【DIR EN GREY 楽曲感想】『UROBOROS』

今回は7thアルバム『UROBOROS』期の感想を書いていきます。


『UROBOROS』期の活動状況

2007年

前作『THE MARROW OF A BONE』は激しく暴力的な曲が多く、一聴するとDIRの持ち味であるメロディアスさが後退してしまっており、賛否両論のアルバムでした。先入観を捨ててよく聴き込むと聴きごたえのある作品だと個人的には思いますが、海外ツアーの最中に生み出されたということもあり、現地の音楽にかぶれてしまったという印象を持った人も少なくなかったのではないでしょうか。とはいえ、このアルバムを引っ下げてこれまで以上にハイペースでライブを行うようになり、2007年は年間120本を超えるライブを敢行しました。

その最中ですが、2007年の9月~11月にかけて、国内外で「TOUR07 DOZING GREEN」を開催し、合間の10月にシングル『DOZING GREEN』をリリース。その後、LINKIN PARK来日公演のスペシャル・ゲストや10 YEARSをサポート・アクトに開催した「TOUR07 THE MARROW OF A BONE」を経て、12月には結成後の10年間を総括したベストアルバム『DECADE 1998-2002』『DECADE 2003-2007』をリリースしています。

2008年

2008年は上半期の大半をアルバム制作に費やす中で、4月に欧州の「METAL HAMMER」誌主催の音楽賞「HAMMER GOLDEN GODS 2008」のBEST INTERNATIONAL BAND部門に日本人として初めてノミネートされるという快挙を成し遂げます。5月に国内ツアー「TOUR08 DEATH OVER BLINDNESS」を開催し、その最中の5/4には、X JAPANのhideの追悼ライブイベント「hide memorial summit」に出演しました。同イベントでは、X JAPANの「Miscast」をカバーしたりしています。

その後、再び制作期間に入りますが、9月にはシングル『GLASS SKIN』リリースと同時に、国内ツアー「TOUR08 THE ROSE TRIMS AGAIN」を開催。11月からはアメリカ・カナダでも同ツアーを開始しますが、その最中に、アルバム『UROBOROS』をリリースしました。国内外問わず評価が非常に高い作品で、アメリカのBillboard 200で114位、トップ・ヒートシーカーズチャートで1位にランクインするという快挙を成し遂げました。

12月には国内ツアー「BAJRA」を開催。合間の12/29には、9年ぶりの大阪城ホール公演である「UROBOROS -breathing-」を開催し、『UROBOROS』の全曲が演奏されました。この公演は、前回の来場者数を超え、1万人以上を動員したそうです。なお同年、アメリカ〈HEADBANGERS BALL>の視聴者投票による《トップ25メタル・ビデオ》で、「DOZING GREEN」が王座に輝きました。これは「朔-saku-」に続いての快挙となります。

2009年

2009年1月、音楽専門週刊誌として世界最大の発行部数を誇るイギリスの「KERRANG!」誌の表紙を、京さんが飾りました。同時期、同誌主催によるパッケージ・ツアー、「KERRANG! RELENTLESS ENERGY DRINK TOUR 2009」に参加し、イギリス・アイルランド各地を回りました。

2月~5月にかけては国内で、6月にはヨーロッパで「TOUR09 FEAST OF Ⅴ SENSES」を開催しました。海外ツアーの合間には3度目の「Rock Am Ring」「Rock im Park」を始め、イギリスの「Download」、オーストリアの「Nova Rock」、スウェーデンの「Metal Town」の5ヶ所のロックフェスへ出演しました。

8月から9月にかけては国内ツアー「TOUR09 ALL VISIBLE THINGS」を開催。10月には、『THE MARROW OF A BONE』と『UROBOROS』収録曲のMV集『AVERAGE BLASPHEMY』をリリース。MV集は世界各国から要望があったそうです。11月には、初の南米公演を含む全米ツアーとなる「TOUR09 ALL VISIBLE THINGS」を開催。ツアー中、ブラジルにて「Maquinaria Festival」にも参加します。

12月、シングル『激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇』をリリースしますが、詳しくはまた次回に。その後、ファンクラブ・オンライン会員限定のツアー「DORJE -「a knot」 & ONLINE only-」が開催され、2009年は終わりを迎えます。

2010年

2010年1月9日、10日には日本武道館にて「UROBOROS –with the proof in the name of living…-」と銘打たれた、一連の『UROBOROS』のツアーの完結ライブが行われました。この2日間の様子は同年5月にドキュメンタリー映画化され、ライブDVDは世界17か国でリリースされました。

以上のように、『UROBOROS』リリース前後の期間は怒涛の勢いで数々の受賞やツアー開催が行われ、世界的に注目度が高かった時期と言えるでしょう。DIR EN GREYはバンド史上、何度か大きな波があったかと思いますが、この時期は間違いなく、その大きな波の一つだったと思います。

DOZING GREEN (2007.10.24)

21stシングル。c/wは2ndアルバム『MACABRE』収録の「Hydra」のリメイク曲である「HYDRA -666-」と、2007/4/21にパシフィコ横浜で演奏された「AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS」のライブ音源です。表題曲は、「TOUR07 DOZING GREEN」でリリース前から演奏されていたようです。オリコン3位を記録し、初のTOP3入りを果たしました。

