連載⑪ Phoebe Ryanとは? 【デビュー作の役割】
前回はインタビュー記事等を引用しながら、Phoebe Bridgersのセカンドアルバムに至るまでの経緯を分かりやすく解説する、MMMさんによる記事でした。
今回私は同じファーストネームという共通点を持つ、Phoebe Ryanについて書いていきます。RyanもBridgersと同じように、最近(7/31)アルバムをリリースしています。デビュー作です。
同じPhoebeを持つ2人ですが、知名度には大きく隔たりがあります。前回取り上げられたBridgersのセカンドアルバムは30を超えるメディアによってレビューされていますが、Ryanのデビュー作をレビューしたのはExclaim!のみのようです。世界的に見ても数少ない、貴重なアルバムレビューとなるので少し気合が入りますね(?)
また売上面でもBridgersはUSアルバムチャートで43位に入った一方、Ryanは200位圏外でした。(それぞれ当該アルバムでの成績)
彼女の最大の特徴はかなり個性的なボーカル。言葉で言い表すならば「キュート系」といった質のボーカルです。そんな彼女の経歴、デビュー作などについて書いていきます。
・経歴
冒頭で売上面でも奮わないと言いましたが、それはアルバムの話で、シングル単位では少し結果を残したことはあります。
まず彼女が注目を集めたのは2015年にリリースされた”Ignition / Do You…”。これはR. Kellyの”Ignition”、Miguelの”Do You”をKeshaの”Animal”に乗せて歌うもので、SpotifyのUSランク圏内に入ることに成功しました。(R. Kellyの素行が問題になった現在はストリーミングから音源を引き下げています)
さらに翌2016年にはThe Chainsmokersの客演を務めた”All We Know”が、ちょうど彼らが絶好調だった時期だったこともあり、世界的にヒットしました。
他にはBritney SpearsやMelanie Martinezのソングライトを担当したことや、ダンス系プロデューサー(KaskadeやDanny L Harle)の客演でボーカルを務めたこともあります。
・デビュー作
彼女はデビュー作に至るまでにEPを2つリリースしています(2015年と2017年)。その3作品では一貫して、彼女のボーカルを活かすことに努めている印象です。EP時代は主に浮遊感あるポップサウンドで、ボーカルと合わせて独自のムードを生み出すことに成功しています。
今回のデビュー作では新たにギターサウンドを取り入れることに挑戦しています。先行シングルでは全て、Apple Musicのジャンル表記が「オルタナティブ」になっていました。この路線を取るにあたり、彼女はSufjan Stevensからの影響を語っています。
ただアルバムでは「ポップ」に戻っています。ギターサウンドもありつつ、従来のポップサウンド系の曲もいくつか含まれているからでしょうか。
私がこの作品で特に素晴らしいと感じましたのはアルバム終盤で、先行シングルの”A Thousand Ways”→ラストの”The Real Wild Ones”の流れがとても好きです。やはりアルバムの最後が良いと「読後感」ならぬ「聴後感」が格別になります。ほかリズムが独特な“Talk To Me”、そして得意の浮遊感サウンドの”Fantasy”などが印象に残りました。
ただそれ以上に感慨深かったのは、そもそもこのアルバムがリリースされたことです。経歴で説明した通り2015年~2016年にブレイクしたにも関わらず、今作がリリースされたのは2020年です。途中に精神的な苦難に陥り、10ヶ月の休養を取っていたこともあるなど、ここまで苦労したことが伺えます。それを超えてのアルバムリリースだったので、本人のツイートからも感慨深さが読み取れます。
このアルバムは佳作ですが、革新性や評価される文脈などは無く注目度は低いです。さらに私も正直申すと、このアルバムが好きといっても、その「好き」は「衝撃」や「予想外」のレベルではなかったので、この注目度の薄さにはどこか納得してしまうのです。
しかしこの独自の才能を今後も追っていきたい、と思うには十分な内容でした。デビュー作はアーティストの名刺代わりのような物だと考えています。裏を返せば、デビュー作でそのアーティストへの印象が大きく決まるということでもあり、その作業には大きなプレッシャーも伴うと思います。そのプレッシャーを乗り越え、信頼に足りる「名刺」を作り上げた彼女に拍手を送りたい、そんなアルバムだったかと思います。
デビュー作:"How It Used To Feel"へのリンク
Spotify:https://open.spotify.com/album/1RMYiLPBYjBEHP1qBbWOEY?si=sh9Vfu7WQFir_PqtmMt4Lw
Apple Music:https://music.apple.com/us/album/how-it-used-to-feel/1523020992?uo=4&at=10l4PB&ct=albumAM
(補足)Exclaim!のレビュー内容
(要約):彼女の持つ個性を活かしつつ、現行のトップ40への順応を果たしている。またツアーメートだったCarly Rae Jepsenと、歌詞や音楽性の面で共通点が見られる。(点数換算で70/100点)
(関連・参考記事)
(点数が付いていないので、レビュー扱いにはなっていませんが、詳しいアルバム解説記事です)
Album of the Year:https://www.albumoftheyear.org/
Kworb:https://kworb.net/spotify/artist/4N874uPqBka1QiCvnCVOtr.html
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