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「子どもが自ら動くまで待つ」は難しい。それでも私たちは待つ
私たちダイバーシティ工房が運営するスタジオplus+や地域の学び舎「プラット」では、発達障害や不登校などの背景を抱えた子どもたちの学びや自立をサポートしています。
これまでたくさんの子どもたちと関わってきたなかで、必ずしも全ての子たちがすぐに勉強に取り組んだり、進路のことを考えたりできるわけではないことを、私たちは見てきました。
しかしその一方で、そういった子がやがて自分の力で奮起し、自分の目標と向き合い始める瞬間が来ることも私たちは経験しています。
この成長の過程で大切なポイントが「待つ」ことです(詳しくは後述します)。
「待つ」と言うと、保護者の方からは「いつまで待てば…?」というお声もよくいただきます。
そう、そこなんです。そこは私たちも日々苦慮しながら子どもたちと向き合っているのです。
今回は、「待つ」こととそれをめぐる私たち支援者の葛藤についてお話しさせてください。
よくある不安の声
私が勤める地域の学び舎「プラット」には、小学校高学年~高校生の子たちが通ってきています。そのうち半数ほどは不登校を経験しています。
保護者の方からは、「家ではネットやゲームばかりで勉強する様子がない」「中2なのに進路の話をする気配がない」などのお声を聞くことも多々あります。
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そんな不安をよそに、無情にも時は流れていきますから、気持ちが焦るのも当然のことだと思います。
しかし、それでも「子どもが自ら動くのを待つ」ことが重要だと私たちは考えます。
ヒデキくんのケース
ここで私たちが出会った、ヒデキくん(仮名)のケースを紹介させてください。
現在高校生のヒデキくんが、プラットにつながったのは小学校高学年のころ。
それまでは何事もなく学校に通い、勉強もしていたそうですが、友人関係のトラブルを機に不登校になりました。
(のちに本人が話してくれたのですが、当時友だちとワイワイ過ごしたのは楽しい思い出になっている一方で、人と話すこと自体はとても疲れるのだそうです。)
音楽やパソコンに興味があるというヒデキくんは、プラットに通い始めて、オンライン教材で漢字を少しずつ学習してみたり、パソコンでオルゴール(同じオンライン教材のコンテンツのひとつ)をつくったりしていました。
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「パソコンを使って、ゲームや動画をつくってみたい」と話してくれたので、「まずはタイピングから」ということで、スタッフといっしょにWordで日記も書きました。
コロナ禍での一斉休校や緊急事態宣言の影響もあり、その後も不登校の期間が続きます。
プラットには自宅からオンラインで参加。スタッフとプログラミングソフトを触ったり、音楽の話で雑談したりしながら過ごしました。
当時、学校からはオンラインの学習教材が支給されており、スタッフといっしょに取り組むこともありましたが、決して毎回ではなく、できてもわずかな時間であることがほとんどでした。なかなか学習に向かう気持ちまでは湧かなかったようです。彼と学校とのつながりはほとんど切れかけていました。
最も大変だったのは中学時代の後半。生活リズムが昼夜逆転。無気力な状態になってしまい歯磨きや入浴といった身支度もままならぬほどだったそうです。
そんな様子を見てますます不安になる親御さん。心配のあまり色々と手を尽くしてヒデキくんとのコミュニケーションを図りますが、年頃の彼にとってはそれがかえってフラストレーションになってしまうのでした。
また、お家で進路のことも話題にしてみるのですが、改まって話そうとするとヒデキくんは「まだその話はできない」という反応だったようです。
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その間もプラットのスタッフは、彼の好きなことに関して雑談したり、時には先のことに気を向けてもらうためにアルバイトの話をしたりしながら、週1回のPC越しの関わりをどうにか切らさぬように努めたのでした。
しかしその後、彼自身の希望で「プラットをしばらくお休みしたい」という申し出がありました。私たちも親御さんも、お休みが続くことで関係が切れてしまうのでは…と心配しましたが、彼は「プラットをやめるとつながり先がないからやめたくない」ということも話してくれました。私たちは彼の言葉を信じ、1ヵ月のお休み期間を設けました。
お休み期間に入ってからは生活リズムも整っていき、家族で外出もできるくらいになったようです。だんだんとエネルギーを取り戻したのかもしれません。
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お休み明け。プラットでは、変わらずゲームや趣味の雑談をしつつ、徐々に数学の復習を再開したり、雑談の流れで進路の話をふってみたりといった関わりを続けました。
やがて中3の秋ごろには、ある通信制高校のオンライン説明会に参加し、実際に受験して無事に合格することができました。
合格を機に、プラットでの学習は数学以外の教科にも取り組むようになりました。
そして現在も、ヒデキくんはプラットで学校のレポート課題に一生懸命に取り組んでいます。
「待つ支援」とは
ヒデキくんが私たちのもとに来てから現在までの4年という期間。ヒデキくんの人生の約4分の1だと考えるとすごく長い時間です。親御さんにとっても辛抱の年月だったのではないでしょうか。
