クーデター:楡修平:悪い方を応援したくなるでしょ
「クーデター」(36/2022年)
1997年ごろから、この国の閉塞感は、こんなにも高まっていたのか。というか、時代を先取りしすぎている、今、この作品が登場したら、洒落にならないかもしれない。
とある有力な新興宗教団体が、日本の現状を憂い、クーデターを起こす話です。当然ながら、クーデターは成功しません、それは分かって読んでいます。でも、成功することを願う自分がいました、そこに。
成功した後のことを冷静に考えると碌なことはないのは分かるんです。著者も分かって書いていると思います。だけど、だけど、だけど、一回、ひっくり返して欲しくなるんです、この先に地獄が待っているとしても。
米国、ロシア、北朝鮮、そして日本の関係値の中で物事は進んでいきます。北朝鮮がロシア・マフィアから武器を買ったことを検知した米国CIAが、その武器を輸送中に船を撃沈するために原子力潜水艦を派遣したところ、ロシア・マフィアの適当な仕事のせいで船は勝手に爆破、逆に潜水艦はその煽りをもろに食らって半壊状態、海上に浮上します、それも日本海のギリギリのヤバめゾーンに。
そこに日本の自衛隊を送ることが出来ない、正確には送るという決断が出来ない実に情けない日本という国があるのですが、それに対して実力行使で物を言おうとしていた新興宗教団体が、チャンスとばかりに便乗してクーデターを仕掛けるのです。
もちろん、新興宗教サイドの私利私欲があってからこそのクーデター計画なのですが、それでも、心のどこかでクーデターが実現することを願っていました。
20世紀後半に書かれた作品です。その後20数年経ち、湾岸戦争等を経て、状況は変わってきていますが、この2022年になって、改めて考えさせられます。最近、楡修平は経済系小説が多いと思いますが、今、もう一度、この作品の流れで新作を書いたら、どうなるのでしょうか…書いて欲しいな。