【DIR EN GREY 楽曲感想】『PHALARIS』
今回は11thアルバム『PHALARIS』期の楽曲について、感想を書いていきたいと思います。
『PHALARIS』期の活動状況
2020年
1月29日に、BUCK-TICKのトリビュートアルバムである『PARADE III 〜RESPECTIVE TRACKS OF BUCK-TICK〜』に「NATIONAL MEDIA BOYS」のカバーを提供します。BUCK-TICKへのリスペクトを感じさせつつも、DIRらしい、ヘヴィで展開の凝った作品に仕上がっています。
その後は前作『The Insulated World』の記事でも記載したように、世界中がコロナ禍という未曾有の事態に陥り、予定していたツアーやライブがすべて中止となりました。DIRも無観客ライブや「AUDIO LIVESTREAM」などの取り組みを行っていましたが、やはりライブができないというのは、バンド、ファン双方にとっても大きなダメージでした。7月に予定していた『The Insulated World』の完結ライブ「The Insulated World -The Screams of Alienation-」も中止となり、モヤモヤが残る形で『The Insulated World』の世界観は幕を閉じます。
その直後、8月3日に、31stシングル『落ちた事のある空』をリリースします。コロナ情勢を考慮してか、初のデジタル配信シングルという形式でのリリースとなりましたが、本来ならば、「The Insulated World -The Screams of Alienation-」でお披露目されていた予定だったのではないかと思います。まるで先が見えない状態でしたが、この新曲のリリースは一筋の希望を感じさせられましたね。
しかし、その後も活動の見通しが立たないまま時間が過ぎていきます。12月にはメンバーのトークも含む「爆音上映会『The World You Live In』」が4都市で開催され、12月31日には同内容のデジタル爆音上映会が行われましたが、なかなかライブ活動再開には至りませんでした。
2021年
2月16日~4月7日にかけて「爆音上映会『目黒鹿鳴館GIG』」が全国各地で開催されます。こちらは目黒鹿鳴館にて撮影された、完全新録の無観客ライブ映像を上映する会で、日によってセットリストが変わるなど、実際のツアーのような試みがなされていました。「落ちた事のある空」と「CLEVER SLEAZOID(2020)」のライブ初披露を目玉に、『The Insulated World』期の楽曲をメインにセットリストが構成され、そこに「JEALOUS」や「秒「」深(2002)」などのレア曲も入ってくるという、いつものツアーのようなセットリストの組み方でした。
4月28日には32ndシングル『朧』がリリースされます。過去の「かすみ」を彷彿させるこの新曲は、美麗なサウンドとメロディが高く評価されており、この時期の代表曲として今なお支持されている楽曲です。
そして6月5日、ついにライブが解禁されます。2020年に中止となったツアーである「疎外」というタイトルを冠したライブが、東京ガーデンシアターにて開催されます。この公演も、本来は5月3日に開催される予定でしたが、延期となり、この日に開催されています。「マスク着用、声出し禁止」という制限付きではあったものの、このライブの開催を心待ちにしていたファンも多かったのではないかと思います。内容としては、「朧」のライブ初披露、「落ちた事のある空」「CLEVER SLEAZOID(2020)」の初生演奏を筆頭に、引き続き『The Insulated World』期の楽曲を中心にセットリストが構成されていました。何気に「DOZING GREEN(Acoustic Ver.)」も初披露されています。見方によっては、このライブをもって『The Insulated World』期が完結したと思う方もいるかもしれませんね。
そしてこのライブを皮切りに、徐々にライブ活動を再開していきます。9月3日~11月13日にかけて、約2年ぶりの国内全国ツアーとなる「TOUR21 DESPERATE」が開催されました。残念ながら私は参加できなかったのですが、「T.D.F.F.」がライブ初披露された他、「Spilled Milk」「REPETITION OF HATRED」「「欲巣にDREAMBOX」あるいは成熟の理念と冷たい雨」「滴る朦朧」「てふてふ」など、『Withering to death.』以降の楽曲(しかも近年演奏率がそれほど高くない楽曲たち)がごった煮になったようなセットリストだったようですね。アルバムに縛られないツアーのセトリは面白いことが多いので、行きたかったなと思います。このツアーをもって、2021年の活動は幕を閉じます。
2022年
1月26日、27日に「THE FINAL DAYS OF STUDIO COAST」という2DAYSのライブが行われました。2004年以来、DIRのライブ活動において重要な役割を果たしてきたSTUDIO COASTですが、コロナ禍による業績悪化の影響で、残念ながら閉館することとなり、演奏回数が最も多かったDIRが最後のライブを行うことでその歴史に幕を閉じています。そういった経緯もあるからか、『VULGAR』以降の各時代のライブ定番曲で占められたセットリストで、終わりを称えるような意味合いの強いライブとなりました。私は行っていないのですが、ライブ映像で見た、ラストの「鼓動」の後の京さんの「コースト!」という悲痛な叫びがグッときましたね。
3月30日、MV集『AVERAGE PSYCHO 3』をリリース。「詩踏み」から「朧」までの時期のMVのフルバージョン・無規制版が収録されています。リリースにあたっては「T.D.F.F.」のMVが新録されました。
