光と影の誘惑:貫井徳郎:そこに救いはあるのか
「光と影の誘惑」(8/2022年)
貫井の描く不幸は悲しいのです。完璧な悪人が出てこないのが悲しいのです。4つのクリミナルストーリー。影の物語。光を求めるのは人間として当然であるが、その手法がね…
誘拐、保険金詐欺、銀行強盗、4作品目は犯罪自体がトリックなのでここでは書きませんが、どれも犯罪です。罪を犯して手に入れた、手に入れようとした光に価値はあるのだろうか。無いです、当たり前です。でも、でも、やってしまう、それが人間の性、その悲しい性を貫井はひっそりと書き上げます。
ミステリとして秀逸なのは「二十四羽の目撃者」、ミステリの基本中の基本である「動機」が核であることに最後に気が付かされます。しかし、この動機の切なさに、読書は何とも歯がゆい思いに。貫井の真骨頂ですね。
「我が母の教えたまいし歌」は最後まで何が謎なのか分からないのです。主人公が父の葬儀で姉がいたことを知るところから謎が始まります。姉の存在、そして姉がいた事実を隠ぺいしていた理由を求めて主人公は積極的に行動します。そして、この物語に隠された本当の影が判明した時の主人公の気持ちは…実に繊細な物語です。
光を求めるその先で、最終的には影に陥るわけですが、その影の中にも光は、救いはあるのでしょうか。
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