さよならジュピター:小松左京:1980年代の傷跡
「さよならジュピター」(17/2022年)
この作品が生まれるまでの経緯が良いですね、1970年代、高度成長期ならではの疾走感、素敵です。スターウォーズみたいな映画を作ろう、という実にシンプルな動機から、よくぞここまでたどり着きました。映画原作のノベライズを映画公開前に実施したという勢い任せの雰囲気も良いです。エンタテインメントにかける熱量が現代とは確実に違う気がします。ビジネスじゃない、ショウビズ以前の時代の熱さがあります。1983年発表作品です。
時代は22世紀後半。あと数年で地球を含めた太陽系がブラックホールにより消滅してしまうという物語です。かなり破天荒な設定もあり、ネットの書評で憤慨している人もいます、その意見には正直「同意」の部分も多々あります(笑)。
ここは読書の難しいところです。もちろん、70,80年代作品で、今読んでも何の違和感も感じない名作もたくさん存在します。SFでも「星を継ぐもの」のように色褪せることのない名作もあります。ですが、本作品のように、今のSFと比較するのではく、当時の状況も含めて、様々なことを想像、妄想しながら楽しむ読書もあって良いと思います。
なぜ、セックスに対する描写がこのようなテンションなのか、不思議です。テロリストに対する温度感も今一つ理解に苦しみます。ですが、それも含めて鑑賞することの出来る傑作であることは間違いないと思います。ポリティカルな部分には普遍性を感じますし、太陽系滅亡に対する人類の反応の部分は流石小松左京です、大きなうねりを感じさせてくれます。
kindleでなければ決して出会う事のなかった作品です。この出会いに感謝します。これは時代が生んだ傑作です。
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