6月2日~8月1日にかけて、「TOUR22 PHALARIS -Vol.I-」が開催、そして6月15日には待望の11thアルバム『PHALARIS』がリリースされました。詳しくは下で解説しますが、「DIR EN GREYらしさ」が詰まった濃厚な作品となっています。リリース前からツアーが始まっていますが、このツアーでは、シングル「落ちた事のある空」「朧」の他、「Schadenfreude」「The Perfume of Sins」「響」、そしてリメイク版「mazohyst of decadence」が初披露されており、『PHALARIS』の約半数の曲が演奏されたことになります。セットリストとしては、「Phenomenon」「Celebrate Empty Howls」「Behind a vacant image」「Unraveling」「Midwife」など、全体的にマニアックで入り組んだ曲が多く、ライブとしても濃厚な内容でした。
新作をリリースしたばかりのDIRですが、この年は結成25周年ということもあり、それにまつわる活動も同時並行で行われた年でした。3月頃から「DIR EN GREY楽曲バトル!」という企画が生配信され、過去の楽曲たちをトーナメント形式でファンの投票によって対決させるという、以前のDIRでは考えられないようなエンタメ性が高い企画でした。しかもこの企画、まさかの京さん発案ということだったので、つくづく丸くなったなと思わされますね…
そしてこの投票企画を受けて、10月25日~12月7日にかけて「DIR EN GREY 25th Anniversary TOUR22 FROM DEPRESSION TO ________」という名のツアーが開催されました。楽曲バトルで順位が高かった楽曲を中心にセットリストが組み立てられた、ファンサービス的な意味合いの強いツアーとなっていました。ただ、結果的に「朔 -saku-」「THE ⅢD EMPIRE」「C」「THE FINAL」「CHILD PREY」「激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇」「羅刹国」「OBSCURE」など、普段のライブからよく演奏している曲も多かったので、メンバーとファンの間で重要度が高い曲というのはある程度共通しているのかもしれませんね。ちなみにこのツアーでは、「13」とリメイク版「ain't afraid to die」が初披露されている他、「The Perfume of Sins」や「朧」といった『PHALARIS』の楽曲も混ぜ込まれていました。しかし、25周年ツアーと言いつつ、セットリストが2003年~2005年あたりの曲に偏っていたのも面白いですね。やはりこの辺りの時期が、「みんなが思い浮かべるDIR EN GREY」なのかもしれません。
なお、12月16日には「a knot」限定の追加公演が開催されていますが、このライブでは久々の「声出し解禁」が行われました。ライブ活動は再開できていたものの、声が出せなくてもどかしい思いをしていたファンにとっては朗報だったのではないでしょうか。
2022年最終日となる12月31日には、「50th NEW YEAR ROCK FESTIVAL 2022-2023」というフェスに参加します。1973年に内田裕也が始めた国内最長寿の音楽フェスで、東京ガーデンシアターにて開催されました。最後に「ain't afraid to die」で締めるという珍しいセットリストで、2022年の活動は終わりを迎えました。
2023年
4月24日~6月3日にかけて、「TOUR23 PHALARIS -Vol.II-」が開催されました。このツアーでは、セットリストのほとんどが『PHALARIS』のアルバム曲で占められており、「カムイ」だけはまだお預け状態だったものの、『PHALARIS』の世界観を十二分に味わえるライブでした。なお、コロナ情勢とライブでの状況を踏まえ、5月以降の公演からは、マスク着用を条件に、完全に「声出し解禁」となりました。ちなみに5月5日のKBSホール公演については、「a knot」発足25周年記念のライブということで、インディーズ時代の楽曲である「惨劇の夜」「JEALOUS」がサプライズ演奏され、多くのファンが湧きました。私はその次の日の京都公演に参加したのですが、そこでも「JEALOUS」を聴くことができてうれしかったです。
7月5日には、LP版の『PHALARIS』と、『25th Anniversary TOUR22 FROM DEPRESSION TO ________』のライブ映像作品がリリースされました。
11月6日~12月15日にかけては、「TOUR23 PHALARIS FINAL -The scent of a peaceful death-」が開催され、ついに『PHALARIS』の世界観も完結を迎えます。このツアーでは、サブタイトル通り、満を持して「カムイ」が披露され、しかもアンコールラストに組み込まれるという、非常に重たい内容のツアーとなりました。それだけでなく「Schadenfreude」「The World of Mercy」もセトリに組み込まれており、セットリストの濃さが凄まじかったですね。『DUM SPIRO SPERO』期以来の濃いツアーだったと、個人的に思っています。ちなみに、11月6日、7日公演では、亡くなったBUCK-TICKのボーカルである櫻井敦司さんへの追悼の意味も込めてか、「NATIONAL MEDIA BOYS」のカバーが演奏されました。
このツアーをもって『PHALARIS』の世界観が完結したとともに、2023年の活動も幕を閉じました。コロナ禍という事態の中でも、徐々に体制を立て直し、再び、作品のリリースやライブ活動に至るまでのこの期間は、バンドにとってもファンにとっても、つらかった時期でもあると同時に、普段の活動のありがたみを知ることができた非常に重要な時期だったのではないでしょうか。以降、この時期にリリースされた楽曲の感想を書いていきます。
PARADE III 〜RESPECTIVE TRACKS OF BUCK-TICK〜(2020.1.29)
V系のレジェンド、BUCK-TICKの3枚目のトリビュートアルバム。彼らが後世に与えた影響はV系バンドにとどまらず、BRAHMANやGRANRODEO、椎名林檎など、いろんなジャンルのアーティストが参加しています。DIRは10曲目の「NATIONAL MEDIA BOYS」(5thアルバム『悪の華』収録、1990年)で参加しています。
10 NATIONAL MEDIA BOYS
