あなたが最も大切にしたい記憶はなんですか?
長らく書いていなくて忘れていた切り口がひとつ。
漫画、映画、ドラマ、アニメ、小説、舞台など、僕の心に刺さった演出をストックしていこうと思ったんでした。そうだった、そうだった。
というわけで、8カ月ぶりに行ってみましょう。
きょう取り上げたいのは、週刊少年ジャンプで26年前に連載されていた『マインドアサシン』という漫画です。
まずは、設定をご紹介します。
🌟主人公は〝奥森かずい〟という町医者
🌟かずいには超能力が備わっていて、人の記憶と精神を壊せる
🌟超能力は戦時中に暗殺用として開発されたもの
かずいの病院には、辛い過去を持つ患者がやって来るわけです。
で、これからの人生に足枷となるような記憶は能力で壊してあげる。一方、患者を傷つけた者に対しては精神を壊す。
なんつーか、連載開始からしばらくは重かったんですよ。
殺人とか、幼児虐待とか、婦女暴行とか、ストーキングとか。悪者は懲らしめるんだけど、やるせなさが残る感じ。
しかし、7話目でちょっと変わった。
今回、神演出に推したいのは、その「幸福者」という話なんです。あらすじはというと……。
ある日、かずいのもとにある女性が訪ねてきます。自分の記憶も精神も壊してほしいという相談でした。
というのも、夫が会社でのトラブルをきっかけにドロップアウト。賭博、酒浸り、DVと手の付けられない状態だといいます。
死ぬほど辛い、でも夫をまだ愛している。
そこで下した決断が、記憶と精神を壊してもらうこと。夫が自分をまだ愛してくれているのなら、きっと変わってくれるだろうと。
こうして、寝たきりになった妻。
夫は書き置きを読んで愕然とします。なんとか元に戻せないかと、かずいに泣きついたところ、彼女の心に残った場面や言葉を繰り返したら反応があるかもしれないと言われました。
そこで思い出したのが、妻に誓ったある約束でした。
「結婚したら、大金持ちになってなんでもやりたいことをさせてやる」
そのために、朝も昼も夜もボロボロになるまで働くのでした。帰ってきたら、妻に思い出を語りかける。しかし、目覚めることはありませんでした。
そして、5年後。
帰宅前、たまたま同僚から手渡されたマッチ箱。そういえば、憧れていた俳優の真似をして、よく箱を振ってカシャカシャと音を鳴らしていたっけ。
「おまえの前で一生懸命かっこつけてたんだぜ。かわいいだろ」
「もう使わないけどな…」
そのときでした。
「タバコ…、やめたの?」
結局、妻を元に戻したのは、お互いが幸せに思っていた時の、なんでもない小さな音だったんです。
めちゃめちゃ深イイ話じゃないですか?
僕にとってのマッチ箱、最も大切にしたい記憶ってなんだろう。
確かにそれは、特別な出来事ではないかもしれません。思い浮かんだのは、妻と手をつないで散歩する光景。彼女はいつもこう言うんです。
「手、あったかい」
今となっては愛しい、愛しい記憶です。