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デヴィッド・フィンチャー『ザ・キラー』の文字フォント
映画監督の中でも、デヴィッド・フィンチャー監督は、作品で使用するフォントにかなりこだわっている印象がある。もちろん毎作品ごとにフォントが違う。『ファイトクラブ』(1999年)ではオリジナルフォントを作成しているくらいだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1698479608856-iyMhc21xcH.png?width=1200)
from Art of the Title
字体だけ見ても雰囲気でなんとなく「この作品かも…」と予想がつく。フォントも世界観の表現方法の1つなのである。これは本当に凄いことだ。
過去にフィンチャー監督作品のフォント比較の記事も書いたことがあるので「むむっ」と思った方はぜひとも下記の記事も覗いてみてほしい。
さて、そんなデヴィッド・フィンチャー監督の最新作『ザ・キラー』が一部の映画館で劇場公開され、11月10日よりNetflixでの配信が開始される。
製作をブラッド・ピットのPLAN Bが担当していること、脚本を『セブン』(1995年)でもフィンチャー作品に参加したアンドリュー・ケヴィン・ウォーカーが手掛けていること、音楽をトレント・レズナーとアッティカス・ロスのコンビが手掛けていること、気になるポイントはたくさんあるが、やはり今回もフォントに注目している。
ポスター
ポスターから気付く点も多い。
![](https://assets.st-note.com/img/1698325326725-lF9T3JVjQh.jpg?width=1200)
「THE Killer」の「i」を人の形に見立てて、死体、弾痕、血しぶきがタイトルの文字で表現されているし、主演のマイケル・ファスベンダーの名前もMICHAELとFASSBENDERで文字の縦幅が全然違う。ポスター中央にも「EXECUTION IS EVERYTHING.(実行こそすべて)」と書かれているが、2行目の「IS EVERYTHING.」だけ斜体になっている。間にあるスタッフクレジットの文字も違うフォントだ。
私はデザイナーではないので、どのような効果を狙って文字を変えているのかはなかなか想像がつかないが、それぞれで変えている以上、何かしらの意図があってそうしているということだけは分かる。
予告編
予告編にも同様のこだわりが見られる。40秒くらいから主要キャストの名前が表示されるが、ここも姓と名前で文字の太さが変わっているのと、切れかけの蛍光灯のような、点滅するエフェクトが文字に施されている。面白いのは、その点滅している音まで追加されている点だ。
そして「i」を人に見立てるという遊びは、こちらでも確認できる。
本編・エンドロール
映画において画面に文字が出てくるということが、そもそもそんなに多くない。
『ザ・キラー』本編中では、場面転換の際に「第2章 〇〇」のような形で案内のテキストが英語で画面に表示されていたが、そのたった1行の中でも文字の太さや色を変えていて、監督の並々ならぬこだわりを感じられる。
劇中で最も文字が多い、というか文字だけになるのがエンドロール(スタッフクレジット)。『ザ・キラー』のエンドロールにおける文字フォントは、タイプライターで打ち込んだような文字の『ゾディアック』(2007年)ほど特徴的なものではない。ただ、ここまで読んでいただいて分かるように、デヴィッド・フィンチャー監督はフォントも映像表現方法の1つとして試行錯誤してきたクリエイターである。今作も当然そうだ。
主人公の殺し屋マイケル・ファスベンダーは、驚くほど冷静に、心拍数をもコントロールし、即興を嫌って計画通りに仕事を遂行することを好む人間なので、そんなキャラクターを描いた映画の最後に流れるエンドロールには、成程なかなか相性の良いフォントなのではないだろうかと私には感じられた。
![](https://assets.st-note.com/img/1698480467019-CKMd4qXOzC.png?width=1200)
フォントを気にするというのは、確かにかなりマニアックな視点かもしれない。
しかしほとんどの場合、(映画のド頭にスタッフロールのある『エンター・ザ・ボイド』(2010年)などは例外として)物語が終わって、観客が最後に目にするのはエンドロールに流れるスタッフ名の文字である。監督はなぜそのフォントを選んだのか、あるいはなぜスタッフがチョイスしたものにOKを出したのか、そんなことに思いを馳せる鑑賞もなかなかに面白いので、ぜひとも実践してみたいただきたい。
▼今回触れた映画リスト
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