原曲は軽快なビートロックでしたが、本作はスローテンポなヘヴィロックになっています。雰囲気がガラッと変わっていますが、細かい部分で原曲が意識されており、リスペクトを感じるアレンジです。
2コーラス目が省略されているのを除けば、構成は原曲に忠実ですが、原曲にはないドラマチックさがあり、陰鬱な雰囲気から終盤で一気に開けていく展開にカタルシスを感じます。メロディがキャッチーなので、重いサウンドでも滲み出てくる聴きやすさがあり、そこが上手く活かされているように思います。
ドラムはスローテンポで、どっしりと一音一音力強く響いています。ミックスの影響で『The Insulated World』を上回る野太さになっており、曲の重みを生み出していますが、終盤は僅かに躍動的になります。ベースはギターのリフとともに重たくのしかかりますが、間奏ではソロのような動きを見せて曲を盛り上げています。
ギターは重々しいリフを基軸に不協和音が多用されており、こもった音も相俟って陰鬱感が凄まじいです。所々に入ってくるクリーンが綺麗な分、余計に不気味な感じがしますね。個人的に、ラストで出てくる高音のフレーズが癖になります。よく聴くと所々原曲のニュアンスが感じ取れるのも面白いです。
ボーカルは粘り気のある声で原曲のメロディを歌っていますが、後半で凶悪なグロウルが現れ、大サビは1オクターブ上で高らかに歌い上げます。後半の展開は圧巻で、特に大サビの解放感が聴いていて心地良いです。ラストはダミ声で歌ってますが、ここは原曲の2サビの歌詞を歌っているようです。
歌詞は当然原曲の通りですが、都会が見せる幻想に心狂わせる若者の姿を思い浮かべますね。原曲は詩も曲もゴシックな雰囲気をほんのりと感じますが、本作は狂気的な部分がより強調されているような気がします。京さんが「More Than God」と歌うと、どうしても神殺し的な意味合いに聞こえてきますね笑
ライブでは昨年の「TOUR23 PHALARIS FINAL -The scent of a peaceful death-」にて、「a knot」限定ライブで演奏されました。普段他のバンドの曲を演奏することのないDIRですが、櫻井敦司さんの死後間もない時期だったので、追悼の意味も込められていたのではないかと思います。BUCK-TICKがDIRにとっていかに重要な存在であるかが分かりますね…
ところでこの曲、個人的には『PHALARIS』の布石となるようなサウンドに仕上がっているように思います。音がこもっていて少し古い感じがするのと、展開が入り組んでいるのに歌がキャッチーなのがまさに『PHALARIS』だなと思いました。
落ちた事のある空(2020.8.3)
31stシングル。c/w曲は、18thシングル「CLEVER SLEAZOID」のリメイクと、「TOUR20 This Way to Self-Destruction」でイギリスのIslington Assembly Hallにて2月5日に演奏された「Followers」のライブ音源です。初のデジタル配信でのリリース作品で、コロナの影響で中止が決まったぴあアリーナMM2DAYS公演「The Insulated World -The Screams of Alienation-」のチケット購入者に対し、返金を希望しない場合に返礼品として同シングルのパッケージ版が配布されていたようです。ミキシングを担当したのは「落ちた事のある空」がCrossfaithやSum 41などを手掛けたJosh Wilbur、「CLEVER SLEAZOID」が『The Insulated World』のDisc 2のリメイク曲に引き続きJens Bogren、全曲のマスタリングは『The World of Mercy』に引き続きBrian Gardnerです。なお、表題曲はとある企業案件を受けて制作を始めたようですが、諸般の事情でその案件は無くなったそうです。
1 落ちた事のある空
ミドルテンポのアグレッシブな楽曲で、重たく迫ってくるようなサウンドと意味深な歌詩が特徴です。個人的には「人間を被る」を『UROBOROS』風にした曲という印象で、躍動的ながらもシリアスでダークな雰囲気が魅力的な楽曲です。
『The Insulated World』のこもった感じも残りつつも、音の分離が良く、心地良い音圧でのしかかってきます。曲構成がかなり独特で、シャウトのパートからサビ、その後メロを挟んで1オクターブ下のサビ、エフェクトのかかった間奏を挟んでシャウトの掛け合いパートで終わるという、今までにはあまりなかったような感じです。
ドラムは全体通じて躍動的なタム回しが特徴的ですが、特にイントロの和太鼓のような叩き方が印象的ですね。ミックスが良い感じで、各ドラムの音が鮮明かつ力強く響いています。ベースはフレーズとしての派手さはないものの、これまたミックスが良く、生々しいバキバキした音が良い味出してます。
ギターは音がめちゃくちゃ太く、リフの迫力が凄まじいですね。C#のキーが醸し出す、独特のシリアス感が非常にクールです。ほとんど低音のリフですが、1サビ後のメロディパートでは電子音と混ざり合った音が良い感じですね。間奏では色気のあるアルペジオの掛け合いが切なく響いています。
ボーカルはガナリ系シャウトからグロウル、ホイッスルと多彩に使い分けていますが、むしろ面白いのはクリーンボイスで、1サビは迫力あるハイトーンですが、2サビで1オクターブ下げるという、なかなか珍しいアプローチです。終盤の怒濤のシャウトはド迫力で、グロウルと楽器の音のハマり方が気持ち良いです。
歌詩は自我や個性を奪われる世界で生きる人々に問いかけるような内容ですね。どことなく、コロナ禍を意識させるような歌詩で、不自由の中でもできることはあるというメッセージにも聴こえてきます。「8月6日の朝」が意味深ですが、理不尽な絶望からは逃れられないということを象徴しているんですかね…
ライブでは今回の「TOUR24 WHO IS THIS HELL FOR?」でセトリ入りしてるそうですね。近年のシングルでは比較的演奏頻度が低い印象もありますが、めちゃくちゃ頭が振れて盛り上がる曲なので、もっと聴きたいですね。2サビ終わりで京さんが「この時代に生まれたお前らは生きてんのか?」と叫ぶのが定番になっています。
