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時のアラベスク:服部まゆみ:説得力のある動機が全てに勝る

「時のアラベスク」(57/2021年)

デビュー作だったとは、第七回横溝正史賞受賞作だったとは。実に王道なミステリ。「横溝正史」の名に相応しい作品でした。

服部ワールドはデビュー作で既にここまでの拡がりを持っていたのですね。作家、映画監督、画家といったクセのあるキャラクターと同性愛テイストが読者をミスリードしていきます。作品解説にも書かれている「気高く幻想的な作風」に何となく騙されてしまうのです。

登場人物が美形と天才ばかりで…という批判もあるようですが、この世界観がミスリードのトリックなのですから、そこを批判するならばミステリ全否定ですよね。この「まやかし」の設定の中に骨太な謎解きを紛れこませているのが楽しいのですから。

ネタバレになるのであまり書けないのですが、最終的な殺人の動機の強さに打たれました。これだけ幻想的な人たちでも、最後はココなんだなと非常に腑に落ちました。ミステリでは様々な人を殺す動機が描かれてきました。社会的なディープな動機から信じられないくらい「軽薄」な動機まで。動機自体がトリックなパターンもありますが、本作品もそのパターンかもしれません。その説得力、言われてみれば、そうなんです。

服部作品の原点に触れることが出来て良かったです。


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