SNS相談に、行き場のない悩みが受け止められる余白を
NPO法人ダイバーシティ工房が運営するLINE相談『むすびめ』は、いつ、どこからでも、誰でも利用できる窓口としてどんな相談も受付けています。
相談を受けると、それぞれ異なる専門性を有する相談員が相談の方針を話し合い対応をしています。今回は、看護師(相談員Kさん)、社会福祉士(相談員Aさん)、元児童相談所職員(相談員Tさん)の3名の相談員が、SNS相談の特徴や『むすびめ』が重要視するスタンスに触れながら、SNS相談をどのような場として社会に置いておきたいか、座談会形式で考えました。
何を言ったかの先にある、「なぜ」言ったのか
ーやりとりが文字のみになるSNS相談。その特徴や難しさは、どんなところにあるのでしょうか?
相談員A:対面や電話でないので、相談者さんの温度感をつかむのが難しいときは、やはりあります。SNS相談ならではの特徴ですよね。
例えば、希死念慮は数多く寄せられる相談ごと・気持ちの一つなんですが、「死にたい」という言葉を受け止めるのは何度経験しても緊張感がある時間です。その方の状況の緊急度や、その方の抱えている切羽詰まった思いを、やりとりを続けながら確認していきます。
相談員K:何を言ったかの背景には、なぜその言葉を書き伝えてくれたのか、その方の気持ちや状況が何かあるはずなんですよね。
相談員T:やりとりを重ね、一人ひとりの方と関係性が構築されていくと、その方の自己表現として「死にたい」などの言葉が使われているのだとわかることがあります。
文字だけの難しさはもちろんあるのですが、関わり続ける中でその方が何を伝えようとしているのか、掴めるようになってくる感覚もあったりします。
ー文字しかない情報を受け取るという点は、相談者さんの立場でも同様です。相談員として言葉の選び方、伝え方はどのように考えていますか?
相談員T:対面支援もそうですが、最初は『むすびめ』にお話に来てくれた方に関する情報がほとんどないんです。やりとりを続け、やっと少しずつ情報が蓄積されていくと、徐々に相談の方向性を見出せるようになります。
相談に来てくださった方の状況をできるだけ理解したいと思い、何かを尋ねたり、お話を聞きたいという意思を示しますよね。そのとき、文章の語尾の「ね」はあった方がいいか、「!」をつけようか、お名前を入れた文章にしようか、この言い方で強い表現に聞こえないか…そういうことを画面越しに考えたりします。
ほんの少しの違いなんですが、SNS上のコミュニケーションってこうした要素でやりとりの雰囲気が変わったりしますよね。これはSNS相談ならではの疑問や迷いだなと感じます。
相談員A:伝わり方の話でいうと、文字量の多さや改行の有無によっても読む方を圧倒させてしまうことがあるだろうと思います。
丁寧に漏れなく伝えたい内容もありますし、できる限り正確に伝えようとすること自体は重要です。ただ、全て余さず書き起こそうとするより、こちらが共感しようと試みていることが「なんとなく」伝わるくらいの方が、安心できる空間を作れる場面もあるのだろうと思います。
相談員T:ちゃんと伝わってるか、どんな風に聞こえてるか、文字だけであることによる心配や疑問は、やっぱり双方にありますね。その一方で、SNS相談は相談者と相談員の会話がより対等な関係性の中で進むように感じることがあるんです。
お互いの姿が見える対面の場だと、「相談する人」と「相談される人」の明らかな可視化によって、必要以上に立場の違いが強調されてしまうことがあるように思います。
もちろん、状況や人によって合う相談方法は異なると思うのですが、SNS相談には、文字だけだからこその使いやすさや安心もあるんじゃないかと思います。
評価しない関係性
ー『むすびめ』が相談において重要視していることの一つ、相談者を評価しないとはどのようなことなのでしょうか?
相談員K:『むすびめ』相談員を対象にした研修では、「よかったですね」「頑張りましたね」などの言葉が評価になる可能性があることを、相談員同士も学んでいるところです。
例えば、大変な状況にいる人に対して伝えたくなる
「頑張っていますね」「すごいです」
という言葉。相談者の方からすると「もっと頑張らなきゃ」「今の自分は肯定すべき状況にいるんだ」と捉えることもでき、こちらが意図しない“あるべき姿”を植え付けてしまいかねません。
さらに、ご本人の頑張りとして「評価」することで、本来問題視すべき困窮状態に追いやる構造の不条理の方を覆い隠してしまう可能性まであるんです。
相談員T:『むすびめ』が伝える「よかったですね」があるとしたら、それは例えば、相談に来てくれた方が自分自身の決断や考えに納得できたとき、「あなたがよかったと思えることができてよかった」ということなんだと思います。
相談員A:以前、別の場所での相談先を経て『むすびめ』に来てくださった方で、相談先に「調子が良くなった」と伝えると相手の人が嬉しそうだから、あまり調子が良くないときに正直に言えなくなってしまった、という方がいました。
よかったかどうか、それは周囲が決めることではなく、重要なのは相談者さん自身が何を思い、感じているのかですよね。その方が望む状態や気持ちに対しての今に寄り添いたいですし、それが『むすびめ』の役割の一つだと思っています。
相談員K:相談をする中では、ときに『むすびめ』に評価に当たるものを求めたくなる場合もあると思うんです。
例えば、「むすびめさんはこんな人のことをどう思いますか?」「私は間違っていますか?」といった問いです。そんなときも「OOさんはどう感じますか?」という会話を通して、その方の気持ちにご本人、そして私たちがいかに気がつけるかが重要だと思っています。
相談者がSNS相談の使い方を知っている
相談員K:「リアルだとこういうこと言えないんですが…」という言葉が相談者さんから出てくることがあります。
ありのままの気持ちを現実で言葉にするのはタブーだと感じたり、勇気を出して口にしてみたら周囲から「ネガティブすぎる」「おかしい」と言われ、言わなきゃよかったと感じる経験をしている方は多いです。
相談員A:現実世界で目の前にいる誰かを意識して振舞うのと異なり、ネット空間にある『むすびめ』だからできる自己表現ってきっとあるんですよね。
現実の世界を生き抜くためにこそ、現実世界の枠組みとは異なる方法で自分を表現してみる。自分や世界の捉え方は多様だと実感しますし、そうであっていいはずだと思うんです。
相談員K:リアルとネットの自分が一致していなくてもいいし、その2つを使い分けることで保てる自分がある。相談者さんの方こそ、SNS相談の使い方をちゃんと知っているんですよね。
相談員T:相談を通じて、社会にはいかに「こうあるべき」「こうすべき」が溢れているかに気がつきます。
自分の正直な気持ちやそれを言葉にしたときの表現など、全部が全部、世間が求めるような“健全さ”で覆われている必要って本当はないんですよね。
『むすびめ』での相談をきっかけに、必要とされる支援につなぐことはもちろん重要な対応の一つです。同時に、どんな相談も受付けているからこそ、SNS相談がどこにも属さないような悩みが受け止められる余白や空間でありたいと思います。
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