2 CLEVER SLEAZOID
鋭利な暴力性があった原曲に対し、本作は耳を圧迫するような鈍い低音で殴りかかってきます。ほぼ英語だった歌詩も、大部分が日本語に変わるなど、原曲をベースにしつつも大胆なアレンジが加えられています。
この時期の楽曲の例に漏れず、もっさりした重低音で疾走しており、原曲とは違った意味で迫力のある楽曲になりました。曲構成はほぼ原曲と同じですが、終盤に疾走パートが追加されています。狂気のままに暴れ回っていた原曲と比べると、洗練された雰囲気があり、落ち着きを払っているような感じもしますね。
ドラムは少しテンポが速くなった他、所々フレーズが変わっており、特に随所で入ってくるバックビートでの疾走フレーズの入れ込み方が絶妙です。原曲と比べるとやや音が柔らかくなりました。ベースは、耳をすますと聴こえるバキバキした音が格好良いですね。ドラムのテンポに合わせて緩急のあるフレーズを弾いています。
ギターは原曲から1オクターブ下げたリフを基軸としていますが、ミックスによる野太さも相俟って音圧が凄まじいことになっています。「声も出ないくらいに」の部分のカッティングは原曲と同じ高さのはずですが、音が太くなったからか全然そんな感じがしません。曲の最後に、原曲のリフを彷彿させるようなフレーズで終わるのが粋ですね。
ボーカルは原曲及び『THE MARROW OF A BONE』版のように怒りのままに叫ぶよりは、テクニカルにシャウトしています。特にグロウルがあまりにも野太くて耳障りが良いですね。個人的には、「右も左も〜」のメロディと、日本語に変わったサビの力強い高音、終盤の疾走パートの怒濤のシャウトがお気に入りです。
歌詩は若干の変化はありますが、概ね原曲を日本語訳したような内容ですね。偽善で作られた世界や、それに盲従する他者への怒りと皮肉をぶち撒けています。ただ、最後に「愛故に」と連呼しており、やはりどこかで人間への期待を捨てきれていないように感じます。京さんも時を経て潔くなった気もします。
ライブでは定番曲ではないものの、一定の頻度で演奏されています。音が低くなりすぎて、曲が始まっても一瞬何の曲か分からなくなることもありますが、個人的には原曲よりもノリやすいです。最後の疾走パートで頭を振りまくるのが気持ちいいんですよね。「Wither」の連呼部分を叫べなくなったのは残念ですが笑
このリメイク、主に歌詩が日本語になったことで賛否両論なイメージですが、個人的には完成度の高いリメイクだと思います。ただ、特にシングル版のような「ガチ」感のある狂気はなくなったため、物足りないと思う気持ちも分かります。最後の疾走パートが本当に好きで、これが増えただけでも大満足です。
3 Followers [LIVE]
激しい曲が2曲続いたからか、帳尻を合わせるようにメロディアスな曲が選ばれています。海外でのライブですが、やはり昔と比較すると、バラード系の曲になると静かに聴くという習慣がお客さんの側にもついてきたように思いますね。『The Insulated World』の曲らしく、分厚いミックスになっており、スタジオ音源の再現度が高く、ハイクオリティなライブテイクだと思います。歌のキーが高い曲ですが、裏声を駆使しつつもしっかりと歌い上げており、京さんの艷やかな声が響いていますね。
朧(2021.4.28)
32ndシングル。c/w曲は、3rdアルバム『鬼葬』収録の「The Domestic Fucker Family」のリメイク曲「T.D.F.F.」と、爆音上映会『目黒鹿鳴館GIG』で録音された「谿壑の欲」のライブ音源です。ミキシングを担当したのは表題曲「朧」がNeal Avron、「T.D.F.F.」がTom Lord-Algeです。
1 朧
陰鬱な雰囲気が漂いつつも、流麗なサウンドとメロディが際立つ6/8拍子のミドル曲。「かすみ」に似た雰囲気があり、歌詩も続編のような内容になっています。一見あっさりした音作りですが、いろんな音が盛り込まれており、こだわりを感じる一作です。
電子音やピアノなど、バンド以外の音が巧みに使われており、無機質さと美麗さ、激しさが共存しています。曲構成は途中長めの間奏を挟みつつAメロBメロサビを2回繰り返すというシンプルな構成ですが、最後はAメロで終わります。特に間奏が秀逸で、ストリングスからのギターソロへの繋ぎが綺麗です。
ドラムは1サビから入ってきますが、入りの瞬間のスネアが印象的ですね。6/8拍子で反響しながら鳴るタム回しが心地良く、間奏ではやや変則的なフレーズも見られます。ベースはこの手の曲にしてはやや控えめですが、サビやギターソロの部分ではメロディアスな低音で曲の土台を牽引しています。
ギターは近年では珍しく、あまりヘヴィではなく、高めの音が目立ちます。1回目のBメロでDieさんの高めのコード弾きが入ってくる部分が気に入ってます。間奏はギターソロ単体で見ても良いフレーズですが、そこにストリングスのメロディとの絡み合いが入ることで非常に美しい仕上がりになっています。
ボーカルは全編クリーンボイスで、低〜中音域の落ち着いたメロディを歌っています。ただ、譜割りが独特で、ややズレたリズムで歌っているのが不穏な感じです。低音部の声質もやや誇張気味にネットリさせていて、エッジボイスが混ざったような歌い方ですが、大サビでは高音を力強く出してますね。
歌詩は「かすみ」の続編だと思われます。娘と別れた母親の後悔の物語だと思っていたのですが、実は幼い頃に母を亡くし、父からの暴力を受けていた姉妹の話で、妹を苦しみから解放させるために殺した姉が後悔に苛まれている…みたいな可能性もあるのかなと少し考えました。想像は膨らむばかりです。いずれにしても、過去の後悔を引きずりながら生きることをテーマとした内容だと思います。「かすみ歪む涙と明日へ」というフレーズは、絶望を抱えたまま明日に向かうしかないという諦めとも覚悟とも取れますね。「何処も愛で愛で色飛び散る」からは「愛」への疑念と執着の両方を感じます。
ライブでは近年の代表曲ということもあり、『PHALARIS』では最も演奏されています。ライブでは京さんが咽び泣くような歌い方をしており、メロディの原型をとどめていないことも多々あります。正直、綺麗に歌ってほしいとも思ったりもしますが、なんだかんだ生で聴くとめちゃくちゃ引き込まれますね…
