492 頑張れ‼ 斎藤元彦 兵庫県知事 「公益通報者保護についてレクします」
はじめに
8月30日の百条委員会は、まさに斎藤元彦兵庫県知事の辞職へのカウントダウンを早めるものになったと同時に政治家としての今後を決定づけるものであったと思います。
今日の教育コラムは、9月6日の2回目の知事への百条員会に向けて核心部分である公益通報について少しレクをしてみたいと思います。
時系列に見ていく
まずは、出来事を大きく見てみます。
今回の出来事は2つのことが発生したのです。
(1)兵庫県斎藤元彦知事に関する7つの疑惑が文書として出された。
(2)告発した県職員の方が、懲戒処分になりました。
では次にその間に何があったのでしょうか。もう少し細かく見ていきます。
○告発者は、告発文を県議や報道機関に送付しました。
○本来は、この時点で公益通報者保護法の保護対象となります。
○知事と県幹部は情報の出所を調べ、突きとめます。
○知事は、県幹部に懲戒処分にするための調査をさせます。
○告発者は、懲戒処分になり公の場で侮辱されます。
次におおよその時期を加えます。
◆2024年3月中旬
元県西播磨県民局長が、知事や県幹部によるパワーハラスメントなど複数の疑惑を指摘した告発文を匿名で報道機関に送付します。
◆直後
斎藤知事は告発文書の存在をすぐに知り、即座に内部調査を指示します。
◆3月27日
知事は記者会見で「嘘八百」「真実ではない」「公務員として失格」と公に非難します。
◆同時期
元局長を解任します。
◆4月4日
元県民局長は、県の公益通報窓口に告発文と同じ内容を通報します。
◆5月7日
公益通報の調査が続いている中で、県は内部調査の結果を公表します。
公表された内容は、元県民局長の告発文章は誹謗中傷に当たるという評価でした。この評価を受けて、元県民局長を停職3カ月の懲戒処分にしました。◆7月7日
元県民局長さんが自ら命を絶つことになります。
さて、ここまでの時系列で実は十分に今回のお話は説明できますので以後の経過については省略いたします。
問題点をレクします
最大の問題は、告発文章が出た時点で、告発者が公益通報者として保護対象になる可能性を無視したことです。なぜ無視したと言えるのか、それは公益通報者として該当するかの見当がどの程度行われたのか、また、誰によってその検討がなされたのかをみれば検証できます。
そもそも、公益通報は企業や団体の窓口で受理される必要はありません。報道機関などはその代表的な通報先に列挙されているものです。一定の条件を満たしているかどうかを告発を受けている人間ではなく公平中立な人間が行う必要があります。
知事と県幹部は、告発文章の中では疑わしい人間の対象者なわけですからこの公益通報に当たるかの判断を下す人間としては該当してはいけないのです。ましてや8月23日の百条委員会ではっきりしたことは、人事当局では、公益通報の調査結果が出るまでは、処分はできないという指摘をしていたことが分かっています。
この指摘を受けて県幹部や知事がいったんこの指摘を受け入れたともされています。しかし、知事の意向でこの進言は実現せずに幹部である当時の総務部長が停職処分という判断を急いで出させたことが明らかになっています。
組織的な隠ぺいまたは、組織に隠蔽を指示してはいけない
公益通報者保護法の基本原理からすると告発があった時点で「公益通報の可能性」を高く見積もらなければなりません。ですから、当初から知事が命じて幹部にさせた犯人探しは、最もやってはいけない行為なわけです。
「通報者捜し」をしていいとなれば、公益通報者保護の前提はすべて破壊されこの法律は何の意味も持たなくなります。まさに隠蔽の準備と報復の実行のための準備がこの犯人探しなのです。
通報者への不利益
さらに、告発の後に4月4日に県の公益通報窓口に通報している事実をみれば、その後は完全に保護対象になるはずです。しかし、5月7日はまだ、公益通報の調査が続いているにもかかわらず、県は内部調査の結果を適切な調査だとして公表し、元県民局長の告発文章は誹謗中傷に当たるとして、名前も処分も公にして公表し、停職3カ月という懲戒処分にしたのです。
「知事と幹部職員を名指しで告発した罪」と言わんばかりの報復人事の上、懲戒処分というその後の人生にも大きな影響を与えかつ、これまでの功労を踏みにじるような行為に出たのです。
そもそも、公益通報者の保護の重要な要素に不利益から守るという観点があります。
告発者の収入が断たれたり、窓際に追いやられたりなどと不利益扱いする経営者や管理職から、通報者を守る必要があるのです。そうでなければ誰も真実の通報などできないのです。
事実と信ずるに足る相当の理由は確かに公益通報には重要です。何でもかんでもでたらめに通報していたら様々な支障が出ます。では、真実かどうかをどのように誰が見極めるのでしょうか。少なくとも告発されている当人、しかも最高権力者がこの判断をしてよいのでしょうか。また、適切に判断した根拠として知事がこれまで、最も多く口にしてきた理由が、元県民局長が「うわさ話を集めて告発文を作成したと、本人(元局長)が調査で認めた」というものでした。
県情報公開条例では、「公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼす恐れがある場合」とされているわけですから、この情報すらも公表することは本来は差し控えるべきなのですが、これしか頼る根拠がない知事は、この言葉を多用します。私は、この故人の言葉を乱用する行為と最高権力者として都合よく自分のためになる言葉だけを取り上げる姿勢がそもそも問題であると考えています。
元県民局長は、情報を提供した同僚を守ることを優先し、まさに守秘義務を貫き自らの汚名を甘んじて受け入れたのでしょう。それは、その後のアンケートで様々な事実が明らかになったことが物語っています。
7つの疑惑は、真実相当性があるか否かではなく、公益通報として扱われるべきものではないかという前提で丁寧に審議されるべき内容であったのです。このことくらいは、すべての関係者が断言しなければ、この法律そのものが破壊されます。そして、この問題を第三者が正しく厳しく断じなければ、すべての悪事や悪行が権力者によって隠される社会が目の前に広がることとなるのではないでしょうか。