「目的の不在」がもたらす4つの悪影響
まず、「目的」から始めよ
目的を満たさない「業務の完了」は、成果として評価されない
目的とは〝新たな価値を実現するために目指す未来の到達点〟である──このように目的の意味を定めておけば、「仕事で成果を出す」とはどういうことか、言いかえれば、何をもって仕事の成果として認められるかをより深く理解できるようになる。
端的にいって、「成果の創出」は「目的の達成」とイコールだ。仕事が目指す価値を実現して初めて、その仕事は〝成果が出た〟ものとして認められる。逆にいえば、目指す価値を実現できなかった仕事は、成果としてみなされることはない。
いささか当たり前の話に聞こえるかもしれないが、ここで注意を向けたいのは、「成果の創出」は「業務の完了」とイコールではないということだ。個々の業務をこなし作業として終わらせても、それらが目的の達成に貢献するものでなければ成果とはみなされない。
たとえば、新規事業を立ち上げることを目的に、市場調査の業務を任された場合を想像してみよう。調査業務として自社の現状を棚卸しして、既存事業を取り巻く市場環境を調べあげ、スライドにして50ページ以上にもなる力作の報告書をまとめあげた。現状の自社を取り巻く内外環境について、これ以上なくまとまって整理されている。
確かに、報告書をまとめあげた段階で、業務としては終わりである。一方で、この仕事は成果を生んでいるだろうか? この仕事が〝何のためにあるのか〟というと、それは、新規事業立ち上げの意思決定に示唆を与えるためだ。だが、既存事業に関わる現状ばかりを調べたこの仕事(報告書)は、「どの業界に新たに進出すべきか?」「そこで当社はどう戦えばよいか?」といった問いに対して示唆を与えていない。シビアな言い方をすれば、目的を満たさなければ、業務としては終えても成果としては評価されないということだ。
目的から仕事が外れることは、日々の業務の目まぐるしさに取り巻かれ、作業そのものにのめり込む中で起こりがちではある。だが、仕事が〝何のために〟あるのかを忘れ、仕事を終わらせることが目的になってはいけない。業務の喧騒に埋もれて目的を見失うと、本来その時間で創出すべきはずの成果を失ってしまいかねない。
だからこそ、「成果の創出」はあくまで「目的の達成」とイコールだ。「業務の完了」とはノット・イコールなのである。仕事が〝終わったか/終わっていないか〟ではなく、あくまで、目的に〝寄与したか/寄与していないか〟に意識を向けよう。
「目的」の不在は深刻な問題解決不全をもたらす
いまお伝えしたことは、目的が明確でなければ成果の創出が叶わなくなることを示唆する。目的が不明だと、仕事がどれだけ目的に貢献したか判断のしようもないし、必要な修正もかけようがなくなってしまう。実際に、目的の不在は仕事のあらゆる面に対して致命的な影響を及ぼす。
では、目的の不在は具体的にどのような影響を仕事に与えるだろうか?
目的は、「押さえておけばいいことがある」という半端な意識で済ませていいものではない。「確実に押さえなければ仕事が体をなさなくなる」絶対的な要素、それが目的だ。なぜなら目的を欠いてしまうと、次のような深刻な悪影響が発生するからだ。
① そもそも対処すべき問題が何か分からない
② 何を優先すべきか・劣後すべきか判断できない
③ 的外れなアクションをとってしまう
④ 上司にも部下にも動機づけ・説得ができない
具体的なシーンを思い浮かべてみよう。もし現場を握るリーダーが次のような状態だとしたらどうか?
対処すべき問題が何かを部下に聞かれても「分からない」
どういった方向で仕事を進めればよいか相談されても「判断できない」
チームが一生懸命作業してきたにもかかわらず、伝えるのは「その仕事は不要だった」
そもそも仕事の目的を尋ねられても「自分でも何のためかはっきりしていない」
これでは仕事はまったくモノにならない。そしてその原因は「目的を欠いている」という一点にある。目的を欠くことの深刻さを一つずつ掘り下げて見ていこう。
まず、目的が不在だと、そもそも問題として何を解決すべきかが分からなくなる。たとえばあなたが新しい営業部署にリーダーとして配属されたとしよう。もしそのとき、「じゃあ、あとはよろしく」と丸投げされたとしたら、「よろしくって、何をすればいいんだ?」と困惑するに違いない。部署の目的が分からないと、何に向かって取り組めばいいか分からないからだ。
一方で、その部署に「目的」が与えられていたとしたら、どうか。
部署の目的が「営業生産性(営業人員の一人当たり売上高)を改善する」ことだとしよう。すると、営業担当の実績を見て、そこに売上目標とのギャップがあれば原因を深掘りしてみようという気になる。そうすると、「新製品を売り込むためのスキルが未熟である」「営業のツールが整備されていない」「訪問件数の絶対数が少ない」といった問題にも気づけるようになる。目的が現状とのギャップを浮き彫りにし、解決すべき問題を明確にしてくれるからだ。
第二に、目的があやふやだと、打ち手の優先順位が判断できなくなる。先ほどの例を続けると、新しい部署での活動として「採用を強化して営業人員を増やす」という打ち手が考えられるかもしれない。他方で、「新製品を売り込むためのトレーニングを行う」という打ち手もあり得る。このときどちらを優先すべきだろうか?