2 T.D.F.F.
『鬼葬』収録「The Domestic Fucker Family」のリメイク。キーが2音下がりましたが、原曲の面影を残したまま勢いが増しており、凄まじくパワフルに変貌しました。MVが制作されたり、近年のライブ定番曲となったり、リメイクで一気に存在感を増した曲です。
曲構成は原曲を踏襲していますが、キーが低くなり、シャウトが激しくなったことで、無機質感のあった原曲とは違い、暴力性が増しています。ただ、音が重くなっているのに原曲の躍動感も残っているのが素晴らしく、グルーヴ感も増しており、どこを切り取ってもカッコいい仕上がりになっています。
ドラムは機械感のあった原曲と比べると、生々しい質感で重たく跳ねています。スローパートで時折混ぜ込まれるバスドラ連打が格好良いですね。ベースはスライドを活かしたフレーズが印象的ですね。「瓜の蔓に茄子はならぬ」の後に軽快な高音のフレーズが入りますが、ここめっちゃ好きなんです。
ギターは原曲と同様、2種類のリフでひたすら攻めていますが、音が低くなったことにより、迫力を大幅に増しています。原曲のリフはC#のキーでインダストリアル的な無機質感がありますが、本作はキーがAだからか、メタル的な熱さがありますね。それにしてもシンプルなのにめっちゃ癖になるリフですね。
ボーカルは原曲が可愛く見えるほどにめちゃくちゃ叫んでいます。個人的には、「スリルなゲームを始めようか〜」の部分の歪んだ歌声、ベースの高音リフからの「Nothing to face〜」の部分のアレンジと、ラストの「Destroy Mr. Fucker」の連呼など、原曲から変更された部分が悉くお気に入りです。
歌詩は原曲の時点で意味が掴みにくかったですが、社会の常識に対する反骨精神のようなものを感じますね。「スリルなゲームを始めようか」「「M」oron しちまえば Family」あたりからは、一緒にクソな部分を剥き出しにして、めちゃくちゃにしてしまおう、みたいなメッセージ性をちょっと感じますね。
ライブではもはや定番曲になっており、シングルを超える頻度で演奏されています。初っ端から「オイ」コールが連発しますし、終盤は疾走するのでめちゃくちゃ暴れられます。「瓜の蔓に茄子はならぬ」の部分は、最近は京さんが気分で客へのメッセージを言うようになっており、何を言うのか毎回楽しみにしてます笑
個人的には、原曲の無機質で冷徹な感じもクールで好きですが、比較するとなると、圧倒的に本作の方に軍配が上がりますね。長いキャリアを経て、衰えるどころか原曲の何倍にも勢いが増しているのが驚きです。テンポも少し速くなっているので、スピード感もあって気持ちが良いです。
3 谿壑の欲 [LIVE]
無観客で録音したライブテイクなので、オーディエンスの声は入っていないものの、京さんのパフォーマンスも相俟って、臨場感のある音源になっています。本来のライブならば、テンポが上がる部分でオーディエンスの歓声が聴こえてくるはずなのですが、こういった形での収録になるのは、ある意味コロナ禍ならではかもしれませんね。重厚なサウンドに京さんの艷やかなボーカルと荒々しいシャウトが静かに響いているのが特徴的です。最後はしっかり「早く死ね!」と叫んでいます。
PHALARIS(2022.6.15)
11thアルバム。前作『The Insulated World』以来、3年9か月振りとなるフルアルバム。「完全生産限定盤」「初回生産限定盤」「通常盤」の3タイプで展開され、このうちDISC 2(「完全生産限定盤」「初回生産限定盤」に付属)には1stアルバム『GAUZE』収録の「mazohyst of decadence」と、9thシングル「ain't afraid to die」のリメイクが収録されています。2023年7月5日には2枚盤仕様のLPがリリースされています。オリコン週間アルバムランキング(2022年06月27日付)では、初週で18,962枚を売り上げ、5位を獲得しました。
0 アルバム総評
前作『The Insulated World』は、タイトル通り、「世界との断絶」をコンセプトに、メッセージ性が高く、速くてアグレッシブな曲が数多く収録されていました。最後の曲である「Ranunculus」では、自分自身を生きることを決意し、その後にリリースされた「The World of Mercy」では、「お前の自由を探せ」というメッセージを残して、その世界観を締めくくりました。楽曲としては、攻撃性重視ということでシンプルにリフで攻める曲が多かったので、近年のDIRとしてはある意味ストレートなアプローチでした。このストレートなアレンジというのは、前々作『ARCHE』の頃から意識されており、8thアルバム『DUM SPIRO SPERO』よりも後の時代の基本方針となっていたのではないかと思います。
それに対して本作は、『UROBOROS』『DUM SPIRO SPERO』にも見られたような複雑性の高い楽曲が数多く収録されています。とても一回では覚えきれないような曲構成であったり、リズムパターンが複雑だったりして、難解な印象を与える曲が多いです。一方、ただ複雑なだけでなく、『ARCHE』で見られたような生命力のあるキャッチーさや、『The Insulated World』で見られたような泥臭いアグレッシブさも感じられ、そこに『MACABRE』のような初期の耽美な雰囲気や『VULGAR』『Withering to death.』のようなコンパクト感や日本的情緒を感じるメロディも合わさって、25年間かけて作り上げたDIR EN GREYというバンドの音楽性を凝縮した作品になっています。複雑だけど、なぜか聴きやすくてノれる。どこを切り取ってもDIR EN GREYらしさを感じられるし、でも今までにありそうでなかった、そんな曲たちで構成されているのがこの『PHALARIS』というアルバムです。
構成としては、「Schadenfreude」と「カムイ」という2つの長尺曲が最初と最後に配置され、その間にバラエティ豊かな楽曲たちが並んでいます。一説ではシンメトリーな並びになっているようにも感じられ、長尺曲の「Schadenfreude」「カムイ」、日本的情緒を感じられる「朧」「御伽」、疾走曲の「The Perfume of Sins」「Eddie」、情熱的な歌モノの「13」「響」、そしてトリッキーな「現、忘我を喰らう」「盲愛に処す」ときて、真ん中に異質なオーラを放つ「落ちた事のある空」が配置されています。配置が極端だった前作と比べると、かなりバランスが良く、バラエティの豊かさを感じられます。強いて言うならば、変化球タイプの曲が多く、かつ収録曲数が少ないということもあるので、「朔 -saku-」や「激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇」のような王道キラーチューンがあと一曲でもあれば、よりアルバムとしての完成度が高くなっていたのではないかと思います。