このケースでポイントだったのは、周囲が慌て過ぎずにヒデキくんが動き出すのを待てたことだと思っています。
目の前の子どもに明確な変化が感じられなかったとしても、地道で受容的な関わりが将来的に結実すると信じて支援を続けるー私はこれを「待つ支援」と呼んでいます。
「待つ」については、こちらの記事に詳しく書いていますのでぜひご覧ください。簡単に説明すると次のようになります。
人は行動を起こすまでに、”その行動を起こすべき理由”や、”具体的にどんなアクションをするか”、”実際にそれは自分にできるのか”など、自分の気持ちと向き合って整理する段階があります。
そしてその段階に至るためには、「自分は大切にされている」という感覚や、「自分の価値観や興味に基づいて自由に行動できる」という実感、「自分ならできるかも」という自信、そして何より行動を起こすためのエネルギーが必要になってきます。
こうした前提要素を育むのに大切なのが、「待つ」だと私は考えます。
ヒデキくんの場合は、彼の好きなものや得意なものを軸に関わりを続けました。そうするうちに、彼のなかでエネルギーが徐々に蓄えられて、やがて彼のタイミングで動き出すことができたのではないでしょうか。
(彼の好きなものが元からたくさんあった、というのも重要なポイントかもしれません。)
支援者も抱く葛藤
そうは言っても、「いつまで子どものペースに合わせるべきなのか」「どんな過ごし方をさせれば良いのか」という葛藤は私たち支援者も抱きます。
もちろん、自分たちの関わりが子どもたちにとって意味のあるものだと信じて支援をしているのですが、
同時に「本当にこのままでよいのか」「この関わりがどんな風に結実するのだろうか」という不安も常に感じるのは、保護者の方と同じです。
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先日、スタジオplus+とプラットのスタッフが合同で開催したミーティングで、ヒデキくんのケースと「待つ支援」のお話をしました。
ヒデキくんの4年間を紹介したあと、次の2つのテーマでディスカッションをしました。
支援のなかで「今は待つ時だな」と感じたことはありますか?それはどんなときでしたか?
「待つ支援」を実践する際の難しさ・課題は何だと考えますか?それを乗り越えるためには何が必要ですか?
すると、やはりみなさん、「待つ」を意識しながら子どもたちと向き合った経験があったようで、その当時のことを話してくれました。
「ヒデキくんのように不登校の生徒さん。学習にもなかなか向かえない。でも私たちのところには毎回ちゃんと来てくれる。これは待つしかないと思った。」
「今まさに待っている最中。まずは”スタジオplus+=安心できる場所、自分を認めてもらえる場所”と思ってもらえるように、遊びやコミュニケーション中心の時間配分にした。最近、宿題を持ってくるようになった。」
また、あるスタッフは自身が高校生の頃のことを話してくれました。
「気持ちが沈んで動けなかった時期があったけど、母は私が動き出すのを待っててくれたんだと思う。あとになって『なんであのとき待ってくれたの?』と母に聞いたら、『あなたならまた自分で動けるって思ってたからよ』と」
その一方で、こんな本音も出てきました。
「入試が近づいてくるとどうしても焦る。」
「待つといっても着地点が分からないとこちらも苦しい。待ったからといってうまくいく保証もない。」
「親御さんからの理解を得るのがたいへん。”待つ=何もしない”と思われるのでは…。」
こうした課題を乗り越えるためには何が必要か?という問いに対しては、
「担当のスタッフが1人で待つのではなく、待つことを他のスタッフといっしょに共有しておくことが大事。」
「いつまで待つのか、待っている間にも何をするのかを保護者の方とすり合わせておく。」
「待ちながらも、子どもが動き出すきっかけを作るために、『今日は何か勉強してみる?』と時々声をかける」
ーなどなど、様々な意見が飛び交う熱いディスカッションになりました。
改めて考える「待つ」ことの難しさと大切さ
先のディスカッションにあったように、「いつまで待つのか」「待ったところで本当にうまくいくのか」という先の見えなさが、保護者の方にとっても、支援者にとっても苦しいのではないかと思います。
人は本来「成長したい」という気持ちをどこかに持っていると思うのです。
しかしながらその気持ちを行動に変えるにはエネルギーや安心感、行動を起こすに足る自信が不可欠です。集団生活や勉強に対して苦手やストレスを感じている子どもたちにとってはなおさらのことで、それらを蓄えるには相応の時間がかかるでしょう。
子どもたちが再び動き出すために、周りの大人にできるのは、「あなたはあなたらしくあっていい」というメッセージを伝えることと、彼ら・彼女らの得意なこと・ワクワクできることを通じて時間をともにし、自ら動き出すエネルギーが溜まるのを信じることではないでしょうか。
「待つ」とは、決して「何もしない」ことではなく、子どもの主体性を応援する積極的なアクションなんだと感じていただけたら嬉しいです。
ただ、どうしても「待つ」のが辛いというときもあると思います。
そんなときは、私たちのような支援機関を活用していただいたり、支援者の方もひとりで抱え込まず、ぜひ周りの支援者さんたちを頼ってみてください。
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ダイバーシティ工房は、「制度の狭間で孤立しやすい人たち」が、困ったときにいつでも相談できる地域づくりを目指し活動するNPO法人です。
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