人間に向いてない:黒澤いづみ:文字の力

「人間に向いてない」(081/2020年)

凄い作家だ。映像化、アニメ化に真っ向から勝負をかけている。文字の力で押し通す、美しい。本作で第57回メフィスト賞を受賞し、デビューしたとのこと。

グロい表現なのに、それを感じさせない。なんだろう。文字をそのままの意味で映像化したら、とんでもない世界だ。とてもじゃない、気持ち悪い。でも、なぜか頭の中では整理が出来ている。文字を読み、それを意味として理解する間に、読者なりの「変換」が働く。この「変換」装置を持っていない読者にとって、きっとこの作品はあり得ないでしょう。

だけど、読書好きは知っている、この「変換」こそが読書の醍醐味であることを。

人間が、ある日突然、「異形」に変わってしまう病気が流行っている日本のお話。ちなみに主人公の息子は「昆虫」の化け物になってしまう。昆虫と言っても、読んでいる限りでは「おぞましい」怪物にしか読めないけど。母はその怪物と対峙していく。言葉は話せない、表情も感情も不明な化け物と暮らしていく。ただ、父はその怪物を息子として理解していない。死んだものと捉えている。多分、現実的には、父派が多数派だろう。そこで、母は父と対立し、決断する。

この説明を読んで、この作品を読みたいと思う人はいないだろう。品の悪いホラーと思われるかもしれない。でも、この化け物を取り巻く世界を読んでみてください。本が好きな人ならば、多分、分かってもらえると思います。文字の力、堪能してください。





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