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411 ヒップホップ禁止令


はじめに

今日の教育コラムでは、大人が子供に押し付けている価値について考えてみたいと思います。
きっかけは、東京都千代田区のとある名門中学校での出来事です。この中学校のダンス部の部活動をめぐる学校側が出した答えにあります。それが事実上の「ヒップホップの禁止令」です。
この、時代錯誤というか教育に反した判断に対して生徒や保護者は猛反発をしています。区の教育委員会に対して、抗議文書を提出するほどの異例の事態になっているのです。

出来事の経緯

当該中学校のダンス部は、体育祭や文化祭においてヒップホップダンスを披露することを活動の大きな目的の一つに取り組んできていました。
こうした発表の機会は、取り組みのモチベーションにもなりますし、表現の場としても大切な機会です。毎週、2回程度ヒップホップ専門のコーチから指導を受けるなど、活発に取り組んできていたそうです。
しかし、昨年になり学校側が体育祭でダンス部のヒップホップ発表の場を設けないことを決定しました。さらに、文化祭でもダンス部の発表はしないと学校側が決め通告しました。
また、今年の4月からは、ダンス部の活動内容を創作ダンスに変更することを学校側が決定しました。ヒップホップ専門のコーチの指導から創作ダンス専門のコーチの指導に代えられるなど、その徹底ぶりと生徒主体の意識の欠如は目に余るものがあります。

生徒たちの想い

ヒップホップダンスを一生懸命に楽しみ、そして表現に結び付けてきていた生徒たちに下された、創作ダンスへの転換命令は、ダンス部の生徒たちの心を傷付けました。
この事態にショックを受けた30名を超える生徒たちは、涙を流しながら、ヒップホップを踊らせてほしいという思いを訴えました。しかし、学校側はその考えを重く受け止めることはありませんでした。
生徒たちの落胆の姿とあまりに文化に対する偏見と差別に凝り固まった教育現場の姿勢に対して立ち上がったのが、保護者の方々でした。
その結果、3年生が引退するまでは週1でヒップホップの自主練習が許可されました。しかし、引退後は自主練習も禁止になり、その結果ダンス部を退部する生徒も出ています。

部活動は中体連(日本中学体育連盟)の大会を目指すもの

当該中学校の校長は、ダンス部にヒップホップダンスではなく創作ダンスを強要した理由をこう語っています。
「ダンス部は運動部なので公式の中体連(日本中学校体育連盟)の大会を目指すべきだと思い、創作ダンスに変更した。ヒップホップは部活でなく、外でやってもいいと思う。方針を変更するつもりはない」

これは、学校の考えであって生徒の考えではないことを述べていることに校長は、気が付いているのでしょうか。それとも、生徒の自主性や自発的な参加によって行われる部活動を学校の価値向上のために利用することを当然と考えているのでしょうか。

学習指導要領

学習指導要領にヒップホップは、創作ダンス、フォークダンスとともに「現代的なリズム表現のダンス」として中学保健体育の教科指導の一つとして位置づいていると記憶しています。
ヒップホップやラップという文化を軽視しているとは言いませんが、教師サイドの価値観を一方的に押し付けているようにしか見えません。主体性や自主性とはこうした好きである、やってみたいと思うという感情抜きには育むことはできないわけです。
当該学校の前任の校長は、現在も注目されている校長先生で「学校の当たり前をやめた」などの著書でも知られる工藤校長先生です。そうです、今回の問題の舞台は、かの有名な麴町中なのです。
標準服の義務化をTPOに合わせた適切な服装を選ぶということに変更したり、全員担任制を掲げたり、定期テストの改革や宿題の廃止など様々な点で先進的な取り組みを行ってきた学校です。
生徒の自主性を重んじる改革に魅力を感じて入学した生徒や保護者の中には、トップが変わり一瞬にして、崩壊したものは実に大きいそうです。
前任者が改革してきた成果が生み出した成果を感じることができなくなった一つが今回の「ヒップホップ禁止令」というわけです。現在、横浜創英中・高の校長である工藤先生がこんな言葉を述べられています。
「生きる力とは主体的であることと多様性を受け入れることの2つで構成される。」
この理念を耳にするとなおさらのこと、今回のダンス部への麹町中の現校長や学校の対応が、いかにこの言葉に相反しているかが分かるのではないでしょうか。皮肉なもので、学校という村社会は大変にせまく村長が変わると村の発展もまた別のものになってしまうのです。

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