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巡査長真行寺弘道 エージェント:榎本憲男:攻めてますなぁ

「巡査長真行寺弘道 エージェント」(20/2021年)

とりあえず事件は起きます。そうしないと警察官である真行寺が登場出来ないからね。今までのシリーズを読んでいない人のために説明しますが、事件そのものの真相の解明は、本作品、シリーズにおいてはそんなに重要ではないのです。事件はあくまでもきっかけに過ぎません。犯人、動機、トリックなど、一応、ちゃんと警察小説のルールに沿って明らかになりますが、それはそれ。その事件の背後にある何か、それを追い求める真行寺の姿がポイントです。

真行寺、違法捜査だけじゃなく違法行為もたまにしちゃいます。でも、それは背後にある大きな何かを解明するためであり、目の前の事件を解決するためではない、というエクスキューズが本作品のギリギリのバランス感覚だと思います。あくまでもエンタテインメントに徹してます。

で、今回の大きなテーマは、なんと、日本はアメリカ合衆国と中華人民共和国のどちらを選ぶのかということ。大きいでしょ。超ポリティカルな作品なんです。

選挙で新党が勝った話から始まって、AIロボットによる情報収集とか、5Gの派遣争いとか、仮想通貨とか、MMT(現代貨幣理論)とか、とくかく情報てんこ盛りなんだけど、全てが整理されて、分かりやすく書かれているので、それだけでも読む価値アリなんだけど、そこにサスペンス、ミステリの要素とユーモアが入り混じって、本当にエンタテインメントしてます。

結局、世界情勢のうねりの中では、人の命なんかはどうでも良いということがよく分かります。そもそも戦争とか、ジェノサイドとかしてる時点で、分かりきったことなんだけど。そんなところまで攻めている本シリーズ、この先、どうなるんだろうか。真行寺、殺されないよね。それよりも作者の榎本さん、現実の世界で、大丈夫…だよね。と、思わず心配しちゃうくらい、盛り上がります。

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