伝えたがりな書き手による〝全部乗せ〟文章。タイパは最悪。
「タイムパフォーマンス」という考え方が定着してきています。
如何に時間をかけることなく大きな満足を得るか。コストパフォーマンス(費用対効果)の時間版ですね。「タイパ」「タムパ」と略されるようです。
さて、今回はそんな「タイパ」が最悪になってしまう文章のお話です。
端的にまとめるのが苦手。
伝えたいことだらけで収拾がつかない。
字数(尺)を大幅にオーバーしてしまう。
当てはまる書き手の方は、お付き合いください😊
放送作家として、僕が「タイパ最悪」と思う原稿・映像とは……、
〝全部乗せ〟です。
あの場面がよかった。
あの言葉がよかった。
あの表情がよかった。
といった調子で、取材で撮れたものが〝ぜ~んぶ〟入っている。なんなら、題材について知っていること、調べたことも〝ぜ~んぶ〟盛り込んである。
つまり〝全部乗せ〟とは、要素が全て詰め込まれているということ。
ディレクターとしては自分が「よかった」と思うものは〝ぜ~んぶ〟伝えたい。気持ちはよくわかります。仕事への情熱がある。題材への思い入れがある。それ自体は素晴らしいことです。
しかし〝全部乗せ〟には弊害もあるんです。
「割り振られた尺に入らない」
この点については、説明するまでもないでしょう。
問題はここからです。
例を挙げて説明しましょう。
仮に〝桃太郎〟の密着取材が実現したとします。タイミングは鬼ヶ島へと旅立つ直前。鬼退治に向けた覚悟と決意に迫るといった趣旨です。
撮れ高はこんな感じ。
まさに、伝えたいことだらけですね。
*桃太郎は鬼に勝てる
*桃太郎は「伝説の子」かもしれない
*遠い昔、人間と鬼は共存できていた
*理想の親子関係とはこうあるべきだ
*桃太郎にも意外な一面がある
さあ、これらを〝全部乗せ〟したらどうなるか。
僕の経験上、大半が「結局、なにが言いたいの?」という原稿・映像になります。
「本当に伝えたいことが薄くなる」からです。
メッセージは、要点を絞ってシンプルに言ったほうが伝わるもの。あれもこれもと詰め込むと、印象がバラけて本当に伝えたいことが薄くなってしまいます。
それに〝全部乗せ〟は「要素の掘り下げが浅くなりがち」です。
詰め込んだ時点で原稿が埋まってしまうので「深める」「重ねる」「ふくらませる」ところまで意識が回らなくなるのだと思います。
弊害はまだあります。
「構成の流れが変わってしまう」
本来なら「A・B・C・D」と構成したら流れるのに「E」という要素を入れたいがために「E・C・D・B・A」なんて順番にしてしまうなんてこと、よくあるんです。こうなると、ブロックとブロックをつなぐフリの表現も変わってきます。
また、伝えたいことの中に〝本筋〟とは違うベクトルの要素があった場合、無理に入れ込むと構成の流れが滞ってしまいます。
〝全部乗せ〟の文章を成立させるのは難しいんですよ……。
結局、これらの問題に直面して原稿を修正する羽目になる。ほら、タイパが悪いでしょう?
では、このような事態に陥らないためにはどうしたらいいか。
一にも二にも〝優先順位〟を付けることです。
今回の例で言うと……、
鬼ヶ島へと旅立つ直前というタイミングから、最も伝えるべきは「桃太郎は鬼に勝てる」という要素ではないか。それを裏付ける「伝説の子」は紐づきそうだ。逆に「意外な素顔」はノイズになるのでは?
などと考えるわけです。
ちなみに、これが鬼退治に成功したあとなら、話は変わってきます。むしろ「理想の親子関係」「意外な素顔」のほうが優先されるかもしれません。
ポイントは〝自分が伝えたいこと〟と〝相手にとって伝えてほしいこと〟が一致しているかどうか、です。
最後にひとつだけ。
〝全部乗せ〟の文章はタイパこそ悪いですが、条件と技術次第で大きな売りになる可能性もあります。
もしもそんな機会が巡ってきたら、トライしてみてください😊