かぐや姫のリクエストと手のひらのツボ2023・10・1
「竹取物語」、ご記憶でしょうか。かぐや姫に求婚する5人の貴公子が、さまざまな無理難題にチャレンジするのですが、そのうちの一人が「つばくらめの子安貝」をリクエストされます。子安貝というのは一般的な名称をタカラガイと言います。陶器のような光沢のある貝殻で、大小いろんな種類があります。ちょうど手のひらで握れるくらいのサイズのものを出産時にご婦人が握って痛みに耐えたところからこの名称がつきました。
手のひらの真ん中に「労宮(ろうきゅう)」というツボがあります。中指と薬指を折り曲げて手のひらに当たる辺りです。「苦労の宮殿」という名称の通りストレスに効果のあるツボとされます。何かイヤなこと、しんどいことがあったときここを押すと痛みを感じます。逆にここを揉み解すと自律神経が調整されてリラックスできます。出産時に子安貝を握って刺激されるのもこのツボです。経験的にここを刺激することの効用を古人は知っていたのでしょう。
労宮は東洋医学のツボですから、いわゆる西洋医学には一切出てくることはありません。でも、知り合いの医師に手の手術についてのお話を伺っていたときのことです。その医師が学生時代、この労宮の部位には決してメスを入れてはならない、と習ったそうです。それが普遍的な医学常識なのかそうでないのかは知りませんが、ずいぶん不思議な気がしたのを記憶しています。
労宮のツボは自律神経やストレスだけではなく、上半身の血行を改善します。肩凝りやら頭痛にも効果があるとされます。
私が駆け出しのころ、参加させてもらっていた勉強会にあん摩マッサージ指圧師の先輩がおられました。直接施術を見学したことはあまりなかったのですが、その先生はどんな症状の患者さんでも、まず「手」を見ておられたそうです。手関節を緩め、指の骨を調整して、それから丁寧に手のひらを揉んでおられたといいます。
ちょっと以前のこと、遠方の知人から「肘が痛くて傘がさせない。どうにかならんか。」という相談を受けました。それで労宮のツボと、それから親指の付け根、母指球とを軽く刺激してみてください、とお伝えしました。すると「ずいぶん楽になった」という連絡が来ました。
手のひらを丁寧に揉んでおられた先輩は若くして亡くなりました。見ておくべきだったものをずいぶんと見落としてきたように思います。