13・67:陳浩基:こういう小説を読みたいんです

「13・67」(113,114/2020年)

これぞ僕が読みたかった小説です。解説にも書いてある通り、本格ミステリと社会派ミステリの完全なる融合。これだけ満足した読書は久しぶりでした。

香港の警察官の物語。構成としては、2013年、2003年、1997年、1989年、1977年、1967年の事件が時間を遡って語られる。これらの年は香港によって大きな「事件」があった年だ。その事件の雰囲気を漂わせた香港で、刑事は犯人を追い、真相を突き止める。

そこには間違いなく香港の抱える社会の問題があり、犯人や被害者の背景にある「社会派」な重みがずっしり感じられる。そして、同時に、奇跡的に、感動的に、超絶的に、その真相解明には「本格」な謎解きがある。

どーして、これが書けなかったのだろうか。

いや、国内にも同様のミステリはあるかもしれない。ただ、不幸にして出会っていないのかもしれない。

もしかしたら、香港と言う設定に惑わされているのかもしれない。香港の人が読んだら全く社会派と感じないのかもしれない。

でも、いいや、読めたのだから、本作に出会えたのだから。

最も「本格」を感じたのは「1997年」脱獄もの。複数の事件、犯罪、事故、ハプニングを同時進行させて、それを警察の捜査力で一気に解決し終息させるのではなく、ちゃんと本格的に処理していく美しさたるや!

また主人公、クアンの生き様を逆にたどれるもの面白い。死から始まり、警官としての原点に戻っていく過程は名探偵の必然を感じさせる。

富豪一族殺人、マフィアと芸能界殺人、脱獄、内部犯行、誘拐、テロ。どれもが手に汗にぎりつつ、驚愕の結末が待っている。うーむ、贅沢。

そして、この作品を2020年に読んでいるという事実。国家安全法が導入された今年、10年後、歴史ではどう語られるのか。楽観的な予測は、そこには無いと思う。だがしかし、歴史は勝者の論理で書き綴られる。10年後、誰が勝者なのだろうか。

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