サウンド面では、『The Insulated World』よりもさらにこもった感じの音像になっており、ふくよかでありつつも、全体的にやや古臭さを感じますね。音質が悪いとの評判もありますが、聴き慣れてくると、アルバムの世界観にも合っていて、案外悪くない音です。ただ、歴代アルバムの中では音量が小さいので、そこは合わせて欲しかったかなと思います。ミキシングは、「Schadenfreude」「The Perfume of Sins」「13」「落ちた事のある空」「Eddie」はCarl Bownが担当しており、ウェットな低音と重めのドラムが特徴的で、音は全体が溶け合っているような感じがします。「現、忘我を喰らう」「盲愛に処す」「響」「御伽」「カムイ」はDavid Bottrillが担当しており、こちらは音の分離が良く、低音が鋭く、ドラムの音がバシッと入る感じが心地良いですね。「朧」はシングルと同様、Neal Avronですが、この曲だけ、音が明るめな感じがします。ちなみにリメイク曲である「mazohyst of decadence」「ain't afraid to die」は久々のTue Madsenですが、以前よりも隙間が目立つミックスですね。マスタリングは『The Insulated World』も担当したBrian Gardnerです。
各楽器について解説すると、まずドラムは全体的にかなり複雑になっていますね。前作はシンプルなフレーズの曲も少なくはなかったですが、本作は概ねトリッキーで、癖のあるフレーズを叩いています。また、「The Perfume of Sins」では初のブラストビートを披露しており、また一つ、表現の幅が広がっています。ミックスによって音の毛色が全く異なっていますが、どの曲も重たく、ややこもり気味の音になっています。
ベースについては、ドラムが複雑になった分、メロディアスに曲を牽引している印象が強いです。全体的にこもったミックスのため、そもそも音が聴き取りにくい楽曲も多いですが、よく聴くとベースが曲を引っ張っている曲も多いです。フレーズとしては全体的に落ち着いていますが、一音一音が分厚くて、サウンドの核心になっていると思います。
ギターはここ数年は低音のリフで攻める曲が多かったですが、本作はそれを基本としつつも、曲によって表情豊かに音を変えています。終始ゴリゴリ低音で押していく曲もあれば、クリーントーンが美しく響く曲もあったり、高めの音で妖しいフレーズが際立っている曲もあり、実に様々です。ギターソロの割合は減っており、「Schadenfreude」「朧」「13」と、「現、忘我を喰らう」に少し入っているくらいですね。ただ、それぞれ印象に残るフレーズを弾いており、いずれも名ギターソロだと言えるでしょう。
ボーカルは『ARCHE』ほどではないにせよ、クリーンボイスの割合が多いような印象ですが、曲によっては新しいアプローチも見られます。「現、忘我を喰らう」や「盲愛に処す」では、今までにないような声を出していたり、声の使い方も新しい感じがしますね。一方で、「Schadenfreude」では『DUM SPIRO SPERO』の時期に戻ったかのような、グロウルとホイッスルで疾走するパートがあったり、「13」では昔のような感情的な歌い方がされていたりと、過去を感じさせるようなアプローチもあります。「落ちた事のある空」「Eddie」は『The Insulated World』を彷彿させるようなガナリ系シャウトを多用していたなり、「朧」「響」「御伽」「カムイ」はほぼクリーンボイスとファルセットのみで構成されていますが、「The Perfume of Sins」ではメリハリのあるボーカルワークが堪能できるなど、曲によって実に多彩で器用ですね。
歌詩は、比較的ストレートだった前作と比べると、『UROBOROS』や『DUM SPIRO SPERO』ほどではないにせよ、やや難解な表現に戻った気がします。使われている言葉はそこまで難しくないのですが、言い回しが抽象的な感じがしますね。『The Insulated World』は「自分自身を生きろ」というメッセージ性が強かったですが、本作はどちらかと言えば、この世界で生きていく中で心が壊れて腐敗していく様子に焦点を当てた曲が多いような気がします。ラストの「カムイ」の歌詩がまさにこのアルバム、ひいてはDIR EN GREYというバンドが表現する「痛み」を象徴するような内容となっていると思います。古代ギリシャの拷問器具である「ファラリスの雄牛」をモチーフとしたタイトルは、内面にどす黒いものを抱えているのに表面からは全く分からない人間たちと、そんな人間たちが生きている世界の地獄感を象徴しているのかもしれませんね。
以上、アルバムの概観を解説しましたが、本作は一言で言うなら「メンバー自身がDIR EN GREYらしさを徹底的に追究してできたアルバム」と言えるでしょう。ある意味、根源を追究した『ARCHE』よりも根源的なものを感じますし、全ての過去が無駄なく詰め込まれた作品だと思います。昔からのファンや、DIR EN GREYの音楽性をより深く知りたい方にオススメの作品です。
DISC 1
1 Schadenfreude
OPナンバー。「MACABRE」や「DIABOLOS」、「Un deux」、「絶縁体」、「The World of Mercy」など歴代アルバムの核となるような楽曲の面影を感じさせながらドラマチックに展開していく、まさにDIRの25年間の活動の集大成とも言えるような長尺曲です。
全体的な雰囲気は「絶縁体」のような哀愁漂う耽美さがありますが、終盤は解放的な爽快感があります。展開は非常に凝っていて、「MACABRE」のようなリズムのメロディパート、「DECAYED CROW」のような疾走パート、「Un deux」のようなサビ、「絶縁体」のようなギターソロなど過去曲を彷彿させる部分が多いです。
当然、ただの焼き直しという意味ではなく、適度に過去を匂わせながらも、今のDIRにしかないような生命力溢れるセンスが光っており、メロ→シャウト→サビという出だしから、スローパート→疾走パート→大サビと繋がっていくドラマ性が秀逸ですね。最後に凶悪なシャウトで締めくくるのも面白いです。
