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火のないところに煙は:芦沢央:文字の中に吸い込まれていく

「火のないところに煙は」(136/2021年)

なんだ、この恐怖は、訳がわからないぞ。この作品はドキュメントなのか、ホラーストーリーなのか、ページを捲るたびに自分がどこにいるか分からなくなる。文庫本を手に持ち、文章を読んでいるはずの自分が消えてしまう感じ。読者ではなく、かといって作品の登場人物に成り代わっているわけでもなく、ただ文章の中に吸い込まれていく不思議な気持ち。

とある作家が怪談の執筆依頼を受ける。その後も不思議な、怖い話に関する執筆をつづけるのだが、それが作家自身の体験とリンクして、、、最初はホラーをカタチをしたミステリの雰囲気がしつつ、どんどん怖い話に傾いていく。ミステリの要件である道理がどんどん崩壊していく様が恐ろしい。作家の取材レポートが、どんどんどんどん歪な物語に成長していく中で、読者である私はただただ翻弄されていく。

この読書体験は久しぶりです。芦沢の思うがままに弄ばれて、非常に楽しかった。この楽しさはジェットコースターの楽しさに似ているかも。ある人たちにとっては「怖い」だけだけど、その怖さが楽しいという感覚は分かる人にしか分からない。純粋なホラー小説好きな人には、ちょっと煮え切らない内容かもしれませんね。山本周五郎賞にもノミネートされているところで、察していただきたいところです。



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