これら2つの打ち手はいずれも「営業売上を向上させる」効果が期待できるものだ。もしあなたの部署に与えられた目的が曖昧であれば、どちらを優先すべきか迷ってしまうことだろう。一方で、「営業生産性を改善する」という目的が明確なら、優先すべき打ち手は即座に「新製品を売り込むためのトレーニングを行う」ことに決まる。人を増やすことは必ずしも生産性の向上に貢献しないからだ。
第三に、目的が明確でなければ、アクションも的外れになってしまう。仮に「採用を強化して営業人員を増やす」という打ち手を選択してしまうと、それに続くアクションとして「Web採用ページの刷新」といったものが出てくる。しかしこのことは「営業生産性を改善する」ことに対しては何も寄与しない。多くの時間・労力・お金をかけてスタイリッシュな採用ページをオープンしたところで、「お前は何をやっているんだ、目的をはき違えているぞ」と怒られるのを想像すると実に恐ろしい。
ここまで、目的が不在であることによる3つの悪影響──「問題が分からない」「何を優先すべきか判断できない」「アクションが的外れになる」──を見てきた。これらから示唆されるのは、目的が疎かだと、〝問題解決不全〟に陥ってしまうということだ。仕事の成果は問題を解決したときに表れるものだから、目的が不在だと成果創出ができなくなることをも意味する。〝仕事で失敗したければ目的を忘れ去ってやればいい〟ということの背景が、ここに表れている。
「目的」を語れなければ、組織やチームは動かない
目的を欠いた際の第四の影響として、上司も部下も動かなくなることもきわめて深刻だ。
たとえば上司に、「営業人員に対するトレーニングを行いたいので、外部講師を招くための予算をいただけませんか」と相談したとしよう。そのとき、きっと上司は「何のためにそんなトレーニングを行うんだ?」と尋ねるに違いない。それに対して「それは……トレーニングがスキルアップにつながると思いまして……」と口ごもるようでは、上司は納得をしないだろう。
一方で目的意識がはっきりしているなら、次のような伝え方ができるようになる。
「当社はこれまでモノ売りを得意としてきましたが、営業生産性を高めるうえでサービス売上がボトルネックになっており、新サービスを売り込むためには社外のノウハウが必要です。そのために外部講師を招くための予算をいただけませんか」
目的を念頭に必要性を語れば、説得力は大きく変わるのだ。
部下に対するコミュニケーションも本質は同じだ。
「営業のトレーニングを受けてこい」とだけ伝えても、「普段の業務で忙しいのに、どうしてわざわざ」「研修なんていまさら受けても時間の無駄」と反発されることだろう。これでは部下も研修にいやいや参加することになり、せっかくの研修も効果が薄れてしまう。
これに対して、「私はこの営業チームの生産性を大きく向上させたいと思っている。そのためには売上向上のボトルネックになっている新サービスの売り込みがカギを握っている。だからトレーニングを通じて、サービス売りのスキルを身につけてきてほしい」と伝えた場合と比べてみよう。部下の納得度はまったく違ってくるはずだ。
このように、目的の存在は上司や部下とのコミュニケーションにまで影響を及ぼす。それは結果的に、上司や部下を含む組織が「動く」かどうかを左右する。目的は、組織やチームを動かす原動力なのだ。
目的という旗印がリーダーに〝パワー〟を与える
「目的は組織やチームを動かす原動力である」という考えは、上下関係や経験の差によって組織を動かそうとする伝統的なリーダー像とは異なったものだ。これからの多様性の時代にあって組織やチームを動かそうとするとき、ただ上下関係や経験を振りかざすだけでは人心は離れるばかりだ。
このことを、リーダーが持つ〝パワー〟(権力)という観点からもう一段深めて理解してみよう。リーダーが組織やチームを動かすとき、そこにはリーダーとしてのパワーがはたらいている。そのパワーの源泉は、いったいどこにあるのか。
もちろん、相手に対する褒賞やペナルティ、進退を決める権限を有するという自分の職位、言いかえれば上下関係がパワーの源泉とされるのは組織の常だ。あるいは、自分しか知り得ない専門知識や経験がパワーの源泉になることもあるだろう。いわば、〝自分自身〟がパワフルであることによって組織を動かしていくというスタイルだ。
