沈黙法廷:佐々木譲:いつまでも傍観者ではいられない

年間、文庫本で、小説ばかり、約150冊を読み続けているGGが、今年は読んだ本の読書感想文を書いていこうかと

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「沈黙法廷」(016/2020年)

佐々木譲、うまいっ、うますぎる。題名の通りリーガル・サスペンスなのですが、前半は動的な警察小説。警視庁と県警の諍いといった定番ネタも盛り込みつつ、「犯人」を追い詰める。そして後半は法廷劇に。そこを描くのに、今までの人生で法廷、法曹界とは全く縁の無かった、物語のポイントである一青年を持ってくるあたりがうまい。彼の眼で裁判を追うことで、向こうの世界ではなく、こちらの世界の出来事として読めるのだ。

一人暮らしの老人が殺された。その容疑者として逮捕されたは家事代行業の「地味」な女。一見したところ、男を手玉に取るようには思えないマジメなタイプである。その「地味」が、もしかしたら連続殺人、連続老人詐欺をやっていたかもしれない。色めき立つ警察。便乗するマスコミ。さらに、一度は不起訴で釈放され、その後、再度逮捕されるというドラマチックな展開。「地味」だからこそ、何か隠されているに違いないと勘繰る人間の性を実にうまく描いてます。

話の流れからして、多分「地味」は無罪なんだろうな、と思うものの、全員を完璧に騙している悪魔のような奴かもしれない、という可能性がチョットだけあるのがうまい。そんな読者の気持ちを揺さぶる法廷での検事vs弁護士の戦いも、ある一か所を除き、派手ではなく淡々と進むことで逆に緊張感あふれるものになっている。

そして、最後のオチで、読者は冷水を浴びせられる。安全な場所から傍観しているつもりかもしれないが、、、と。

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