1 DOZING GREEN

宗教色の強いキャ ッチーなミドル曲。『THE MARROW OF A BONE』の激しい音作りを踏襲しつつ、『MACABRE』の妖しくも切ない世界観を蘇らせたような曲で、気だるげなサウンドの中に響く京さんのハイトーンボイスと、終盤の怒濤のホイッスルボイスが特徴的な曲です。
全体的に歌が目立った構成ではありますが、メロは音が落ち着いており、サビはヘヴィに攻めてきます。メロディアスな曲ではあるものの、意外と頭が振れてノりやすいです。終盤に近づくほどじわじわと盛り上がっていき、最後はホイッスルボイス4連発とスクリームで強烈な余韻を残して終わります。
サウンド面では、どの楽器も艷やかなフレーズを奏でていますが、特にベースの音が気に入ってます。静かなパートでは鼓動のように低音を叩きつけ、サビではうねりが効いています。ギター2人も怪しげなクリーントーンとヘヴィなリフを巧みに使い分けており、曲に静と動を与えています。
この曲はシンプルに京さんの歌唱力と技術が活きている曲だと思います。音域が非常に広く、ハイトーンは言うまでもなく、低い部分もかなり低いです。高音についても、ギリギリで絞り出してる感がまた良いんですよね。最後のホイッスル4連発は、初めて聞いたとき度肝を抜かれた覚えがあります。
歌詩なんですが、抽象度が高くて意味は分からないものの、表現が美しく、でもどこか残酷な光景が思い浮かびますね。京さんは「綺麗な緑色の草原に見えても、土の下には何が埋まってるかわからない」と語っており、一見綺麗なものの裏側のようなものを表現したかったのかもしれません。
ライブでは2011年の「Wacken Open Air」の映像が印象に残っています。クリーンは調子悪そうでしたが、最後のホイッスルが凄まじすぎて圧巻でした。PAとのコミュニケーションが上手くいかなくてメンバーが集中できず、最悪のライブと言われている「Wacken2011」ですが、この曲あたりから盛り返していた印象があります。
ちなみにこの曲、社長の指示で一度完成した曲を再構築したもので、元の曲はBefore Construction Ver.としてUROBOROSの限定版に収録されています。

2 HYDRA -666-

インダストリアル色が強かった原曲とは全く別の曲になっていて、宗教色の強いダークなメタル曲になっています。妖艶さと狂気を兼ね備えたボーカルと起伏の激しいバンドサウンドが特徴的です。
原曲よりもキーが半音下がり、曲構成についても原曲をパズルのように並べ替えた形となっております。メロのパートは遅く重たくのしかかってきますが、サビは少し凝ったリフとともに疾走します。原曲の「I wanna be an anarchist, too」に当たる部分も、原曲以上に躍動感があり、一曲の中で多彩な展開を見せています。
サウンド面ではドラムのアレンジが非常に面白いですね。機械的な原曲とは打って変わって、リズムパターンが多岐にわたっており、サビではツーバスも踏んでいます。遅いパートでも、重いベースの音との絡みが気持ちいいです。ギターも原曲以上に複雑なリフを奏でていて聴き応えがあります。
ボーカルについては、呟きとシャウトだけで構成されていた原曲とは異なり、非常に多彩な声を出しています。メロでは色っぽい低音ボイスを響かせつつ、サビではグロウルとホイッスルで狂気的に攻めてきます。ラスサビ前は呻き声を重ねていますが、ここの狂った感じが個人的にめっちゃ好きです。
歌詩はほぼ全面的に書き変わっており、元のフレーズは「DEAD BORN」と「SID」しか残っていません。元々意味を感じにくい歌詩でしたが、今作はさらに抽象度が高くなっており、アートを感じますね。英詩部分からは、「裸の王様」的な皮肉を感じますが、猿真似で神にでもなった気になっている人への批判のようにも読み取れます。
この曲は2017年のMACABREツアーで一度だけ聴いたことがあります。原曲を聴きたいという想いもあったものの、なんだかんだ「6!6!6!」と叫べて気持ち良かった記憶がありますね。一時期、この曲で京さんが不気味な仮面を被っていて、厨二病真っ盛りだった自分には非常に刺さりましたね笑


DECADE 1998-2002 / DECADE 2003-2007 (2007.12.19)

初のベストアルバム。結成10年という節目ということもあり、デビュー以来の歴史の総括としてリリースされました。収録曲は『GAUZE』~『THE MARROW OF A BONE』から厳選されていますが、シングルコレクションとして位置付けるつもりはなかったようで、中にはシングル曲でも収録されていない曲もあります。全曲リマスタリングされており、古い曲も音圧が上がっています。事務所の意向で制作されたのか、本作については、メンバーから特に言及はなかったようです。でも曲目を見ると、少なからずメンバーの意向に沿った選曲になっているように見えなくもないんですけどね笑
「ain't afraid to die」や「JEALOUS -reverse-」など、シングルにしか入っていない曲が収録されているのが、当時のライトなファンにはありがたかったのではないかと思います。
ちなみに、私がDIRを知ったばかりの頃、このアルバムで過去の曲を勉強し、その後各アルバムを聴いていきました。各アルバムの大まかな全体像はこのアルバムで概ね把握できるので、その意味では、入門編として非常に重宝した作品でもあります。

DECADE 1998-2002 収録曲

Disc 1
1 アクロの丘
2 Cage
3 Schweinの椅子
4 予感 ※「いつからか~」の部分にセリフが追加されています。
5 304号室、白死の桜
6 Deity ※前半のSEパートがカットされています。
7 羅刹国
8 audrey
9 脈 ※アルバムバージョン
10 理由
11 JEALOUS -reverse- ※アルバム初収録。

Disc 2
1 ain't afraid to die ※アルバム初収録。
2 FILTH
3 Bottom of the death valley
4 逆上堪能ケロイドミルク
5 鬼眼 -kigan- 
6 embryo ※シングルバージョン
7 蟲 -mushi-
8 Mr.NEWSMAN
9 umbrella
10 CHILD PREY ※シングルバージョン

DECADE 2003-2007 収録曲

1 OBSCURE
2 かすみ ※アルバムバージョン
3 THE IIID EMPIRE
4 DRAIN AWAY ※アルバムバージョン
5 砂上の唄
6 audience KILLER LOOP
7 朔-saku- ※アルバムバージョン
8 dead tree
9 Merciless Cult ※「C」へと続くアウトロは削除。
10 鼓動
11 C
12 THE FINAL ※アルバムバージョン
13 CLEVER SLEAZOID ※アルバムバージョン。
14 GRIEF
15 AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS ※アルバムバージョン
16 凌辱の雨 ※アルバムバージョン
17 REPETITION OF HATRED
18 CONCEIVED SORROW

GLASS SKIN (2008.9.10)

22ndシングル。c/wは3rdアルバム『鬼葬』収録の「undecided」のアコースティック版と、「AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS」のアンプラグド版、初回盤では2008年5月23日に横浜BLITZで演奏された「凌辱の雨」が収録されており、シングルとしては豪華な構成となっております。表題曲は「TOUR08 DEATH OVER BLINDNESS」で先行披露されていたようです。

