【DIR EN GREY 楽曲感想】『改-KAI-』
今回は、リミックスアルバム『改 -KAI-』について、感想を書いていきたいと思います。
※この作品は『MACABRE』期の1作品という位置づけなので、リリース前後の活動状況については、そちらを参照していただけると嬉しいです。
改-KAI- (2001.8.22)
DIR初のリミックスアルバム。主に『MACABRE』収録曲を中心に、13曲のリミックスバージョンが収録されています。
0 アルバム総評
全体的に、当時の流行?だったエレクトロニカやドラムンベース風にアレンジされています。メンバーがリミックスした曲もあれば、他のアーティストがリミックスした曲もありますが、正直、曲によって合ってるもの、合ってないものがあり、よほどDIRのことが好きでない限りは、アルバムを通して聴き込もうとは思えない作品なんじゃないかなと思います。
とはいえ、メンバーが担当した曲は、メンバーのルーツや音楽性を感じ取れて面白いですし、それ以外にも良いアレンジの楽曲もあるので、全面的に駄作というわけではないと思います。また、次のアルバムの『鬼葬』に関しても、このアルバムのアレンジから着想を得ている曲もあるのではないかと思いますし、この『MACABRE』〜『鬼葬』の間の時期にDIRが何を模索していたのかを知る手がかりにもなると思います。その意味では、DIRのことが本当に好きで、少しでもDIRを知る手がかりが欲しい人については一聴の価値はあると思います。
とはいえ、私自身、このアルバムを通しで聴く気にはあまりなれませんね…あくまでたまにお気に入りの曲を聴くぐらいで、アルバムとしてのクオリティについては、正直、満足とは言えないという感想です。あくまでもコレクターズアイテムという感じですね。
1 Hydra Buzzout mix(remixed by Munenori Takada、Ayumi Yasui)
原曲は宗教的な雰囲気がありましたが、本作は近未来的なシンセの音が特徴的なアレンジです。ベースのリフが強調されているのが特徴的で、重ための金属音が癖になります。途中、sukekiyoの「嬲り」に似たようなアコギのフレーズが現れ、原曲とは違った意味で不穏な雰囲気がありますが、ここは非常にカッコいいですね。全体的に、原曲よりも綺麗にまとまった音作りに感じます。
2 羅刹国 za downtown funkmaster remix(remixed by BANANAICE from 下町兄弟)
原曲は知っての通りゴリゴリのデスメタルですが、本作はオシャレで軽快なファンクになっています。本来はラップを乗せるようなリズムだと思いますが、ドスの効いた京さんの歌声がそこに乗っかってきており、絶妙なミスマッチ感が面白いですね。浮遊感のあるサウンドの上で、喉を傷めそうなシャウトが響き渡っているのがなんとも。確かに意外性はあるんですが、逆に意外性以上のものは感じ取りにくいかな…というのが正直な感想です。
3 太陽の碧 -Mix®-(remixed by Toshiya)
Toshiyaさんによるリミックス。波音とウクレレの南国感漂うアレンジの上で、「常夏のビーチに来た若い女性達が偶然メンバーに出くわして夜遊びに行く」という内容の小芝居が繰り広げられます。途中打ち込み音が入って激しくなりますが、この場面で女性の喘ぎ声や合いの手が入ってきたりと、今のDIRでは絶対やらなさそうなアレンジになっています笑 正直、原曲の儚いイメージが崩壊するような内容なので、思い切ったことしたなあという感想です。
4 304号室、白死の桜 Sub Dub Mix(remixed by DJ Chan-K(Kiai Recordings))
日本的情緒と90年代的なノスタルジックな面影はなくなり、疾走感のあるエレクトロニカになりました。少しスペーシーな雰囲気もありますね。ギターのスクラッチ音が効果的に混ぜ込まれていたり、少し儚げな雰囲気のあるベース音やシンセの音が良い味を出していますね。ただ、アレンジ自体は嫌いじゃないですが、「304号室」の歌メロの繰り返しが少しクドイ感じもしますね。
5 ain't afraid to die 〜with frosted ambience〜(remixed by Die)
Dieさんによるリミックス。原曲の終盤の壮大なパートから始まり、そこからはボサノバ風のアレンジに切り替わります。ジャンベやアコギを活かしたオシャレな雰囲気になっており、悲壮感漂う原曲と比べると、安らぎを感じますね。途中で子どもコーラスがフィーチャーされたパートに入り、そこで終わりかと思いきやまた始まり、ボサノバに加えてストリングスも入ってくるという、面白いアレンジになっています。ハモリなしの京さんの声がじっくり聴けるのが良いですね。
6 egnirys cimredopyh
+)an injection PCM re-constructed attack
(remix and additional production by Phab Com Masters)
ファンキーなミクスチャーロックだった原曲は、ノリノリのダンスビートに生まれ変わりました。聴いてて楽しいアレンジではありますが、ほとんどイントロのフレーズを繰り返しているだけで、あまり原曲の要素が活かされていないように思います。後半に進むほど盛り上がりを見せてきますが、ちょっと長すぎる気もしますね…最後は何故か不気味な余韻を残して終わります。
