家族って、もしかしてこんなかんじ?
「じっちゃんが、山椒の木を見に散歩しに行って、こけたから助けにきてほしいって電話あった!」
息子がパンツ一丁で、庭で騒いでる。
ちょうど仕事終わりで、シャワーを浴びて、お風呂から出てきたタイミングだったみたいだ。
我が家の庭へ向かう坂の上から、町道を挟んだ山椒畑を見下ろし、義父の姿を探していたようだ。
え゛え゛え゛ーーーーっ?!
夫と私は、驚きの声を上げた。
なんてよー!オレはこっちを探すから、お前らはアッチを探せ!
私はスリッパのまま、息子はパンツ一丁のまま、坂をかけ下り、道路を渡り山椒畑を探す。
おとーさん!
じっちゃーん!
私と息子の声が周囲一面に響き渡る。
多分、数百メートル離れた隣りの家・・・いや、集落じゅうに聞こえていたかもしれない。
わたし達が、二度三度、義父を呼ぶと、夫の声が聞こえてきた。
おーい!ここに居たぞー!
ここってどこー?!
声の聞こえるほうへ、駆け寄る息子とわたし。
義母も私たちの前を、駆け寄る。
義母を追い抜いたタイミングで、夫が息子に呼び掛ける。
ちょっと、軽トラ持ってきてくれー!
息子は慌てて、軽トラをとりに家へ戻った。
私はそのまま、夫と義父の居る方へ駆け寄る。
義父が、ヘナヘナと道路に座り込んでいるのを目の当たりにした。
だいじょうぶ?と聞くと、大丈夫!と張りのある声が返ってきて安心する。
義母と夫とわたしが、こけて動けなくなった義父を囲み、軽トラを持ちに家へ戻った息子が、舞い戻ってきた。
息子に付き添われながら、そろりそろりと歩みを進め、軽トラの荷台に手を掛けると、自分で助手席に向かい乗り込んだ。
わたしがもう少し、義父の身体を車のなかへ押し込み、助手席のドアを閉めると、すぐ傍の家へ軽トラは帰っていった。
擦りむいた肘に手当をしようと、バンドエイドを探す義母に、バンドエイドを数枚手渡し、玄関へ向かうと義父が腰かけている。
骨、折ったとかない?だいじょうぶ?痛くない?
だいじょうぶや!
だって、義父さん、自分でスタスタ歩いてたもんな!
すごいなぁって思ったわぁ!
驚きのまま、言葉を口にすると、義父はニカッとほほえんだ。
まぁ、ちゃんと手当してもらいや。
消毒液をもってやってきた夫と、バンドエイドをもっている義母に、後は任せてその場を離れたけれど、「かぞくって、こんなかんじ?」と、その瞬間、ふんわり感じたことに気付いたわたし。
今まで義父母をひっくるめて感じたことはなかったし、実家でもそんなことはなかったかもしれない。
義父は、最近、夫にも促され、庭での散歩を日課としている。
最近夫が買ってきた、手押し車を押して、庭の犬小屋の前で手押し車を止めて、手押し車の椅子に腰かけ、何やら犬と戯れている。
「kakiemon!今年の山椒はどうや?!」と義父に問われたわたしが、「豊作やで!アルバイトさんもそう言ってくれてるよ!」「そうか!よかったなぁ!」と、きのうの夕方、会話した後のことだったから、山椒をちょっと見に行きたいと、足が伸びたのかもしれない。
案の定、夫には大目玉を食らったようだが、語気が強くなるのは、なんだかんだいって、じぶんの父を心配してのことだろう。
だけど、夫ではなく、孫である息子に、救助依頼の電話を入れるのも何となく分かる。
「なんでオレに電話してこおへんのや!」とイライラしている夫に、「そら、怒られるからちゃうか」と返しておいたけど、なにもなくてよかったやん!
今日は、お風呂を焚いて、いつものようにお風呂に入ろうと思ったら、ナント!水風呂に近い!
アチャーッ!
めったにないけど、ハ・ズ・レ!
オーイッ!だれかぁっ!お風呂ヌルイねん!焚いてくれーっ!
と言えたらいいけど、それは言えやんなぁ・・・。
アレッ?!
そこは家族といえども、ダレのことも信用できひんなぁ。
いつもなら、諦めてお風呂をでるけど、身体だけ洗い終えると、パパッとねまきに着替え、パパッと薪を焚き加え、お風呂に入りなおすことにした。
仕事疲れの身体にちょうどよい湯加減のお風呂が、身に沁みる。
ほらね!やっぱし、薪はじぶんで焚くのがいちばん!
今日はしくじったけど、薪風呂を焚くプロは、この家族の中でわたしがイチバンだからね。
かぞくは、信用できない。