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沢田研二 2022-2023「まだまだ一生懸命」神奈川県ホール 2022年8月27日 ライブ評。

沢田研二 2022-2023「まだまだ一生懸命」神奈川県ホール 2022年8月27日
 潮の香り漂う横浜。貿易港として、煉瓦造りの建物が遺り、異国情緒を醸し出している歴史を体感できる町。神奈川県庁本庁舎。横浜市開港記念会館、横浜税関……。歴史が見渡せば横溢しているではないか。そして、沢田研二さんがお住まいになっているこの地でジュリーの歌声が聴けるとは至福の瞬間であろう。日本大通り駅から、会場に向かうまで、否応にも期待は高まる。セットリストは、7/24(日)のLINE CUBE SHIBUYAでの情報を漏れ聴いていたので、名曲揃いの曲目を74歳の沢田研二がどの様に表現するのか、年々、年齢から、逆行するかな様なライブに私は毎年エネルギーと、活力を頂いている。その記録を少しでも残していきたいのである。会場に入ると、物販コーナーに長蛇の列が。長袖Tシャツを販売しているらしい。一着7,000円。後で沢田のMCでわかるのだが、コットン製で1万円で売る案もあったらしい。コンサートでもパンフ販売も無い訳で、グッズを渇望するファンの証左であろう。
 会場は様々な年齢層の女性が多いが、男性の姿もちらほら。最近は昔の映像や、YouTube。無論さいたまスーパーアリーナのドタキャン騒動で思い出したファンもいたかもしれないが、確実に新しいファンを取り込んでいる。会場は3回席まで満員御礼である。
 そして17時ごろに開演。ステージに登場した沢田研二に度肝を抜かれた。ゴーグルにヘルメット。走り屋の様な出立ちに一瞬フリーズしてしまった。スタートの第一曲目は『ジャストフィット』。井上陽水が作詞作曲した、80年代に沢田が新基軸を打ち出した頃を代表する名機である。40年もの月日を経ているのに、色褪せぬ名曲である。そして二曲目は『サーモスタットな夏』。74歳になっても攻めに攻める曲目。今回のツアーは来年の梅雨まで続くから、夏の時期に配置された曲かな。と考えてみたりする。
ここで沢田は客席に向かって話しかける。
「この蒸し暑い中、ようこそお越しくださいました。ありがとうございます!神奈川県はBA.5対策強化宣言を9月30日まで延期ということになっております。それでも旅割も9月30日まで続けるそうでございますが、そんな中、ぼくら、本当にこうやってライブをやっていていいもんか?と思っております。世間ではまだまだ流行中で、我々の身近でも感染者が出ております。幸いなことに私はかかっているのかいないのか、よくわからないという状況であります(笑)」と笑いを取り、着席で声も出せない、頑張ってライブを観れないのではないかとファンを労う。そして、ライブは続く。
そして名盤『G.S.I LOVE YOU』に収録された『I’m in blue』。佐野元春が作詞作曲した名曲。井上陽水といい、佐野元春といい、沢田研二をリスペクトして書いた曲には本当にハズレがないと改めて実感した。70年代の歌謡曲路線から脱皮した証人ともいえる楽曲である。沢田はステージを所狭しと走り回る!現役アーティスト、斯くあるべきであると改めて認識されてる。「74歳」という沢田研二の年齢がクローズアップされるが、年齢を超越した位置に彼は慄然と存在しているのである。
『greenboy』は2005年5月9日にリリースされたアルバムに収録された佳曲である。冒頭のロックサウンドの中盤のバラードのような美しい流れが印象的だ。
 そして『いい風よ吹け』である。沢田が作詞し、樋口了一が作曲した名曲である。穏やかな秋の1日を彷彿とさせる名曲である。沢田は歌詞の一部を「横浜に吹く〜」と言い換えて歌っていたが、あの東京ドームで会場に爽やかな風を吹き込んだ様な、映像を観て思ったものだが、心を穏やかにさせる、この曲をベースも加わった(東京ドームではベースなし)重厚なサウンドで聴けたのは喜びであった。
そして今回のツアー、ライブの本丸といえる名曲三曲が立て続けに演奏される。そう、『勝手にしやがれ』である。あの「ジュリー祭り」ではベースが無かったが、今回のツアーでは完全なバンド編成で、井上堯之バンドが演奏していた時代にかなり近い編成である。客席も新型コロナウィルスの影響で肉声を発することは出来ないが手を挙げて揺らしていたり、沈黙の中で多いに盛り上がっていた。そして、現在の沢田研二を構成する礎となった名曲『時の過ぎゆくままに』である。以前のツアー、『BALLED』でも演奏されたが、この時は柴山さんのギター一本。今回は久々のバンド演奏である。やはりライブでは冒頭のドラムがあると曲は引き締まる。今回のセットリストでは、『勝手にしやがれ』が先で、後に書かれた「時の過ぎゆくままに』が次という時代に争う沢田なりの矜持を目撃したような感慨にとらわれた。45年前、若かりしジュリーがヒットさせた名曲が時代を超越して会場のファンに届けられる。考えてみれば、2016年。加瀬邦彦さんが3月に亡くなり、加瀬さんの曲でセットリストが組まれた時があった。当然ながら昭和の曲が中心となる。その時に沢田研二さんのライブに初参戦してから『時の過ぎゆくままに』、『勝手にしやがれ』をバンドで聴くのが夢だった。言わば、「昭和」を象徴する2大名曲だからである。その夢が6年越しで実現した。やはり感慨深い。阿久悠先生、大野克夫先生が沢田さんに託した最高の世界観を有する曲な正当な形で鑑賞出来た。そして『時の過ぎゆくままに』では久世光彦先生の想いも込められているのだ。
