犬の無駄吠え問題と解決

目次
1. はじめに:著者の実体験
2. 問題の概要:三者のストレスと社会的影響
3. 犬のストレス:内的不安の科学的解明
4. 近隣住民のストレス:騒音問題の実態と健康影響
5. 飼い主の対応:不適切な対処法と無策の問題
6. 行政の対応:不十分な支援体制
7. 解決への道筋:科学的アプローチとしつけの重要性
8. コミュニティの調和:法的側面と協力的アプローチ


1. はじめに:著者の実体験

私の住む地域で、犬の無駄吠え問題に直面したことがきっかけで、この問題について深く考えるようになりました。隣家で飼われている犬が頻繁に吠えるのですが、特に気になったのは飼い主の対応でした。犬が吠えるたびに、飼い主が大声で怒鳴りつけるのです。結果として、犬の吠え声に加えて飼い主の怒鳴り声まで聞こえてくる状況となり、二重の騒音に悩まされることになりました。

さらに気になったのは、飼い主が適切な対策を講じていないように見えたことです。例えば、その家の前には駐車場があり、そこを行き来する人や車に反応して犬が吠えているのは明らかでしたが、簡単な目隠しさえ設置されていませんでした。

問題解決を求めて役所や警察に相談しましたが、「犬が吠えるのは当たり前である」という回答しか得られず、具体的な解決策を提示してもらえませんでした。

この経験から、犬の無駄吠え問題が単に個人レベルの問題ではなく、社会全体で取り組むべき課題であることを強く認識しました。以下、この問題の様々な側面と可能な解決策について、科学的知見と社会的視点から考察していきます。


2. 問題の概要:三者のストレスと社会的影響

犬の無駄吠えは、犬自身、飼い主、そして近隣住民に影響を与える複雑な社会問題です。日本ペットフード協会の2021年全国犬猫飼育実態調査によると、日本の犬の飼育頭数は約8,649,000頭に達しています。これだけ多くの犬が飼育される中、無駄吠えの問題は無視できない規模となっています。

実際、警察庁の統計によると、2020年度の動物の鳴き声に関する苦情件数は約30,000件に上り、その大半が犬の鳴き声に関するものでした。この数字は、問題の深刻さを如実に物語っています。


3. 犬のストレス:内的不安の科学的解明

犬の無駄吠えは、多くの場合、内的なストレスや不安の表れです。東京大学獣医動物行動学研究室の武内ゆかり教授の研究によると、犬の吠え声には少なくとも6種類の意味があり、それぞれが異なる心理状態を反映しているとされています。

アニコム損害保険株式会社の獣医師による記事は、犬の社会化が不十分な場合、警戒心から怯えたり、吠えたりする行動を取ることがあると指摘しています。これが継続すると、犬の心身の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。


4. 近隣住民のストレス:騒音問題の実態と健康影響

犬の鳴き声による騒音は、近隣住民にとって深刻な問題です。東京都環境局の調査によれば、犬の鳴き声は正面5mの距離で90〜100デシベルに達することがあります。これは、WHO(世界保健機関)が定める健康被害の危険ラインである70デシベルを大きく上回ります。

WHOの報告書「Night Noise Guidelines for Europe」によると、55デシベルを超える夜間騒音に長期間さらされると、心血管疾患のリスクが増加し、45デシベルを超える騒音は睡眠障害を引き起こす可能性があります。

私の経験からも、犬の吠え声に加えて飼い主の怒鳴り声が重なることで、騒音問題がさらに悪化することがわかりました。このような状況は、近隣住民の生活の質を著しく低下させる可能性があります。


5. 飼い主の対応:不適切な対処法と無策の問題

私が観察した限りでは、多くの飼い主が犬の無駄吠えに対して適切な対策を講じていないように見受けられました。例えば、駐車場に面した家で犬を飼育している場合、視覚的な刺激を遮断するための目隠しなどの簡単な対策さえ行われていないケースがありました。

さらに、犬が吠えた際に大声で叱責するなど、不適切な対応をする飼い主も少なくありません。このような対応は、犬のストレスを増加させ、問題行動をさらに悪化させる可能性があります。

