アスクレピオスの杖:浅谷祐介:AIネタはネタの宝庫
「アスクレピオスの杖」(58/2021年)
人工知能(AI)をネタとした医学系ミステリです。
AIというものに対する理解が世の中的に徐々に高まりつつあるので、今後、AIネタはたくさん出てくるでしょう。作家も読者も、AIが何だか分からなかった時代は、とにかくAI暴走(笑)していましたが、やっと普通の動きをするAIが登場出来るようになってきました。AIと言えばシンギュラリティという単純な構図からの卒業ですね。
本作品ではAIの下した判断をめぐって物語が展開します。AIが間違っているのか、AIに対して人間が意図的な指示を出しているのか。今までだったらその二択だったような気がします。AIを神様的な存在と見做す作品は今後も出てくるでしょう。その考え方は、間違ってはいないと思いますが、あくまでも一部に過ぎません。この作品では、もう少し進化した理解を前提にしているのが面白いところです。
今のAIに対する大きな問題の一つが本作品では書かれています。AIの出す答えは、今までの人間の判断に比べれば間違いなく正しい。でも、どうしてその判断にたどり着いたのか、人が今のところ明確に説明出来ないのです。これ、当たり前なんですよね。だって、人間だって、どうして他人が正しい答えを導き出したか分かりませんから。もちろん、判断したその人がその理由を説明することはありますが、それが本当かどうか、それは分からないじゃないですか。後付け解説ならばいくらでも出来ますし。
今後のAIミステリに期待しましょう。本作品、意外と短いのでオススメですよ。