君の肝臓は食べたくない(同物同治について)2023・11・1
薬膳の考え方に「体の中の不調な部位を治すには、(ほかの生き物の)同じ部位を食べる」というのがあります。足の具合がよくない人がアヒルの脚のスープを食べるとか,心臓の病の人が豚のハツを食べるとかいった話をどこかで耳にされたことがあるかもしれません。太宰治の小説にも、英語を話せるようになりたい女性が毎食タンシチューを食べる、という話が出てきたと記憶します。もっとも牛は英語を話しませんが。
「医食同源」みたいですけれどちょっと違って、こういう考え方を「同物同治」と言います。これにはもうひとひねりしたパターンも存在します。
私ごとですが、私は眼がよくなくて、小学校低学年のころからメガネをかけていました。ひどい乱視なのです。父がどこかで、「鶏のレバーが眼にいい」という話を聞いてきました。東洋医学では「肝の疲れは眼に出る」と言われていて肝臓と眼は関係が深いとされていますので、そういう意味ではこれも「同物同治」と言えるでしょう。実際レバーにはビタミンAが多く含まれており眼の疲れに効果があるといいます。それで我が家の食卓には週に一度は鶏の肝煮が登場しました。
残念ながら乱視はそのまま治りませんが、父に毎週のように食べさせられたおかげで鶏のレバーは煮ても焼いても生でも好物です。肝機能が最近ちょっとやばいので、焼き鳥かホルモン焼きでレバーを補充しようと思います。もちろんビールがお供については来ますが。
膝の具合の悪い方がヒアルロン酸とかコンドロイチンとか、「ムコ多糖体」と総称される膝軟骨の成分を摂取されるのも「同物同治」の流れをくむ発想かもしれません。サメの軟骨のサプリメントなど、テレビで派手に宣伝していますよね。それではあれは効くのでしょうか。
実はせっかく高価なサプリメントを摂取しても、軟骨は再生されないようです。まず摂取されたムコ多糖体は消化の過程で分解されてしまいます。仮に分解されないで血液中に取り込まれたとしても軟骨には血管分布が乏しく血流がよくありませんので膝の軟骨にまで成分が届くことはありません。
サメ軟骨由来のサプリメントはワーファリンなど血液をサラサラにする薬と併用すると出血傾向が強くなりますし、糖尿の傾向がある人が服用すると血糖値が上昇する可能性があるといいます。
「同物同治」はタンシチューかホルモン焼きくらいがいいように思います。