殺人依存症:櫛木理宇:治癒できるのか

「殺人依存症」(139/2020年)

なぜ、読んでしまうのだろうか。人の負の部分をガッツリ抉り出している。最悪の展開が待っていることを予想しならば、読み進める。こんなに酷い人間がいるのかと思う。でも、現実に事件は起きている。いや、小説を越えるような現実が進行している。

連続殺人、それも金銭や怨恨でななく、性的なやつ。痴漢、誘拐、もう下劣な事件が進行していく。

中でも凄いのが、痴漢の犯人の「言い訳」の箇所。もう「お笑い」かと思うくらいの内容。今の日本的には「真っ当」と判断される仕事についている人たちの自己弁護がものすごい。もちろん小説だから誇張されているのかと思うが、罪の意識もなく犯罪を犯す人の精神構造がよく分かる。タイトルの「依存症」というワードが突き刺さる。これは病気だ。ヤバい。どうしたら治癒できるのだろうか。ガンよりも新型コロナよりも、社会的被害は大きいかもしれない。本当に怖かった。

そして犯罪被害者の家族、親族、周辺の現実も描かれる。これは辛い。本当に辛い。どうすれば良いのか、答えが見つからない。自分に明確な過失がなくても、過失の種はゼロではない。厳しすぎる。

更に犯罪被害者が犯罪者に変容していくという地獄。この作品の裏の主人公である女性。彼女の受けた犯罪のことを思うと、自らが犯罪者になってしまうのも仕方ないと思ってしまう。この負の連鎖、断ち切ることは出来るのだろうか。

この作品を読む意味は、犯罪について考える機会を得ることだと思う。この読書、正直、楽しくない。この作品を手放しにオススメは出来ない。それなりの覚悟で読んで欲しい。

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