1 GLASS SKIN

透明感溢れるクールなミドルバラード。歌も演奏もストレートに美しく、この時期の曲としては非常に聴きやすいです。私がちょうどDIRを知った頃、こんな綺麗な曲も作れるのかと、一気に引き込まれた思い出深い曲でもあります。
曲展開としては、A,Bメロサビを2回、最後にCメロを挟んで大サビと王道J-POPのようにストレートです。前半はピアノとギターと歌のみで浮遊感がありますが、後半でベースとドラムが入ってくると、落ち着きつつもどっしりとしたサウンドとなり、ギターの浮遊感とのバランスが絶妙です。
サウンド面では、手数の多いドラムが魅力的ですね。テンポはゆったりしてますが、よく聴くとあちらこちらから音が聴こえてきて耳障りが良いです。ギターは全体的に高めの音が用いられており、サビでは薫さんの歌のようなフレーズとDieさんのカッティングが絡み合いもそれぞれの持ち味が出ています。
京さんの歌声も非常に美しいですね。マロウのバラードでは感情のこもった歌を聴けましたが、この曲では終始クールな歌声を聴くことができます。でもクールなだけでなく、静かな悲哀が込められているように思いますね。ラスサビではF#5までの高音域が難なく出ており、歌唱力の高さを感じます。
歌詩については京さんいわく、環境問題を扱っているということですが、酷いことが目の前で起こっていても、目を背けたり、何もできなかったりする無力さをテーマにしているように思います。「GLASS SKIN」というタイトルは、人間社会を覆う建前の脆さを、穴の開いたオゾン層とかけて表現しているのではないかと思います。
この曲は、2013年の「TABULA RASA」で1回、2017年の『UROBOROS』ツアーで2回聴いたことがありますが、Shinyaさんの叩き姿が優雅で美しいなといつも思います。『UROBOROS』武道館の2日目ではほぼ歌詩を変えて歌われていますが、最後だけ元の歌詩に戻るのがグッときます。
ちなみにこの曲で久々にTV出演もしており、非常に高いクオリティの生演奏を披露しています。またテレビでDIRの演奏見ることができる日はあるのだろうか…?

2 undecided

リメイクというよりは別バージョンという感じで、アコギメインの静かなアレンジになっています。切ないメロディはそのままに、枯れた雰囲気を纏った味わい深い一曲です。
原曲は静と動が分かれていましたが、本作は終始静かな雰囲気を纏っており、アコギと歌が目立ったアレンジになっています。穏やかさの中に切ない哀愁を感じますね。大きな変化としては、ギターソロが半分なくなり、代わりに歌メロが追加されましたが、この追加がいかにも当時の京さんって感じがします。
原曲者ということもあり、全体的にDieさんのアコギの哀愁漂うフレーズが目立っていますね。ギターソロも、原曲ほど悲痛さはないものの、穏やかに悲しみを表現しています。ドラムとベースの絡みはどこかレトロな香りがするというか、『UROBOROS』原版特有の古めかしい音が絶妙にマッチしています。
でもやはり一番のインパクトは京さんのボーカルですね。6年の年月を経て、単純に歌が上手くなっただけでなく、渋く太く、でも優しい声質になり、アコースティックなサウンドと相俟って味わい深い「枯れ」感が出ています。特に、追加されたメロディの切なさは、当時では生み出せなかったと思います。
歌詩については、追加された歌詩が本当に好きで、特に「長すぎる未来に殺されそうで」というフレーズが、「よくこんなの思いつくな」と初聴で感動した記憶があります。また、「僕」が「俺」に変わっていて、時の流れを感じますね…一人称変わるだけで、詩世界の時系列まで変わった感じがします。
このアレンジ、2019年の『The Insulated World』ツアーで演奏されたのを聴いたことがありますが、意外な選曲に驚きました。ライブ映像では、2008年の薔薇ツアーでの演奏が非常にクオリティが高いです。この曲を聴くと、京さんの真価は低〜中音域の歌声でこそ発揮されるように思いますね。

3 AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS -UNPLUGGED-

静かに聴かせる前2曲から一転、狂気の沙汰とも言えるようなホラーチックな仕上がりになっています。
洪水のように押し寄せる低音と、物悲しく陰鬱な高音のフレーズを奏でるピアノの音が、美しくも怖さを感じます。展開に合わせておとなしくなったり、激しくなったりと、一曲の中でも緩急があります。個人的には、夜の雷雨に打たれる山奥の洋館の一室での出来事…みたいなイメージが湧いてきますね。
京さんのボーカルはめちゃくちゃに叫んでいて、狂気に満ち溢れています。拡声器のようなエフェクトがかかっていていますが、それによりスクリームやホイッスルボイスのノイジーな部分が強調されており、酷たらしさが凄まじいです…後半ではファルセットのコーラスも入っていますが非常に不気味です。
リリース当時のライブでは原曲と共にセトリに入ることもあり、薔薇ツアーでは映像を見ることができます。コロナ禍のAUDIO STREAMで京さんがこの曲をセレクトしていましたね。いつかこの狂気を生で味わってみたいです。というか、この曲のアンプラグド版を作ろうという発想自体が狂ってますよね…笑


UROBOROS (2008.11.12)

7thアルバム。前作『THE MARROW OF A BONE』から1年9か月ぶりのアルバムで、世界17か国で発売されたようです。国内では通常盤、初回生産限定盤、完全生産限定盤の3仕様が発売され、完全生産限定盤では、LP版も付属しています。初回盤・限定版のDisc2には、「我、闇とて…」「INCONVENIENT IDEAL」「RED SOIL」のアンプラグド版が収録されており、さらに限定盤には「DOZING GREEN (Before Construction Ver.)」と「DOZING GREEN」「GLASS SKIN」の日本語リマスター版が収録されています。また、2012年には、『DUM SPIRO SPERO』のミックスを手掛けたTue Madsenによるリマスタリング盤『UROBOROS [Remastered & Expanded]』が発売され、アルバムとしては異例の扱いを受けています。

