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「サービス赤字▲10兆円時代」という未来

需給改善で痛感する米金利の影響
1月中旬のNY出張から米大統領選挙、日銀金融政策決定会合と雪崩れ込むような日程の中、色々な仕事が同時発生しており、なかなか腰を据えた文章が書けずじまいでした。1月も最終週に差し掛かり、順次、月次統計の公表も1周しつつあります。今週は週後半にFOMC、ECBと立て続くのでまた慌ただしくなる前に、落ち着いた大きな議論をしておきたいと思います。

約2週間前となる1月14日、財務省から24年11月分の国際収支統計が発表されました。今回はこれをたたき台として、筆者が近年注目、議論を深めているサービス収支の現状と展望について大きな話をしてみたいと思います。2月には通年分が出揃い、そこで改めて同じような議論をしっかりやりたいと思いますが、1-11月分までで見えている景色を整理します。

まず、11月単月で経常収支は+3兆3525億円の黒字となりました:

しかし、単月に固執した議論はあまり意味がないですから、ここでは1-11月分の仕上がりを踏まえて議論してみたいと思います。経常収支は1~11月合計で+28兆1844億円の黒字に達しており、2007年に記録した過去最大の黒字(+24兆9490億円)を優に更新しています。しかし、2007年の経常黒字の半分以上(+14兆1873億円)は貿易サービス収支黒字であったのに対し、2024年の経常黒字は第一次所得収支黒字(+38兆9317億円)で稼ぎ、貿易サービス収支は歴史的な赤字水準(▲6兆5570億円)が続いています。いわゆる「成熟した債権国」というやつです:

が、、、拙著「弱い円の正体 仮面の黒字国・日本」を筆頭に過去のnoteでも口酸っぱく主張てきた通り、「実際の為替取引が発生するかどうか」という観点に照らせば、貿易サービス収支の方が大きな重要性を含んでいることは言うまでもありません。この点、執拗な円安相場の背景として国際収支構造の変容は無視できない、というのが筆者の従前からの立場です。もうこの点は改めてゼロベースで議論することはしません:

第一次所得収支のうち為替需給に関係しないと考えられる項目を控除したキャッシュフロー(CF)ベース経常収支は2024年1~11月合計で約+2兆円の黒字でした。2022年同期が▲9.7兆円、2023年同期が▲1.8兆円であったことを踏まえれば、円相場の需給は確実に改善に向かっています。この点は12月以降、本欄で繰り返し論じている通りです:

にもかかわらず、2025年に入っても円安相場に収束の気配が感じられないのは、需給改善と入れ替わるように米金利の再上昇、端的には「米利下げの終わり」が争点化しつつあるからなのでしょう。また、改善したとはいえCFベースが約+2兆円程度の黒字であれば、新NISA稼働に伴う投信経由の対外証券投資の大幅増加を相殺するには至りません。以下に論じた通りですが、投信経由の対外証券投資は24年通年で約▲11.5兆円で極めて大きな規模です:

しかも、年初時点ではIMM通貨先物取引に反映された「投機の円売り」は概ねニュートラルでした。結局、需給・金利の双方からファンダメンタルズに即した円安が進んでいるとしか言いようがありません

「拡大する旅行収支黒字」vs.「拡大するデジタル赤字」
過去のnoteでも繰り返し論じてきたように、今後日本の国際収支はサービス収支を中心として大きな変容に直面することが予想されます。端的には「拡大するデジタル赤字」を「拡大する旅行収支黒字」でどれだけ打ち返せるかという未来に思いを馳せることになると筆者は予想します。この点も近刊や各種コラム、動画で連呼してきた論点です。

2024年1~11月合計に関し、旅行収支黒字は既に+5兆3452億円と過去最大を記録した2023年(+3兆6314億円)を凌駕しており、年間としては前年比+2兆円増という非常に大きな段差になりそうです。しかし、これは2023年1~3月期まで水際対策を敷いていたことの反動を含んでおり、2025年こそ旅行収支の地力が試されることになります。この点、精緻な予想は難しいのですが、労働供給制約が極まる宿泊・飲食サービスを中心とする観光産業の現状を踏まえれば、「拡大する旅行収支黒字」を当然視するような風潮は2024年を最後に収束するというのが筆者の基本認識です

一方、「拡大するデジタル赤字」が旺盛な実需を反映したものと考えられ、直ぐに反転する理由は見いだせません。2024年1~11月合計に関しては、▲6兆7628億円とこちらも過去最大を更新し続けています。2023年実績が+▲5兆5194億円だったのでこちらの増加幅も非常に大きいものです:

サービス収支の長期シミュレーション
さて、、、ここから今回の本論になります。この議論を重ねてきたことで「将来的な推計についてどう考えているか」という照会を頻繁に受けるようになりました。簡単ではありませんし、精度を保証するものではありませんが、私なりに数字を練ってみました。ここからは以上のような数字を元にして2030年までのサービス収支に関し、簡単なシミュレーションをしたいと思います。また、ここではサービス収支を日銀レビュー[1]で紹介されたモノ・ヒト・デジタル・カネ・その他の5項目に分けた場合で議論します。おそらくその方が問題の所在が分かりやすいでしょう。以下詳述します:

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