぐには現れないものの、BEINGの領域を軽視するのではなく、両方に取り組むこと、両方を統合させていくプロセスが重要と考えています。
よって、BEINGを中心に見るアセスメントと、スキルの成熟度を観るLDMAを共に活用できるのが望ましいと思っています。
今後の実践に向けて
フィードバックを受けた後に感じたことですが、そのあとの実践は一人ではなく複数人のチームでサポートし合いながら取り組むと良いのでは?と感じました。というのも、現状の自分だと、ちょっと荷が重いかもと感じるスキルを複数提示されるからです。
また、実践プランはレクティカの提唱している学習プロセスに沿って提案されており、このプロセスをすべてのスキルで進めようとすると、1年ぐらいは要しても良い分量になります。
このように、ある程度の期間、難易度が少し高めの実践を複数かつ継続的にやっていくとなると、一人だけで取り組むのは限界があるようにも思います。
この状況はLDMAを受けた人であれば、同じような感覚になると思うので、であればみんなで支え合いながら実践を進めた方が行動変容が起こりやすいし、思うような変容が起こらないときも励まし合えるのではないでしょうか。
なお、これはフィードバックの中で聞いたことですが、他者に教えることによって学習効果が高まるということもあるそうです。
なので、今後自分がLDMAを紹介していく際には複数人での実践をぜひおすすめしたいですし、僕自身もどなたかと一緒に実践を進めたいです。
かなりの長文になりましたが、最後までお読みくださりありがとうございました。
これからLDMAを受けてみたい方、LDMA受けたよ、という方とは気軽に情報交換ができればと思いますので、ご連絡頂ければと思います。
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