0 アルバム総評

記事内でも何度も記載しているように、DIRのアルバムの中では非常に評価の高い作品で、『Withering to death.』と並ぶかそれ以上に、最高傑作との評価を受けている作品です。何がそこまで評価されているのか、考えてみたいと思います。
まず、真っ先に思い浮かぶのは京さんの飛躍的な進化ですね。前作の時点から片鱗はあったものの、本作では本格的にグロウルを習得し、楽曲のヘヴィさに拍車がかかっています。それに加えて、前作からおなじみの高音域クリーンボイスや、ホイッスルボイス、スクリーム、ファルセットなどこれまで以上に変幻自在なボーカリゼーションを惜しみなく発揮し、楽曲に彩りを与えています。その後も京さんの表現は更に洗練され、進化していくのですが、基本スタイルとしては本作で完成したのではないかと思います。
次に、サウンドについてですが、こちらはShinyaさんのドラムの手数が、これまでとは比べ物にならないくらい増えています。「GLASS SKIN」のようなスローテンポの曲でも隙間なくタム回しが行われており、それにより、曲に締まりが出てきていますね。また、ギターについては、前作ではディストーションが中心の暴力的な音の割合が多かったですが、本作は要所要所でクリーンギターが効果的に用いられており、繊細さや悲哀、不安感を演出しています。
楽曲の雰囲気としては、前作は欧米のデスメタル的な印象が多かったですが、本作はそれとは対照的に中東やインドを思わせるようなアジアンテイストな曲が多いです。『DOZING GREEN』をリリースした時に、メンバーも自分たちらしさを意識したと語っておりますが、欧米で戦っていく中で、アジア的なものに自分たちらしさを見出したのかもしれませんね。密教の儀式的なオーラのある曲も少なくありません。そのため、全体的にどこか陰鬱で怪しい雰囲気が漂っており、一見取っつきにくい雰囲気がありますが、後述するようにメロディが非常に聴きやすいので、どの曲もピンとくる部分があるのではないかと思います。
ただ、個人的に思うのは、DIRのらしさは本来的にはアジアとか欧米とかに縛られないような柔軟さにあると思うので、その意味ではDIRらしいアルバムなのかと言われると、そうでもないようにも思ったりもします。以降の作品を辿った上で振り返ってみると、このアルバムはどこか異質な空気があるように思いますね。
また、本作は全体的に曲構成が複雑になっており、どの曲も様々な展開を見せています。その極致が「VINUSHKA」で、長尺のなかで目まぐるしく展開が変わりますが、他の曲も負けず劣らずという感じです。京さんの多彩なボーカリゼーションも相俟って、ただでさえ複雑な曲たちにさらなるカオスさが与えられています。ただ、前作は全体的にスクリームの割合が高かったですが、本作はクリーンボイスの割合が増えており、比較的歌に重点が置かれているように思います。全体的にメロディがキャッチーで、曲が複雑な割には聴きどころが分かりやすいので、そういう部分も高い評価を受けているのではないかと思います。アルバム全体としても、激しさと綺麗さが良いバランスになっていると思います。
歌詩については、かなり抽象度が増しています。基本的に伝えたいことはこれまでと同じ「人間社会の闇」「世の中に適応している他者への疑心、怒り」「適応できない自分への自虐」といったテーマだとは思うのですが、直接的な表現が少なくなり、どちらかと言えば京さんが頭の中で思い描いている情景の断片を言葉にして、それを並べているような内容になっています。ただ、そういう歌詩の書き方が、却って芸術性を感じさせるものとなっており、このような詩の書き方に影響を受けたアーティストも多いのではないかと推測しています。この「分かるような分からないような感じ」がちょうどいいなと思いますね。ただ、プロモーションの関係か、「DOZING GREEN」「GLASS SKIN」の2曲は英詩となっており、これに関しては日本語詩のままのほうが良かったと思いますね…暴力性の高い曲ならともかく、この2曲は歌とメロディが重要な鍵を握っているので、京さんの表現力の活きる日本語の方が合っていると思います。
最後に音質ですが、こちらは賛否両論ですね。音がかなりこもっていて、ギターは各弦の音が混ざっているし、ドラムはどこか古臭くて粗い音になっています。逆にベースはだいぶ聴こえやすくなりましたかね。ボーカルについても、グロウルは他の楽器の音に埋もれ気味です。上で書いたように、2012年にリマスター版がリリースされ、かなりクリアな音になりましたが、音質についてはメンバー自身も課題に感じていたようですね。ただ、癖のある音ではありますが、陰鬱なオーラのある本作の楽曲とはマッチしている、という肯定的な声も少なくはなく、実際、私も原版の方が好きですね。音が混ざり合っていることで、むしろ曲の得体の知れなさが強調されているように思います。
また、構成は複雑ですが、ライブでノれる曲も多く、ここが評価が高い要因でもあると思います。次作の『DUM SPIRO SPERO』は複雑さが評価されている反面、ライブでのノりにくさみたいなところが弱点とされていることを考えると、複雑なままノれるというのは、かなり良いバランスで曲が作られているということだと思います。
長々と書いていましたが、総評すると、一曲一曲の完成度が高く、アルバムとしてのバランスも優れた名盤と言えるでしょう。京さんのボーカルも一旦の完成を迎え、一つの到達点となったアルバムだと思います。とにかくクオリティの高いDIRの作品を聴きたい、という人がいたらまずこのアルバムをオススメします。

Disc1

1 SA BIR

OPとなるインスト曲。オリエンタルな雰囲気漂う、陰鬱さ全開の曲です。久々のインスト始まりとなっており、アルバム全体の世界観へのこだわりを感じますね。事実、この曲には『UROBOROS』というアルバムのイメージを象徴する雰囲気があると思います。
遠くから何かが迫ってくるような規則的な低音と、儀式的なパーカッションとギター、時折聴こえる京さんのシャウトが、東洋の宗教的なオーラを放っています。これから何かが始まるという高揚感と、どこか不穏な空気感が共存しており、これを聴くと、アルバムの世界観に一気に引き込まれますね。
実はこの曲、まだライブで聴いたことないんですよね。2017年の『UROBOROS』ツアーは2回行ってるものの、両日ともこの曲始まりじゃない方の日でした。あとは、『UROBOROS』武道館2日目で、最後にこの曲が流れたのが印象的でした。「SA BIR〜VINUSHKA」で始まって「VINUSHKA〜SA BIR」で終わるという、まさにアルバムタイトルを回収するかのような流れでしっくりきました。

