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私を守ってくれる仕事の相棒、マイ脚立

私が、年中、畑で仕事をするのに必要アイテムがある。

それは、脚立。

ご存知のように、作物の高いところの作業をするのに必要なアイテムだ。

これヒトツ、使いこなせるのと、こなせないのとでは、作業効率が幾分もちがってくる。

使いこなせるまでに、どれくらい年月がかかっただろうか。

私が嫁いできたころ、親戚のおっちゃんが柿の仕事を手伝いに来てくれていた。

おっちゃんは、私より20cmほど背が小さい。

だけど、私が脚立を使ってでも採れない、どんな高いところの柿も「よっしゃ」「よっしゃ」と、採ってくれた。

私は、それが不思議で、「すごい!」と感銘を受けた。

いよいよ、私が脚立を使ってほぼひとりで畑で仕事を、することになったとき、不安で仕方がなかった。

どんな高い場所での仕事も、ひとりでこなさなければならない。

脚立の使い方としては、禁止事項だけど、時には脚立のてっぺん(天板)にたって作業をすることもでてくる。

使い慣れないうちは、脚立での作業は負担そのものだった。

繰り返しの同じ作業で、ついに嫌気がさしたある日、

どんな場所での作業も、脚立をどう立てるかが重要なのかも!
私を助けてくれたおっちゃんは、きっと脚立の使い方が上手だったのね。
上手く使うコツがあるはず!

と、気付いた。

脚立を使う必要があるとき、クイズ形式で仕事を進めていこう!


と、仕事に奮起すべく思い立った気持ちの切り替え。

その日から、私は、ひとりクイズ出題&回答を、繰り返しながら仕事を進めていった。


さぁ、この場合は、どこへどう脚立を立てればいいのでしょうか?!

おぉ!こう立てれば楽に作業ができるのかぁ!


畑で脚立を立てるのに、随分と考えなければならないことが分かってきた。

斜面だと、脚立を支える支柱の長さを調整したり、足場が悪いと脚立を立てる場所を考えないと大変なことになる。

それでも、正解が分かると地味に嬉しかった。「すごいやん!」と。

何度も危ない目にあいながら、そうやって月日を重ねながら、だんだんと使いこなせるようになってきた。


3年ほど前、山椒の仕事の比重も増え、ますます農作業を主人の居ない場でこなさなければならなくなって、私もそれなりに腹を括らなければならなくなったので、私は決めた。

仕事のテンションを上げるために、モチベーションを保つために、自分がいちばん使いやすい脚立を探して、「仕事の相棒」にしようと。

うちには、20近くの脚立がある。

なかには、型が古かったり、脚立の階段の部分から支柱にかけるチェーンの短いものだと、使いづらい。

どうせなら、自分にフィットする使いやすいものを選ぼう!と。


使いやすさそうなものをピックアップして、試しに使ったり乗ったりしたなかで、ひときわ安定がよく使いやすそうなものを決めた!


これ!と決めたものは、チェーンの先に、青い紐が繋がれていた。

私は、更に、脚立に目立つ黄色のテープを巻くことにした。
そして、「これ、私の脚立やから、使わんといてな」と、ここぞとばかりに、農園の社長の奥さんという立場を利用して、アルバイトさんにアピールした。

お陰で、遠慮してだれも私の脚立に手を出さない。


アルバイトさんの中のひとりが教えてくれた。


それ、西村のおっちゃん(仮名)が使ってた脚立やで。と。

どうやら「青い紐」を目印につけたのは、西村のおっちゃんらしい。
使いやすいマイ脚立に、目印をつけたと思われる。

西村のおっちゃんは、実両親と同世代の70代後半の、寡黙で真面目なおっちゃんで、騒がしいアルバイトさんたちの話しを優しいまなざしで聞いているような人だった。

いつも、足場の悪いところを自ら進んで行ってくれ、実両親と同世代には思えないほどの作業量をこなしてくれた。

脚立を使い始めて、数か月後。

山椒採りの時期がくる前、西村のおっちゃんは、亡くなったと風の便りに聞いた。

それから、脚立を使って仕事をしているとき、「青い紐」に守られているような気がする。

ギリギリのところで危険な目から免れたり、安定性がすこぶる良くて安心できたり、期待通りに脚立が踏ん張ってくれたり。

1年のうち、三分の二以上は、脚立とともに農作業をともにする。

「私の相棒」と言っても、言い過ぎではない。


その「青い糸」が、この夏も切れずに私を見守ってくれた。


まだまだ私が一人前には、ほど遠いってことかな。


「青い糸」が切れるころ、私はきっと一人前になっているはず。


誰の見守りも必要なく、仕事がこなせるはず。


もう少し、私を見守っててくれるみたい。


さぁ、また、仕事を頑張ろうかな。

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