連載④ ブレイク曲とは違う雰囲気でさらに躍進?Alessia Cara
(前回の記事)
前回は私の「多彩なサウンドプロダクション」というワードを起点に、MMMさんがAndy Shaufを紹介しました。記事で紹介されていた2016年の”The Party”、2020年の”The Neon Skyline”ともに聞いてみましたが優しい雰囲気の中に、面白いサウンドが潜んでいるような感覚がありました。
お恥ずかしながら、私はAndy Shaufのことを今まで知らなかったので、この連載きっかけで新たなアーティストを聞くことができて良かったです。
今回は前回MMMさんが取り上げた「アンチパーティー」というワードを「しりとり」し、記事を作成していきます。
私はサウンド重視で曲を聞いているので、正直申すと歌詞には疎いです。これは英語力の問題かと前は思っていたのですが、日本語の曲でも同様にそんなに歌詞にのめり込まなかったので、おそらくそういう聞き方が根付いていることが理由かと思います。
そんな歌詞に疎い私が、アンチパーティー曲でパッと浮かんだのは2015年のAlessia Caraの“Here”でした。Issac Hayesをサンプリングし、物憂げでミニマルなR&B調なサウンドとともに、“Oh I ask myself, what am I doin’ here?” と歌詞ではパーティに自分自身を自問しています。この曲が収録されている彼女のデビュー作などについて書いていきます。
“Here”は純粋にヒット(Hot 100で5位)しただけではなく、批評家からも高い評価を得ました。
ここで評価された理由はヒット曲としては(当時)珍しい内向的歌詞コンセプトなどです。または彼女の代名詞が当時は”R&B Singer”なのも印象的です。
しかし、2015年末にリリースされたデビュー作は雰囲気が違いました。デビュー作では明るめなポップス成分が強めです。“Here”の印象でアルバムを聞いた人は、ゴリゴリのエレポップな冒頭トラックの”Seventeen”にびっくりしたのではないでしょうか。(*1)
2曲目には“Here”が配置され、それに続く”Wild Things”あたりは落ち着いた雰囲気ですが、明るい曲が全体的には際立ちます。アルバムは「あなたはそのままで美しい」というメッセージの“Scars To Your Beautiful”で締めくくられます。これも”Here”とはずいぶん印象が違う、”Seventeen”系の陽気な雰囲気の曲です。
成功を収めた”Here”のイメージに囚われない作品をリリースするのは少し意外に感じましたが、まずはUSアルバムチャートで9位とそこそこな順位を記録。そして以降のシングルチャートで、さらなる躍進を見せます。
最終トラック“Scars To Your Beautiful”がラジオを中心にヒットし、Hot 100で8位まで到達。さらにZeddとの”Stay”(同7位)、Logicらとの”1-800-273-8255”(同3位)などポップ方面(*2)でのヒットを連発。2017年だけで3つのトップ10を記録しました。
他にもディズニー映画Moannaの主題歌“How Far I’ll Go”がUSでプラチナまで行きました。”Here”の時にはディズニー主題歌を担当するとは思っていませんでした。
この「ポップ躍進」のフィナーレとなったのは2018年のグラミー新人賞でしょう。本命はSZAなどと言われていたので、意外な受賞でしたが、Alessiaはこの2人よりもラジオでのオンエアもしっかり稼いで世間的に浸透していたことが評価されたのでしょうか。
ただその後は長く続かず。2018年の2作目“The Pains of Growing”はUSアルバムチャートで71位、2019年のEPは圏外と商業的には奮いません。(*3)ただ内容的には1作目よりはアーティストのカラーのようなものが見えてきて、個人的には聴き応えを感じました。
2016年~2017年の大活躍で獲得した実績は大きく、今後もラジオのオンエアや、客演のオファーはあると思うので、地道にリリースを続ければまたヒットを飛ばす日も来るかもしれません。
備考
*1 ”Seventeen”はアルバムよりも前にリリースされていた曲なので、「路線を変更した」というよりは、”Here”のブレイクを受けても「路線を変えなかった」のような感じです。
*2 ”1-800-273-8255”は分類上ラップですが、ポップ系ラジオでの人気が高かった。(ポップ系ラジオ3位 リズミック系ラジオ3位 アーバン系ラジオ圏外)
*3 2019年の”Let Me Down Slowly”で、ビルボードは彼女を客演にクレジットしていますが、基本的には原曲のほうが人気の曲です。