2 VINUSHKA

本作の核となる曲。9分半にも及ぶ長尺の曲で、目まぐるしく変わる展開の中で、激しさと美しさをしっかりと両立させた非常に完成度の高い曲です。ある意味DIR EN GREYの名刺代わりとも言え、この曲を最高傑作に挙げる人も多いのではないでしょうか。
静かなメロディのパートから厨二心くすぐるセリフのパート、荘厳に、かつ狂ったように叫ぶ疾走パート、神聖さを感じるファルセットのパート、メロディが感動的なサビ、シャウトで狂い果てて終わるラストのパートなど、非常に多彩な展開ですが、無理矢理繋げている感じもなく、ごく自然な流れになっており、凄まじい構成力を感じます。
サウンド面では、ドラムの多彩なリズムパターンが聴き応えがありますね。特にタム回しが心地良いです。ギターについてもアコギの切ない音と、ディストーションの効いたリフやアルペジオとの対比が美しいです。2サビ前にはフルートも登場し、神聖さと退廃感が混ざったような不思議なオーラかあります。
ボーカルについては、当時の京さんの出せる声が全て入っていると言っても過言ではないです。気だるげな低音、最高音F#5の美麗な高音、野太いグロウル、悲鳴のようなホイッスル、妖しげなファルセット、囁くようなセリフ…等々。どこを切り取っても文句なしのボーカリゼーションだと思います。
歌詩は難解ですが、これまでのテーマとなっていた、綺麗事で悪意を隠す世の中への嘆きと、そこにハマれないことについての自虐が総括的に描かれているように思います。「女々しい思想に混ざり傷つける そんな君がなんだか悲しすぎる」が、メロディの盛り上がりも相俟って非常に印象的なフレーズです。
この曲、メンバー自身も自信作として考えているのか、出し惜しみなくフェスでも演奏されているんですよね笑 一番印象に残っているのは2017年の『UROBOROS』ツアーで、やはりアルバムを引っさげたツアーで聴くのが一番しっくりくるなと思いました。音源と違い、「此処が真実だ」を大声で叫ぶのが盛り上がりますね。
余談ですが、この曲、2022年の楽曲バトルで、あの「-I'll-」に51% VS 49%という、かなりの僅差で敗れてるんですよね。「-I'll-」は最終的に1位だったので、実質的にこの曲が2位とも言えるのですが、敗れたのが早く、25周年ツアーではセトリに入りませんでした。このツアーでこそ聴きたかったのに…笑

3 RED SOIL

Dieさん原曲の、アジアンテイスト全開なメタル曲。短い尺の中で様々な展開が繰り広げられ、妖艶さと狂気が共存しています。MVも存在しており、本作でもキーとなる曲ですね。珍しくShinyaさんのツーバスが聴ける曲でもあります。
前半はメロディアスな英詩のパートですが、サビではグロウルで疾走。その後に、妖艶なメロディパートを挟んだ後に、発狂したかのように奇声をあげる京さんのパートがあり、最後にまたグロウル疾走パートで終わります。メロディもキャッチーで、疾走パートもめちゃくちゃノれるので、隙がありませんね。
サウンド面ではやはりShinyaさんのツーバスが耳を惹きますね。珍しいというのもありますが、サビの疾走感と重厚感に合ったプレイだと思います。また、ギターもパートによって表情を変えており、高めのブリッジや、不協和音のクリーンなどは妖しさがありますが、激しい部分はゴリゴリに攻めてきます。
京さんのボーカルも表情豊かですね。前半の英詩のパートは淡々と歌っているものの、そもそもの声質が良いなとやっぱり思いますね。サビは全てグロウルですが、かなり低く野太い声が出ています。ラスサビ前の発狂パートは、正直ちょっと笑えるんですが、かなり器用に叫んでいると思います。
歌詩は、apostle(使徒)や羊小屋、全能なる神など、キリスト教を想起させる言葉が散りばめられていますが、キリスト教を「平等」の象徴として、その裏にある不平等や社会の闇を取り上げ、皮肉を投げかけているのかなと解釈しています。アジア色の強い曲調でこの歌詩はどこかメッセージ性を感じますね…
この曲は何回かライブで聴いていますが、サビでめちゃくちゃ頭振れて楽しいですね。サビで「insanity」「gone desire」とコーラスを叫ぶのも気持ちいいです。音源の発狂パートでは、ライブでは煽ってくることが多いですが、稀にあの発狂を再現してくることがあるみたいですね笑

4 慟哭と去りぬ

リズムパターンが複雑な変態曲。一応最初から最後まで6/8拍子みたいですが、油断するとすぐリズムが取れなくなりますね。ヘヴィなグロウルのパートと超美麗なサビとの対比が面白い曲で、DIRの曲の中でもひときわカオスを感じる曲です。
「RED SOIL」のアウトロのSEからそのまま曲が始まり、複雑なドラムのリズムにのせて次々と展開が変わっていきます。京さんの吐息が聴こえる怪しげな囁きのパートから、グロウルで疾走するパート、美麗なクリーンボイスが響くサビなど、展開に合わせて京さんのボーカルアプローチも変わるのが面白いですね。
サウンド面ではやはり複雑なドラムのタム回しが面白いですが、要所要所で存在感を見せてくるベースや、クリーンとディストーションを巧みに使い分けたツインギターについても聴きどころ満載です。カオスなパート、疾走するパート、メロディアスなパートで、三様にアプローチが変わるのが面白いですね。
京さんのボーカルもこれまた変幻自在ですね。グロウル、クリーンボイスはもちろんのこと、吐息音や、「without you」のファルセットや「blueなカラ空」の巻舌スクリームなど、これまでには見られなかったようなアプローチも多数見られます。それでいてサビの高音は美麗で、普通に歌唱力で圧倒してくるあたりが憎いですね笑
歌詩はまたまた抽象的ですが、「見せ掛けの選択無き道ばかりを連れやってくる太陽」は世界を憎みながら毎日を生きなければならない苦しみと、ささやかな抵抗を歌っているのかなと解釈しています。最後に「運命だろうが壊してしまえ」で終わるのがクールですね。でもこれ自殺の可能性もあるかも…笑
この曲もなかなかのレア曲で、私は2017年の『UROBOROS』ツアーで聴いたのみですね、リズムパターンが複雑なわりに意外とノれて楽しかったですね。あとはやはり、サビの高音に圧倒された記憶があります。ちなみにカラオケだとリズム取るのめっちゃ難しいです笑

