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荒野からさようなら

はじめての断捨離。
青春時代にコレクションしていたCDとレコードを処分することに。
宅配での買取について調べていると、「梱包をなめてはいけない。箱に詰めるだけだと思ったら大間違い」といった記事をネットで散見する。1週間以上、量によっては1ヶ月以上は覚悟せよ。そのような体験談もあった。そんなアホな。なんて思いながらも、内心ではしっかりと怯んでしまい、断捨離の日程を前倒す。
結論からいうと、記事の通り膨大な時間を費やした。CDとレコードを合わせて200枚程度の処分を予定していたが、700枚近くまで膨れ上がった。盤やケース、歌詞カード、帯の状態・有無のチェック。これが1枚1枚となると、かなり過酷な作業だ。断捨離の合間に気分転換でフットサルに参加したことをあとになって後悔した。いかになめていたかを痛感する呑気な行動である。腰はほぼ砕けてしまい、ライフがズタボロに削ぎ落とされる週末となった。
物に支配されない、執着しないという真の意味での断捨離を遂行すべく、感情を押し殺して作業を進めていたのだが、やはり入手した当時のことを思い出してしまう。ノスタルジーに駆られてしまうのだ。まず、ソニック・ユースで手が止まる。アンダーグラウンドの荒野を彷徨う動機となったバンドだ。ここからノイズやアヴァンギャルド、フリージャズに繋がり、インディペンデント・レーベル、怪しげなBOXセットに溺れ、最果てはキャロライナー・レインボー(サンフランシスコの変態バンド)、ジャンデック(謎のアウトサイダーミュージシャン)に漂着。そして友達なんてもういらない、と思うようになり、音楽カテゴリーのみならず世間からもはみ出してしまうのだ。
断捨離のスタート地点でさっそくつまずき気が滅入ったが、その後はスムーズに作業が進んだ。心が折れそうになると、「もたない男、中崎タツヤ先生を見習え。このままではミニマリストになれないぞ」と自戒しながら精神を統一。
1軍も半分近く処分の対象に加えたが、どうしても手放せないCDやレコードが存在する。普段は聴くことがなくても、思い入れが強い音楽だ。その中に、ライブ会場で購入したmama!milkのサイン入りCDがある。妻と一緒に行く予定だったライブだが、僕が体調を崩してしまい彼女だけが参加した。ライブは素晴らしく、演奏後のサイン会ではファンとの交流もあった。妻からその話を聞いて羨ましく思ったのを憶えている。
妻はサインをもらいながら僕のことを話したそうだ。
「夫の方がライブを楽しみにしていたんですけど、病気で……」
「えっ……。そうですか、残念です……」
そんなことを言われたら、いつも以上にサインに気持ちを込めなければならない。
まるで僕が重病のような扱いだが、風邪で寝ていただけだ。もちろん妻に悪気はない。ちょっとした雑談のつもりで言ったのだろう。
サインもジャケットもすっかり色褪せてしまったが、このアルバムだけは手放せない。

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