7 MACABRE -揚羽ノ羽ノ夢ハ蛹- Tears of scorpion mix
(remixed by Munenori Takada、Shuichi Ikebuchi)
知っての通り、原曲は長尺のプログレ曲でしたが、軽快なダンスビート調の曲になりました。ただ、前曲とは異なり、原曲のクリーンギターや効果音が活かされており、シリアスな雰囲気は残っています。特に、クリーンギターのアルペジオが、心地良い浮遊感を生んでいるように思います。後半のアコギの入り方も良い感じですね。アレンジとしては嫌いではないですが、せめてサビの歌メロを1回くらいは入れて欲しかったなという気持ちがありますね。
8 脈 [8 1/2convert](converted by 薫)
薫さんによるリミックス。原曲のフレーズを利用したビートの上で、「キャッチセールスマンが女性に声を掛けているところを女性の彼氏がやってきて、そのまま口論となる」という小芝居が行われるという、シュールな構成になっています。芝居のクオリティはともかく、所々に入ってくる原曲のノイジーな音はカッコいいですね。彼氏の携帯電話の着メロが「脈」のサビなのも面白いです。まさかのCOUNT DOWN TVエンディングテーマで、リミックス音源では唯一、タイアップが付いています。MVも制作され、『鬼門』の隠しトラックに入っています。
9 理由 Susumu Yokota Remix(remix and additional production by Susumu Yokota)
原曲はメロディアスなミドル曲でしたが、本作は四つ打ちのドラムンベース風のビートの上でサビの「これ以上」というフレーズが、エコーのかかった声で繰り返されています。途中でサビのメロディがフルで入ってきますが、サウンド的には原曲の面影は全くありません。ビートの音は聴いていて気持ちいいですが、正直、「理由」の世界観とはあまり合っていないような気がしますね…
10 ain’t afraid to die Irresistible Mix(remixed by Shinya)
Shinyaさんによるリミックス。前半はグロッケンのような音がフィーチャーされた、少しクリスマス感のあるメルヘンチックなアレンジになっています。後半はピアノとボーカルで、ややしんみり感のあるアレンジになり、原曲の寂しさを引き継いでいます。かと思いきや、終盤でシンフォニック風になり、壮大で美しいアレンジになります。女性のコーラスを入れていたり、綺麗でドラマチックに仕上げているあたりがShinyaさんらしいなと思います。
11 raison detre NANAGO Mix(remixed by DJ Chan-K (Kiai Recordings))
原曲の時点からダンスビート系の曲だったのですが、本作ではドラムンベース風にアレンジされており、かなり親和性が高いですね。中毒性のある電子音のビートに、原曲のギターリフと歌メロが乗っかっていますが、違和感なく溶け込んでいます。歌メロのない部分で流れているシンセのリフも個人的に気に入っています。どうせならサビのメロディも入れてほしかったですが、個人的にこのアルバムでは一番好きかもしれないです。
12 【KR】cube −K.K. Vomit Mix−(remixed by 京)
京さんによるリミックス。京さんらしいテンポ早めのトランス系のリミックスで、所々で使用されている原曲のフレーズと、リズム感が非常に癖になります。後に制作される詩集に収録されている曲や、「G.D.S.」のような雰囲気がありますね。和製ホラー感のあるシンセの音が入ったり、終盤はボーカルの逆再生のフレーズも混ざってくるようになり、カオスな感じで終わります。この曲も結構好きです。
13 蛍火 THE NAME OF THE ROSE MIX(remixed by ISSAY (HAMLET MACHINE))
V系の源流となるバンドの一つに数えられるDER ZIBETのボーカルISSAYさんによるリミックス。原曲はメロディとストリングスが美しいミドルバラードでしたが、本作はその美しさ、ドラマチックさを崩さないままに、インダストリアル風にアレンジされています。どことなくBUCK-TICKのバラード曲にも近いような音像になっているような気もします。このアルバムを締めくくるにふさわしいクオリティだと思います。
最後に
今ではあまり考えられませんが、この作品自体、当時のメンバーなりの遊び心だったのかもしれないなと思いますし、次に向かうためにいろいろと試行錯誤していたのかもしれません。事実、次の『鬼葬』では劇的に音楽性が変わっており、そこに至るまでにいろんなインプット、アウトプットが必要だったのだと思います。そういう視点でこのアルバムを聴いてみると、面白さを感じますね。
この作品、決して忘れていたわけではなかったのですが、リミックス集ということもあり、なかなか書き始める気になれなかったというのも本音です。でも記事を書くために、この音源をしっかり聴くきっかけになったので、結果的に良かったと思います。