ドラムは様々なリズムパターンが聴けるますが、「MACABRE」のようなタム回しと、中盤の静かなフレーズが特に気に入ってます。時折混ぜてくるEDMのようなスネア連打も癖になりますね。ベースは全体的に流麗なメロディを奏でつつも、バキバキした音を鳴らしています。中盤のスローパートのフレーズは色っぽいですね。
ギターは概ねヘヴィなリフがメインですが、イントロのアコギからのクリーンのフレーズなど、要所要所で美麗なフレーズも混ぜ込まれています。ギターソロは哀愁が漂いながらも躍動感溢れるフレーズで、ドラマチックです。低音に関しては、疾走パートに入る直前の迫ってくるようなフレーズが好きですね。
ボーカルは『DUM SPIRO SPERO』の頃のようにクリーン、グロウル、ホイッスルなど、声質を明確に分けるようなスタイルで歌っていて、少し懐かしい感じがしますね。とはいえ、「溶鉱炉に友を投げ〜」のクリーンの使い方は、今までにあまりなかったような気がします。その後の「行けども地獄か」の地声叫びも良いですね。全体的に歌が丁寧で、どこを切り取ってもクオリティが高い印象です。大サビの「虹が架かる 野原に飛び散る」はかなりキーが高いですが、気持ち良いくらいに出てますね。メロディもキャッチーで良いですね。個人的には、「ただ生きてるだけで何が悪い」のホイッスル畳み掛けも迫力があって好きです。
歌詩は久々に難解ですが、内心で他人の不幸を喜ぶ人間が無数に点在しているような世界の中で、自分自身を生きる覚悟を感じさせる内容です。最後の「笑える為の自己犠牲」は、そんな卑怯な人間たちを逆に不幸だと笑えるくらいに、醜くとも自分を貫いてやる、っていう意味だったりするのかなと思います。
ライブでは3回ほど聴いたことがありますが、展開が入り組んでいる分、京さんの見せ場がめちゃくちゃ多い曲なので、もっとやって欲しいと思いますね…「行けども地獄か」はつい声に出したくなるフレーズです。多分大きな会場で映える曲だと思うので、やっぱり『PHALARIS』の総括ライブを武道館レベルの規模感でやって欲しいですね…
2 朧
32ndシングル。シングル版とは僅かに音のバランスが変わっていますが、基本的に違いはありません。低音の反響が大きかったシングル版に比べると、ややフラットなバランスになった気がします。他の曲はこもった音ですが、この曲だけ音質がクリアですね。
何より、この曲が2曲目に配置されているのが面白いですね。天に昇るかのような「Schadenfreude」から、闇の底に引きずり下ろして、以降の曲に導く役割を果たしています。極端な話、「Schadenfreude」と本作の2曲だけでも十分お腹いっぱいになれるくらいの濃さがありますが、その先にさらに濃い世界が待っているというのが『PHALARIS』の持ち味だと思います。
3 The Perfume of Sins
展開の起伏が激しいブラックメタル。渋めのメロディに酔いしれるドゥーミーなパートと、ブラストビートで大暴れするファストなパートが入り混じった変態曲です。こんな曲がリード曲としてMVが作られているのが、まさに『PHALARIS』という感じで最高ですね。
全体的にダークでゴシックな雰囲気が漂っており、『MISSA』の頃の音楽性に『DUM SPIRO SPERO』の要素を混ぜて突き詰めたような印象もありますね。ドゥームメタルのようなスローな曲かと思いきや、いきなり疾走して、また遅くなって速くなって…を繰り返します。中盤では躍動感溢れる8ビートのパートが挟み込まれています。
ドラムはこの曲の目玉ですね。ブラストビートはもちろんのこと、スローなパートでのヘヴィなドラミング、8ビートに混ぜ込まれる緻密なタム回しなど、Shinyaさんの真骨頂が見られます。逆にベースは曲の起伏にあまり左右されず、落ち着きを払いながら低域を支えているような印象があります。
ギターについては全編低音で何パターンかのリフをローテーションしています。曲の展開に合わせて速くなったり遅くなったりしていますが、個人的には8ビートのパートに入る直前の、スローパートから一気に流れが変わる部分のリフがツボですね。あとは「感じる事〜」以降の遅めのリフも好きです。
ボーカルは粘り気のある低音で怪しいメロディを歌っていますが、8ビートのパートでは声の切り替えが目まぐるしいですね。「君よりも熟れてる〜」のダミ声、裏声、グロウル、高音クリーンの畳み掛けが個人的なハイライトです。また、ブラストビートの部分にあえて歌を入れなかったのは英断だと思います。
歌詩は、「罪」をテーマとしていますが、世界の常識の中で生きているうちに、感覚が麻痺して思考停止になり、誰かを貶めながら生きることに抵抗がなくなってしまうことを「罪」と表現しているのかもしれません。最後の「此処にも一人」は京さん自身のことを皮肉交じりに表しているような気がします。
リード曲ということもあり、ライブでの演奏頻度はかなり高いです。個人的にこの曲めちゃくちゃ好きで、ブラストビートのところでいかに休まず頭を振れるか、ということを重視しています笑 先日の「ANDROGYNOS」で、終盤、マイクスタンドを担ぎながら歌っている京さんがめちゃくちゃカッコよかったです。
4 13
Dieさん原曲。エモーショナルなボーカルとメッセージ性の強い歌詩が特徴的なミドル曲。バラードかと思いきや、サウンドは結構激しく、後半はシャウトも登場するハードな曲です。泣きのメロディと情感のこもった歌声が素晴らしく、アルバム内でも人気が高い曲です。
切なげなピアノから始まりますが、バンドサウンドが入ると一気に激しくなります。Aメロは落ち着いているものの、Bメロ・サビは激しいサウンドと熱い歌唱が響き渡り、泣きのギターソロを挟んで、歌とデスコーラスの掛け合いに入るなど、展開も多彩です。最後に悲痛な歌声で曲が終わるのが良いですね。
ドラムは終始ミドルテンポですが、リズムパターンも手数も多く、かなり難易度が高そうです。特に、サビの激しくて複雑なドラミングが、歌のメロディに切迫感を与えているように思います。ベースは手数の多いドラムに流れを与えるかのように緩やかにピッチを上下しており、曲に波を生んでいます。
ギターは低音の激しいプレイが目立っており、曲の熱さに一役買っていますね。C#のメロディアスな曲ということで、『Withering to death.』や『THE MARROW OF A BONE』を匂わせる雰囲気ですが、太い音が貫禄を漂わせています。Dieさんのギターソロもかなりエモーショナルで、そこから「Never Die〜」の掛け合いに繋がる展開も熱いです。
ボーカルは近年のスタジオ音源では珍しく、かなり感情的な歌い方をしており、特に高音部は喉がはち切れそうな声質です。ガナリ歌唱やグロウルなども混ぜ込まれており、激しいボーカリゼーションを見せています。「Never Die〜」の掛け合いの部分と、最後の「全てを」の高音連呼が何度聴いてもグッときます。
