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藪枯らし純次:船戸与一:ハードボイルドであることに気付く

「藪枯らし純次」(117/2021年)

ハードボイルドであることにラストで気付いたこの気持ちの良さ、たまりません。考えてみれば、船戸作品なので当たり前というか、ハードボイルドである確率が高いのは当然なのですが、全く気が付きませんでした。

事件の舞台は20年くらい前から没落が始まり、今は数件の潰れかけた民宿しかない元温泉街。最後の飲み屋、スナックも廃業し、老人だけが年金のみで生きているような山奥の村が舞台です。この舞台設定に完全に惑わされていました。

そんな村に帰ってきた「藪枯らし純次」と彼を監視するために雇われた興信所の男を軸に物語は進みます。純次の母、そして姉はこの村の男たちに弄ばれた上に自殺に追い込まれたらしい。その純次が姉の娘の保護者となるべく帰ってきたのだ。

山奥の村ならではのお馴染みの展開をベースに物語は始まるが、その後、昔からも村人だけではなく、村とは所縁のない人たちも殺されていく、死んでいく。連続殺人事件的なサスペンスなのかと思いきや、そうでもない不安定な情動で彩られた物語が進んでいく。

これ以上はネタバレになるので書きませんが、結局、サスペンスでもミステリでもなく、ハードボイルドなんです。人を殺す理由は、所詮、性とマネーに関する独占欲でしかないのです。そこはシンプルなんです。でも、そのシンプルだけど激しい渦に当事者としてではなく、傍観者として巻きこまれて不幸に陥ってしまう人たちの存在も忘れてはいけません。

そのとばっちりを受けた人が一番ハードボイルドなんですよね。ラストシーンのあっけなさ、これがハードボイルドです。痺れました。

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