だけれど、そうした上下関係あるいは知識や経験の差によって相手を押しきろうとするとき、押しきられる側はどう思うだろうか。折れるしかないと考え、受け入れるかもしれない。だがそれは「言われたから仕方なくやる」という消極的な態度でしかなく、そこには納得感が決定的に欠けている。そのようなデモチベートされた(動機づけを失った)状態では、相手からの積極的な協力は望むべくもない。
これからの時代、リーダーのパワーの源泉は〝自分自身〟からシフトしていく。どこへ? リーダーが掲げる「目的」へ、だ。リーダーが掲げる目的が人々の共感を呼び、「やりたい」「やるべきだ」という意欲や使命感に訴えかけるものであれば、自ずと人々はその目的の旗印のもとに集まる。目的の正当性と必然性が相手の心に〝刺さる〟ほどに、労をいとわない積極的な協力を得ることができるようになる。このことは、リーダーが掲げる目的が〝パワフル〟であるほど、リーダーとしてのパワー(権力)もまた高まるということを意味する。
だからこそ、組織・チームの意欲や使命感に訴えかける共通善としての目的を掲げること。組織を突き動かす強力な〝Why〟を打ち出すこと。それが、これからの時代を生き抜く僕らのパワーの源泉だ。逆にそのような旗印を持たないとき、僕らは決定的なパワーの源泉を失うことになる。
「目的」は成果創出力を高める究極のレバレッジ・ポイント
ここまで目的の不在がもたらす4つの悪影響を挙げてきたが、目的意識を明確に持てば、リーダーは次のように状況を好転させることができるようになる。
① 解決すべき問題を絞り込むことができる(=価値のない仕事を省ける)
② スピーディに優先順位を判断することができる(=判断に迷わなくなる)
③ 目的に直結するアクションがとれる(=無駄な活動をなくせる)
④ 成果創出のために組織やチームを動かすことができる(=ワンオペから脱却できる)
この先どれほど力量をつければ自分もこのようになれるのかと、気後れするかもしれない。しかし実際のところ「目的」という急所の一点を確実に押さえれば、このような理想的な振る舞いを実現することは夢ではない。
たとえば、①問題の絞り込み。目的が明確であれば、それを基準として解くべき問題の見極めができるようになる。「こうなりたい」がはっきりしているほど、「いまはここが足りていない」こともまた浮き彫りになるからだ。このように「いまはここが足りていない」というギャップ(=解くべき問題)は、現状との比較対象である目的が存在することで発見できるようになる。
②優先順位の判断に対しても目的は作用する。目的が明確であれば、それを判断軸として物事の優先順位を判断できるようになるということだ。事業継続計画(BCP)が人命保護を第一の目的に掲げるからこそ、有事の際も躊躇なく建物や設備、その他資産の保全を劣後させる判断ができるようになる。
さらに、③アクションの実行に対しても目的は影響を与える。最終的な到達地点が明確なら、そこに目がけてやるべきことを集中させることができる。裏返せば、目的に直結しないムダなアクションをどんどん省いていくことができるようになる。端的にいえば、目的はアクションの生産性を圧倒的に高めるのだ。
最後に、④組織やチームは目的によって動かされる。先にもお伝えしたとおり、目的はリーダーにとって人々を動かすパワーの源泉だ。人々の使命感や意欲に突き刺さる目的を旗印として立てられれば、自ずとそこに人々は集まり協力を差し出すようになる。それによってリーダーは仕事を自分一人で丸抱えするワンオペ状態から脱却し、より大きな仕事の実現に向かうことができるようになる。
これらの成果改善に共通しているのは、まさしく目的の存在にある。その意味で、目的は組織・チームの成果創出力を高める究極のレバレッジ・ポイントだ。そこに、目的が何であるかに徹底してこだわる必然性がある。
(望月 安迪 著『戦略コンサルタントが大事にしている 目的ドリブンの思考法』より抜粋)
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