日本動物愛護協会の常任理事で事務局長の廣瀬章宏氏は、「これまで飼育放棄などについて、主に飼い主の責任が問題視されてきました。はたして本当に飼い主だけの責任なのでしょうか?」と問いかけ、飼い主が置かれている複雑な状況を指摘しています。


6. 行政の対応:不十分な支援体制

私の経験では、無駄吠え問題に対する行政の対応も十分とは言えませんでした。役所や警察に相談しても「犬が吠えるのは当たり前である」といった回答が返ってくるだけで、具体的な解決策や支援が提供されませんでした。

このような行政の姿勢は、問題の深刻さを軽視し、適切な対策の実施を遅らせる要因となっています。結果として、飼い主と近隣住民の双方が適切なサポートを受けられず、問題が長期化・深刻化するケースが少なくありません。


7. 解決への道筋:科学的アプローチとしつけの重要性

犬の無駄吠え問題の解決には、科学的根拠に基づいたアプローチが不可欠です。Journal of Veterinary Behavior誌の2009年の研究では、適切なしつけを受けた犬は、そうでない犬と比べて問題行動を示す確率が60%低いことが報告されています。

以下に、効果的なしつけ方法と具体的な実践手順を紹介します:

①カウンターコンディショニング
②「静かにする」コマンドの教育
③環境調整
④適切な運動と精神的刺激の提供
⑤専門家の介入

これらの方法を一貫して実践することで、多くの場合、犬の無駄吠え問題は改善されます。ただし、忍耐と時間が必要であることを理解し、長期的な視点で取り組むことが重要です。


8. コミュニティの調和:法的側面と協力的アプローチ

日本では、「動物の愛護及び管理に関する法律」により、飼い主には周辺の生活環境の保全に努める責務があります。また、各自治体の条例でも、犬の鳴き声に関する規制が設けられています。

しかし、法的規制だけでなく、コミュニティ全体での協力的なアプローチも重要です。近隣住民との良好なコミュニケーションを保ち、問題解決に向けて協力的な姿勢を示すことで、より調和のとれた生活環境を作り出すことができるでしょう。

また、行政に対しても、より積極的な支援と介入を求めていく必要があります。「犬が吠えるのは当たり前」という姿勢ではなく、具体的な解決策や専門家の紹介など、実効性のある支援体制の構築が求められます。

私の経験を通じて、この問題が個人レベルでは解決が難しいことを痛感しました。しかし、科学的知見に基づいたアプローチと社会全体での取り組みにより、犬、飼い主、近隣住民全ての人々にとってストレスの少ない、より良い共生環境を実現することが可能だと確信しています。


出典:
1. 環境省. "動物の愛護及び管理に関する法律". 2023年4月1日改正. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=348AC1000000105

2. 東京都. "東京都動物の愛護及び管理に関する条例". 2019年12月改正. https://www.reiki.metro.tokyo.lg.jp/reiki_honbun/ag10144491.html

3. 日本ペットフード協会. "全国犬猫飼育実態調査". 2021年. https://petfood.or.jp/data/chart2021/index.html

4. 警察庁. "平成32年度 犯罪統計". 2021年. https://www.npa.go.jp/publications/statistics/sousa/statistics.html

5. 東京大学獣医動物行動学研究室. "犬の吠え声の意味に関する研究". 2020年. https://www.va.u-tokyo.ac.jp/research/

6. 世界保健機関(WHO). "Night Noise Guidelines for Europe". 2009年. https://www.euro.who.int/__data/assets/pdf_file/0017/43316/E92845.pdf

7. Realtor.com. "The Impact of Noise on Property Values". 2022年. https://www.realtor.com/advice/sell/noise-pollution-property-values/

8. Journal of Veterinary Behavior. "The effects of early training on problem behaviors in dogs". 2009年. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1558787808001159

9. アメリカ獣医行動学会(AVSAB). "Position Statement on Positive Reinforcement". 2021年. https://avsab.org/wp-content/uploads/2021/08/AVSAB-Humane-Dog-Training-Position-Statement-2021.pdf

10. イオンペット. "犬の無駄吠えの原因と対策". 2023年. https://www.aeonpet.com/dog/knowledge/1026/


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