テミスの剣:中山七里:THE冤罪小説
「テミスの剣」(95/2022年)
ベーシックな警察小説系冤罪モノです。
冤罪が作られる→真犯人が見つかる→で、どうなる。
まさに王道です。ドンデン返しに期待しないで読んでください。「返す」ことが小説の肝とかいう風潮、個人的には嫌いです。パズルのピースを一つづつ地味にはめていく感じの骨太な事件解決小説なので、安心して読んでください。
昭和50年代、埼玉から物語は始まリます。強盗殺人事件が冤罪のベースとなります。当時は許されていたのでしょうか、かなり乱暴な取り調べから冤罪への道がスタートします。でも、これ、今でもあまり変わらないのかな。
この作品でも容疑者は真っ白ではありません。多分、現実でも、何かしらの「疑い」があるから容疑者としてピックアップされてしまうのでしょう。
警察も仕事なので容疑者をあげて、その人を犯人として確定させたいですよね。その気持ちは分かる。まあ85%以上犯人っぽければ犯人にしたくなりますよ、きっと。日本の有罪確定率99.9%と言われますが、警察ではなく、その制度設計が間違っているんだろうな、きっと。
あと、もっと問題だと思ったのは「刑の重さ」の問題ですね。同じ有罪でも無期懲役と死刑じゃ大きく違う。ちゃんと調べないといけないのですが、警察の成績評価の判断基準に刑の重さは反映されていないのでは?検察に送った数だけで判断してたりして。
警察もプロです。ただ、この作品のように、意図的な悪意が入った時に、どうすればよいのかがポイントでしょう。でも、残念なことに、100%はありません。人が人を裁く限り、冤罪はマストアイテムなのです。不良品、事故案件は必ず発生するのです。スペースシャトルだって事故るのです、あれだけ優秀な人たちで運営していたプロジェクトでも。
極論を言えば、冤罪を防ぐ方法はただ一つ、裁くことを止めること。それじゃ社会は成立しません。
本作品ですが、目立ちすぎて逆に気が付かない伏線が最初から張られています。ヒントは事故現場。
ある人間の悪意は、一度発生してしまうと、その悪意をフォローするために更なる悪意を生む出すのです。その悪意を断ち切るために、警察のみなさんには頑張ってもらいたいです。