 そして以前のツアーでも披露された『TOKIO 2022』。キーボードの斎藤有太氏編曲でグランジを彷彿とさせる陰鬱な印象にアレンジされたが、新型コロナ、不況で混沌とする「東京」を象徴するような一曲である。新曲『LUCKY/一生懸命』は塞ぎ込んだ人々に一縷の光をもたらす名曲である。歌詞の中には沢田研二のオフィシャルサイトで書かれた言葉が散りばめられている。そして太陽に「いつもありがとう」と感謝する優しさが改めて皆に必要なんだと沢田なりに問いかけているように思える。元マルコシアスバンプの秋間経夫が作曲した『Come on!! Come on!!』。そしてこれも夏限定の曲なのか『時計/夏がいく』。この曲が持つ奥深さを感じるようになったのは年を重ねた証拠だろうか。牧歌的で郷愁を誘う歌詞。その詞に乗る沢田研二のメロディ。普遍的な郷里への哀愁が会場に漂う。『君をいま抱かせてくれ』。これはライブでは是非聴きたかった一曲である。アルバム「HELLO』に収録されたロックチューンで、沢田は会場を所狭しと走り回る。そして本編の最後が『約束の地』である。覚和歌子の歌詞が心に染み渡る。世界が終わるとしても林檎の種を蒔くだろう…。沢田研二なりの世界が終わろうとも可能な限り歌い続ける決意表明のように私は感じた。万雷の拍手でステージは幕を閉じる。拍手は鳴り止まずアンコールを求める。
 そして、沢田研二のみでステージに登場。客席に話しかける。
「暑いね(笑)みなさんは涼しいですか?いつまでできるんやろな(笑)息絶え絶えやわ(笑)やめといたらいいのにな。皆様もご存知だとは思いますが来年の6月25日(拍手)さいたまスーパーアリーナ。そんなに変わったことはやらないですけどね。還暦の時は東京ドームで、あの時は東京ドームは無理ですと言われて。今考えるとイベンターさんが東京ドームでやるライセンスを持ってなかったということで(笑)どうもそういうことです(笑)お客さんを呼ぶにはどうしたらいいか。60曲歌おうと思ったらその前に泉谷っていう奴が(笑)夜通し60曲歌いやがって(笑)泉谷と同じような頭してたんやなと(笑)」そして80曲になった経緯を語る。ということは、来年のさいたまスーパーアリーナでは、曲目が増えるのか?75曲?と勝手に思ってみたりします(笑)
『頑張んべえよ』でアンコールはスタート。シングル「Help! Help! Help! Help!」に収録されていたが、新型コロナの関係か不明だがこれまでライブでは披露されていなかった。遂に生でお披露目である。
 そして、次は『ダーリング』である。阿久悠、大野克夫コンビが世に放ったロックチューンで、素晴らしいのは沢田研二は当時の振り付けをかなり忠実に実施していることであった。この曲の破壊力は凄まじく、客席で沢田と同じような振り付けを座りながら、手を挙げる姿は44年もの月日を経ても曲が色褪せない魅力を放っている事実を証明したのである。
 そして最後は『あなたへの愛』。安井かずみ作詞、加瀬邦彦作曲のしっとりとしたバラード。この曲を最後に添える沢田研二のセンスは秀逸である。
 今回セットリストは沢田研二が半世紀以上積み上げてきた芸道の濃い部分を更に濃縮してたものだと思う。「ジュリー祭り」が万遍なくならば、今回のツアーはそれを、もっと圧縮し、原液を聴かせてくれたと、私は考えている。MCでも、来年6月25日のさいたまスーパーアリーナについて何度も言及していたが、来年75をむかえる沢田が常に前進する姿を観るのは嬉しいものだ。沢田研二は育ててきた安井かずみ、久世光彦、阿久悠、そして加瀬邦彦の没年を超えて歩みを止めずに芸道を突き進もうとしている。私は可能ならば、その道をいつまでも見守り続けたい心境である。

1.ジャストフィット
2.サーモスタットな夏
3.I’m in blue
4.greenboy
5.いい風よ吹け
6.勝手にしやがれ
7.時の過ぎゆくままに
8.危険なふたり
9.TOKIO 2022
10.LUCKY/一生懸命
11.Come on!! Come on!!
12.時計/夏がいく
13.君をいま抱かせてくれ
14.愛まで待てない
15.約束の地
アンコール
16.頑張んべえよ
17.ダーリング
18.あなたへの愛





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