5 蜷局

全編クリーンボイスのミドル曲。ここまで中東チックな曲が多かった本作ですが、この曲は強烈に「和」を感じる曲となっています。うねりを感じる妖艶で怪しげなサウンドと、京さんの広い音域を活かした独特のメロディラインが特徴的な曲です。
イントロの薫さんのリフからして、タイトルの「蜷局」を感じさせるようなうねりを感じますが、全体的にどこか身体をくねらせたくなるようなサウンドになっています。全編クリーンボイスですが、1サビと2サビはキーが1オクターブ違っていて、後半にいくほど、歌のキーが上がっていくのが特徴です。
サウンド面では、薫さんとDieさんでそれぞれ違った音域でうねりの効いたフレーズを奏でているのが面白いですね。特にDieさんのギターの音がしなやかに曲に切り込んでいくのが好きです。ドラムについてはリズムは一定ですが、手数の多いフレーズを要所に混ぜ込んでくることで、単調さは全く感じません。
京さんのボーカルは全編クリーンボイスですが、前半と後半で使っている音域が全く違うため、非常に聴き応えがあります。特に後半の高音域のボーカルは、前半との対比も相俟って圧巻です。個人的には「指でなぞる答え」の後の絞り出すような高音ロングトーンが気に入ってます。
歌詩はこれまたよく分からないのですが、快楽に溺れて壊れていく人間の姿が描かれているように思います。全体的にエロさを感じるというか、案外自慰とかに関する歌詩だったりするのかなぁとか思ったり(と見せかけて自傷かもしれませんが)。「サヨナラ人間」がなかなか印象的なフレーズです。
ライブではこれもレア曲なんですが、私は2017年の『UROBOROS』ツアー以外に2018年の「WEARING HUMAN SKIN」ツアーでも聴いたことがあります。ギター2人の絡みが印象的で、自然と体が揺れるような心地良さがありましたね。京さんはちょっとキツそうでしたが、高音を絞り出していました。

6 GLASS SKIN

22ndシングルの英詩版。歌詩の内容が変わっています。こちらはもう少しパーソナルな表現になっていて、日常の至る所に散らばる痛みから目を背けて、建前を取り繕う人間の残酷さを感じ取れ、ある意味、日本語版ともテーマは共通していそうです。
歌詩が変わっている分メロディも若干聴こえ方が違ってくるのですが、未だに耳が慣れていない感じがしますね…この曲は歌詩の美しさも含めて透明感があると思うので、やはり日本語詩で聴くのが良いなと思います。

7 STUCK MAN

Dieさん原曲の、ミクスチャー要素が含まれたヘヴィロック。本作の中では比較的遊び心に富んだ楽曲で、ラップのような歌唱法や、ベースのスラップが特徴的です。音が重いのにどこか軽やかさを感じる不思議な曲ですね。
ドラムの音から曲が始まり、ラップとスラップを主軸としたパートと、グロウルとヘヴィなギターを主軸としたサビを交互に繰り返します。後半は展開がガラッと変わり、籠もった音の怪しげなパートを挟み、終盤は躍動感溢れるヘヴィなパートで攻めてきます。旧「Hydra」にちょっと構成似てるかも?
サウンド面ではToshiyaさんのスラップが存在感を放っていますが、Dieさんのギターも負けず劣らずグルーヴ感溢れるカッティングを披露しています。ラップのパートでは各々好きなフレーズを弾いていますが、ヘヴィなパートではユニゾンしており、躍動感溢れるドラムの上で、重たく暴れています。
京さんのボーカルはかなり遊び心に富んでますね。ラップの部分は、少し裏声混じりで色っぽくはっちゃけてますが、サビのグロウルはかなり凶悪です。後半はホイッスル混じりの高音デスボイスを頻発しており、「1lbの肉を〜」あたりはかなり悲痛な叫び声です。最後のホイッスル3連発も凄まじいですね。
歌詩はタイトルからも、「RED SOIL」とも通ずるような、高潔なキリスト教的思想の背後で起こっている社会の闇をテーマにしているのかなと解釈しています。「Fake God wake up and go to hell」「奴等の思想に墓石を叩き付けるのは誰?」「貴様等も精神性ナルシスト」など攻撃的な表現が目立ちますね。
この曲、かなりノりやすいからか、近年はアンコールで時々演奏されてる曲って言う印象なんですが、私は2017年の『UROBOROS』ツアーでしか聴いたことがありません。決して軽快ではないものの、飛び跳ねやすいリズムということもあり、結構楽しめましたね笑

8 冷血なりせば

Shinyaさん原曲の、宗教的な雰囲気をまとった暴れ曲。ですが、展開が凝っており、不気味な軽快さとヘヴィな攻撃性を兼ね備えた楽曲です。MVも制作されている他、一時期はライブ定番曲となっており、本作の中でも重要な立ち位置の曲です。
前曲から間髪入れずに疾走しますが、軽快に跳ねるメロと、ヘヴィに攻めるサビとを交互に繰り返します。中盤には一度曲が終わったかと思いきや、民族楽器を用いた儀式のようなパートが始まり、最後はまた激しくなります。この溜めて一気に疾走する展開にカタルシスを感じますね。
サウンド面では、ギター二人が特に面白くて、メロのパートではそれぞれ効果音的なフレーズを弾いてますが、ライトハンドのハモリから一転してサビでは洪水のようなユニゾンリフで攻めてきます。ベースもメロのパートではノリノリで、妙な軽快さが曲の不気味さを引き立てています。
ボーカルは、歌メロは少なく、叫んでいないパートでも声を歪ませている部分が多いです。一方で、儀式のパートでは高らかに歌い上げていますが、ここではDIRの主旋律最高音のG#5のロングトーンが聴けます。「DESTROY」以降は喉を潰す勢いで叫び倒し、ラストのホイッスルも非常に高くて圧巻です。
歌詩は全英詩で、皮肉と攻撃性が込められており、綺麗に着飾って生きている人たちに対する痛烈な批判をぶつけています。しかし、この手の歌詩になると、大概自虐も入ってくるんですが、この曲では一方的に攻撃してますね。「Money? Fame? Success?」がシンプルに印象的です。
『UROBOROS』〜『DUM SPIRO SPERO』期は毎回ライブで演奏されるほどの定番曲でしたが、近年は頻度が減りましたね。ライブだとイントロが追加されており、それがまたカッコいいんですよね。印象的なのは「Wacken Open Air 2011」の映像で、G#5ロングトーンが完璧に出ており、その後のグロウルもキレッキレで、鳥肌が立ったのを覚えています。DIR史上5本の指には入るくらいの名パフォーマンスだと思います。ライブ全体としては、環境もコンディションも最悪だったからこそ、余計にこの曲の良さが際立っていたというか。

