真実の檻:下村敦史:限界を知る
「真実の檻」(45/2022年)
ベーシックな冤罪モノとして物語はスタートします。母が病気で死んでしまった大学生の主人公、洋平。遺品を整理していたら、母の秘密を発見する。離婚した父は血のつながった父では無かった。そして血のつながった生物上の「父」は死刑囚として刑務所に収監されていた。
まあ、ご都合主義な展開と言えばそうなりますが、物語はテンポよく展開していきます。冤罪事件専門に取材をする、過去に冤罪事件のトラウマをもった女性記者と共に「父」の無実を信じて、洋平は突き進みます。その過程で語られる日本の刑事裁判の闇のシステムには恐怖を感じずにはいられません。まさに事実は小説より奇なり、99.9%が有罪になるという恐怖の固まりです。
人間が人間を裁くという限界を感じます。やっぱ、刑事も、判事も、裁判官も「仕事」です。仕事という事は、上司や人事部の評価があるわけです。ベタベタな出世欲にまみれた人は少数かもしれませんが、失敗したくない気持ち、マイナスにはなりたくない気持ち、これは人間ならば必ずあると思います。積極的な悪への介入は稀かと思いますが、消極的な回避と積み重なりが999を生んでしまう、これは仕方ないですよ、人間だもの。
「父」の時間以外にも様々な冤罪事件に触れつつ、洋平は真実に向かって突き進みます。その結果は勘の良い読者ならば早い段階で分かることでしょう。でも、本作品の目的は真犯人探しではありません。人の浅はかさ、人間の限界を知ることが、メインテーマなような気がします。