誘拐リフレイン:歌野晶午:これは本格です。
「誘拐リフレイン」(5/2021年)
歌野というだけで、読む前から様々な想像、妄想をしてしまうのですよ。読みながらも、どうやって、どの角度で裏切ってくるのか、期待しながら読んでいるわけですよ。
本作品、3つの誘拐で構成されています。最初に発生するのは主人公の気まぐれ。その後、2つの誘拐がほぼ同時に発生するのですが、途中で、どうも同一犯人らしいということが判明します。
もちろん、歌野作品ですから、その3つの誘拐の関連性がポイントなわけです。これはまさしく「本格ミステリ」です。何が犯人の狙いなのか、最終的にはそこに物語は集約していきます。
登場人物に対する不満を吐露する読者もいるようですが、本格です。決して社会派ミステリではありません。誘拐の背景には引きこもりや幼児虐待、ネグレクトという社会問題も描かれていますが、メインは本格です。
誘拐という何度となく書かれてきたテーマに対して、歌野が描いた結論、いや、この手があったか、、、です。この動機は凄いです。盲点だったかも。実に本格でした。
こんなに分かりやすく伏線を置いているなんて、歌野の自信の表れでしょう。見事にやられました。悔しいけど、楽しかったです。
あと、裏テーマ(これを「表」と捉える読み方もありだと思いました)である家族の再生の物語、こちらも意外と心に響きます。お兄ちゃん、応援したくなりました。