9 我、闇とて…

京さん原曲の、悲哀に満ち溢れたバラード曲。DIRの曲の中でもキーが非常に高い曲で、胸を突き刺すような切ないメロディと歌声が魅力的です。『VESTIGE OF SCRATCHES』にも収録された人気曲で、「VINUSHKA」が表向きの核とすればこちらは裏の核と言えるのではないかと思います。
前半はアコギの音を主体に低〜中音域をじっくり聴かせてきますが、後半からはエレキギターの音が入って少しずつ激しくなり、どんどんキーも高くなってきます。音数は少ないものの、意外と動きの多いサウンドなので、音に隙間があまりないですね。全編に渡って、情熱的に悲しみを訴えかけてきます。
サウンド面では、静かに動き回るドラムが印象的です。激しくはないものの、あちらこちらで流れるようにタムの音が聴こえてくるのが気持ち良いです。ギターについては前半のアコギの音が切なくて良いですね。後半でエレキに変わりますが、薫さんのスライド音ともに曲が盛り上がる感じが好きです。
京さんについては、歌い方を崩すことなく、綺麗な声で感情的に歌っています。特に後半は、ほぼほぼ高音域で、コーラスも入ってないので、純粋に京さんの高い声を十二分に堪能できます。「冷酷に見えて」の千切れそうな声が良いですね。ラスト間際に一度だけシャウトしてますが、本当に悲痛な声ですね…
歌詩はファンに向けて書かれたということもあり、メッセージ性が強いですね。京さんにとってのファンは、分かり合えると信じたいけどやっぱり究極は分かり合えない存在で、だからこそ苦しいのかもしれません。「せめて今を声に変えて 明日の条件」というのはある種の落とし所なのかなと思います。
この曲はライブではかなりのレア曲で、2017年の『UROBOROS』ツアーでもほとんどの公演で演奏されていません。私は運良く聴くことができたのですが、キーが高いからか、やっぱり歌うの難しいのかなという印象は受けました。でも、やはり曲の訴求力にすごく引き込まれるような感覚になりましたね。

10 BUGABOO

密教的な雰囲気のあるヘヴィロック。暗く重たく、怪しくも妖艶な気だるさを纏っていますが、途中で疾走したりと、一筋縄ではいかない曲です。ある意味UROBOROSの宗教的な要素が最も濃く出ている曲ですが、不思議とキャッチーさもあり、面白い曲ですね。
前半は京さんの静かな低音がうねっているメロと、グロウルでねっとりと攻めてくるサビが交互にきますが、中盤で疾走し、最後にまたサビに戻ってきます。曲の複雑さの割には全体的に音数が少ないですが、この少し隙間のある音作りが、逆に怪しさを引き立ているように思います。
サウンド面では、ドラムのタム回しが聴き応えがありますね。UROBOROSは全体的にドラムの手数が多いのが特徴的ですが、この曲のように遅い曲のドラミングは、まるで「歌」のような味わいがあります。あまり音が重ねられていないギターが、左右から曲にねっとりと絡み合っている感じも癖になりますね。
京さんはこの曲でも多彩なボーカリゼーションを見せつけてきます。特徴的なのは、サビのグロウルのロングトーンですね。グロい声ですが不思議と耳障りが良いです。また、ファルセットの使い方が面白く、独特の妖しさを感じます。後半ではハイトーンのクリーンボイスも登場し、一気に情熱的になります。
歌詩は…すみません正直全然理解できないです笑 なんとなくですが、犯されて望まない妊娠をした女性が絶望のままに狂ってしまった情景を表現しているのかなと解釈しています。「灼熱の曼荼羅へちりけり」というフレーズが、意味は分からないですが、メロディとともになんか癖になります笑
この曲はライブで3回聴いたことがありますが、直近の『PHALARIS』のファイナルツアーで聴いたのが印象的でした。サビで頭が振れるのが気持ち良い曲ですね。映像では「Wacken Open Air 2011』が印象に残っていて、「DOZING GREEN」 → 「BUGABOO」 →「冷血なりせば」と、徐々に立て直していく感じが良いんですよね。

11 凱歌、沈黙が眠る頃

DIRらしさ全開のダークでキャッチーなキラーチューン。デスボイスと共に疾走するパートと、綺麗でキャッチーなサビの対比が美しい楽曲です。アルバム後半の暴れ曲枠ではあるものの、シングルカットしても通用する構成の曲だと思います。
最初は京さんのセリフとともに静かに始まりますが、一気に速くなり、凶悪なグロウルのパートが始まります。一方、サビはかなりキャッチーで、一度聴いただけでも覚えられそうな耳馴染みの良さがありますね。終盤はテンポが遅くなり、京さんのシャウトともに、重々しくゆっくりと終わっていきます。
サウンド面では、ギター2人が奏でる単音のリフが印象的で、サビのメロディと共に非常に耳に残るフレーズになっています。またイントロのタッピングも、切ない浮遊感があって良いですね。また、速いパートのドラムの疾走感も気持ちいいですね。京さんのデスボイスと絡み合っていて勢いが凄いです。
京さんのボーカルについては、まずグロウルがアルバム一、低い声でカッコいいですね。完全に曲に溶けています。対照的にサビはかなり美麗な声で、「望まれない?愛でもない?」の韻の踏み方が美しいです。終盤は『THE MARROW OF A BONE』の時のような凶悪なスクリームと、か細くも妖しいファルセットが混ざり合ってカオスです。
歌詩は、タイトルからして戦争のことを歌っているように思います。戦争によって残った遺物や惨状に付き纏う「後戻りのできなさ」に焦点を当てているように思います。「Salute the monkey The desires to combine with god」は神にでもなったつもりの人間への皮肉かもしれませんね。
ライブでは2017年の『UROBOROS』ツアーをはじめ、何回か聴いたことがありますが、ライブだと疾走パートやサビもさることながら、終盤のスローになる部分が圧巻ですね。この部分では京さんがアドリブでファルセットやグロウルを混ぜ込んでくるのですが、音源にはない狂気を見せつけてくるのがたまりません笑

12 DOZING GREEN

21stシングル。「GLASS SKIN」と同様、英詩版が収録されており、詩の内容は日本語版を忠実に英訳したものになっています。
こちらは「GLASS SKIN」と比べると、比較的英詩も悪くはありませんが、やはり日本語詩の方が京さんの表現力が十二分に発揮されていると思いますね。アルバム終盤の重要なポジションの曲なので、なおさら日本語詩で収録してほしかったと思います。

13 INCONVENIENT IDEAL

本作のラストを飾る壮大なロックバラード。重苦しい空気で埋め尽くされた『UROBOROS』でしたが、この曲は暗い中にも僅かな解放感がありますね。繊細さと力強さが混ざり合ったサウンドと、京さんの伸びやかな歌声がアルバムを締め括ります。
メロのパートは音数少なく、ドラムとベースを主体に京さんの静かな歌声が響いていますが、サビになると一気に音数が増え、壮大になります。間奏ではクリーンギターのフレーズが儚く響き、デスコーラスのパートで溜めてラスサビでまた壮大に音が広がっていきます。三拍子のリズムが心地よい曲ですね。
サウンド面では、ギターのクリーンとディストーションの使い分けが見事で、特にクリーンが美しいですね。イントロとアウトロだけに入っているアコギも良い味を出しています。静かなパートでのベースのグイグイ引っ張ってくる感じも良いです。ドラムはさりげなく混ぜ込んでくるタム回しが心地良いです。
京さんのボーカルはほとんどクリーンとファルセットですが、とにかく綺麗の一言に尽きますね。サビの音域がかなり高く、コーラスも多いので非常に壮大な歌になっています。上ハモのコーラスはもはやホイッスルの声質ですね。この繊細さと力強さが混ざった表現は京さんにしかできないと思います。
歌詩は、まさに本作を総括するような、誰も望んでもないだろうに醜く争い合う人間の世の中で生き続けることをテーマにしているように思います。最後に出てくる「全てが捻じ曲がる 紅い闇の中 高々しく掲げた命を」というフレーズが個人的に気に入っていて、ここに力強い解放感をおぼえますね。
ライブでは2017年の『UROBOROS』ツアーで聴きましたが、この曲には本当に引き込まれましたね。後述するアンプラグド版も含めた壮大で耽美なイントロから始まりますが、歌っている京さんの姿が非常に神々しかったです。『UROBOROS』のライブでは一番印象に残った曲かもしれません。

Disc 2 (完全生産限定版)

1 我、闇とて… -UNPLUGGED-

ピアノとボーカルのみで構成されています。ボーカルは原曲のものが流用されていますが、音が少ない分、声の細部まで聴こえますね。ただ、ピアノの音がちょっと低すぎる気がしますね…正直、美麗さで原曲に勝てていない印象で、何か惜しい感じがします。

2 INCONVENIENT IDEAL -UNPLUGGED-

パイプオルガンと歌だけで構成されています。コーラスなしで主旋律が聴けるのがポイントで、京さんの素の歌声の力強さがよく分かります。近年のライブでは、冒頭だけこのバージョンが演奏され、その後原曲が始まるようなアレンジになっています。比較的西洋色の強い曲ということもあり、パイプオルガンとの相性は抜群です。

3 RED SOIL -UNPLUGGED-

ピアノとボーカルのみで構成されています。ボーカルは録り直されており、グロウルだった部分がメロディになっていたりと、別解釈の「RED SOIL」として楽しめるアレンジになっています。不穏なピアノの音が不安と焦燥感を煽りますが、どこか美しさがありますね。終盤は悲痛な叫びで埋め尽くされており、原曲とはまた違った狂気を感じます。

4 DOZING GREEN (Before Construction Ver.)

シングルとして出されたものとはもはや全然違う曲です。音像的には『THE MARROW OF A BONE』を引き継いでいるような感じで、少し音が荒いです。イントロのギターのブリッジがカッコよくて気に入ってます。
メロディの一部はシングル版にも引き継がれていますが、ほとんど変わっていますね。サビのメロディはシングル版とは違った意味でキャッチーで、どこか哀愁漂うオーラがあります。
シングル版とは異なり、中盤にシャウトで発狂するパートがありますが、ここの暴れっぷりが心地良いですね。
歌詩はシングル版より分かりやすく、伝えたかったことが読み取りやすくなっています。あちらこちらで起こっている加害的なことから目を背けてのうのうと偽善をばら撒いている人たちに囲まれて生きているうちに、「優しさ」の在処が分からなくなり絶望しているような、そんな感覚が表現されているように思います。
しかし、こっちのバージョンもかなりクオリティが高いですね…こっちの方が良かったと思う人も少なくないのではないでしょうか。『UROBOROS』の世界観的にはシングル版の方が合っているとは思いますが、個人的にはこっちのバージョンもいつかライブで聴いてみたいと思います。

最後に

名実ともに最高傑作との評価を国内外から受けるような名盤を作り上げたDIR EN GREY。このアルバムを機に、「モンスターバンド」と称されるようになったと言っても過言ではないと思います。

次回はそんな名盤『UROBOROS』を超えることを意識して制作された、超濃厚な作品『DUM SPIRO SPERO』です。私が虜になって、初めて新作としてリリースされたとても思い出深いアルバムなので、非常に楽しみです。

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