歌詩は13階段=絞首台をモチーフに、決別をテーマとした内容だと思います。「THE FINAL」にも通ずるテーマですが、今までの自分を殺すことで、誰にも縛られない自分に生まれ変わることを歌っています。「誰もが強いわけじゃない そうだろう?」というフレーズが優しく寄り添ってくれますね。
ライブでは『PHALARIS』の中でも演奏率が高く、比較的優遇されているように思います。とにかくキーが高い曲なので、京さんもギリギリで歌っている感じもしますが、それがむしろエモさを引き立てていますね。「Never die〜」の掛け合いで叫んだり、頭を振れたり、意外とノれる部分もあるのが面白いです。
5 現、忘我を喰らう
Dieさん原曲。複雑で独特なリズム感と歌謡曲チックなコード感が特徴的な曲。変態な曲ですが、妙なキャッチーさがあって癖になります。懐かしい雰囲気もありますが、歌もサウンドも今までにないようなアプローチで、新たな可能性を感じさせる曲です。
雰囲気としては『MACABRE』の歌モノのようなレトロな妖艶さがありますが、骨太のサウンドと複雑なリズムは今のDIRならでは。変拍子に乗ってダンサブルに歌が舞いますが、中盤では怒濤のタム回しの上で京さんの変幻自在の早口メロディが跳ね回ります。終始踊っている曲ですが、最後は重厚に締まります。
ドラムはとにかく複雑極まりなく、音も太くてとてつもない存在感です。イントロ等は原曲の「蜜と唾」のAメロのようなテンポ感ですが、それ以外は全体的にタム回しが細かくて聴き応えがあります。ベースはめちゃくちゃ動いており、機械的なギターとは対照的に柔軟なプレイが光っています。
ギターは初期を彷彿させるような中音域のリフが、やや機械的な独特のリズム感で癖になりますね。リフのメロディが妖艶な感じで個人的にかなり気に入っています。中盤でDieさんの短めのギターソロが入りますが、良い意味で古臭いというか、少し物悲しい感じなのが個人的に気に入っています。
ボーカルはほとんどシャウトしていないものの、多彩な声を使っています。メロディもアプローチもsukekiyoっぽく、ファルセットを主体としています。中盤の早口パートでは、独特の濁った声を披露しており、譜割りも独特で面白いですね。全体的に変態感もありますが、キャッチーで声も綺麗なので聴きやすいです。
歌詩は現実を生きる中で、他者と上手く交われず、壊れていく姿を表現しているように思います。「一度壊れた心はドロドロに纏わり付く熱したチーズみたいに悪臭放ち」というフレーズが生々しいですね。最後に「何故なんだ?」と問いかけており、釈然としない何かを抱えながら生きる苦しみを感じます。
ライブでは演奏頻度低めですが、結構ノれて楽しいですし、京さんもノリノリで歌っているイメージです。メロディもキャッチーで、しっかり聴き応えもあるのでお得です。「なーななななな 何故なんだ」の部分は客に歌わせてきますが、変拍子が複雑で、リズムを合わせるのが結構難しいんですよね笑
6 落ちた事のある空
31stシングル。ミックスのし直しにより、シングル版とは大幅に印象が変わっています。シングル版は圧倒的な音圧と広範囲に広がるギターの音が迫力満点でしたが、本作は全体的にコンパクトに抑えられ、シングル版よりも抑揚のある音像になりました。
シングル版はフラットなバランスだったため、全ての楽器が一体となって音圧で押してくる感じでしたが、本作はむしろ個々の楽器のフレーズを聴き分けやすくなっており、押す部分と引っ込める部分を分けている気がします。シングル版はクリアな音でしたが、本作は他の曲に合わせてこもり気味の音ですね。
ドラムはシングル版のような反響感は薄れたものの、低域が強調されたことにより重たくなっていますね。ベースの音もかなり聴き取りやすくなり、曲全体のうねりを感じ取れるようになりました。このドラムとベースの音の変化により、グルーヴ感、躍動感はシングル版以上のものとなっています。
逆にギターはかなり抑えられ、シングル版のような強烈な音圧と比較すると、パワーダウンした印象ですが、その分フレーズが聴き取りやすくなりましたね。ボーカルはシングル版より強調されており、倍音の部分が聴こえるようになりパワフルになりました。その分終盤のグロウルが少し浮いて聴こえますね。
個人的にはシングル版の方が、この曲の持つ破壊的な雰囲気を表現できているように思いますね。『PHALARIS』は妖艶かつ内省的な曲が多いので、そもそもこの曲自体がちょっと浮いてる感じもあり、アルバムの音質に合わせることによって本来の魅力がやや減退したように思います。別に悪くはないんですが…
7 盲愛に処す
多彩なボーカルが縦横無尽に舞い踊る疾走曲。8ビートのリズムとブリッジミュートを活かしたリフが所々で初期の「Unknown… Despair… a Lost」を彷彿させますが、複雑怪奇な構成、ヘヴィかつ妖艶なサウンド、変態ボーカルなど、短い尺の中に情報量が詰め込まれた楽曲です。
初期の疾走曲のような怪しさがありつつも、『DUM SPIRO SPERO』のような難解さもあり、一筋縄ではいかない曲です。中盤くらいまでは飛ばしっぱなしですが、後半も宗教チックなスキャットのパート以外は疾走していて、終盤は主旋律とコーラスが重なってカオスなことになってます。ラストは囁きでクールに決めてます。
ドラムは8ビートのロックンロール調のリズムを基調としつつ、細かいタム回しが大量に混ぜ込まれており、忙しない動きをしています。スネアの音がバシッと入ってきて気持ちが良いですね。ベースは激重のリフで暴れ回っていて、バキバキした音を鳴らしながら、曲のスピード感を牽引しています。
ギターはAのキーの重ためのリフを主体としており、ブリッジミュートの混ぜ込み方が「Unknown… Despair… a Lost」を彷彿させるのは先述の通りです。時折入ってくる高音のフレーズもどこか初期っぽい感じで、全体的に妖しい香りがします。イントロや中盤に入ってくる不協和音気味のフレーズが妙に癖になりますね。
ボーカルはシャウトのみならず、ファルセットやクリーンまでも自在に飛び交っておりもはや楽器ですね。これまでの疾走曲にはないアプローチですが、狂気と妖艶さが入り交じっていて面白いです。「此処に居ないのも同じ」ではテノールのような歌声を披露しており、少しシュールな感じです。
歌詩はやや難解ですね。個人的解釈では、自分とファンとの間の歪な絆を表現しているのかなと思っています。名前も知らない誰かに盲愛される自分、しかし、その誰かによって生かされている自分。「どっちだ?どっちがいい?」は従順と反抗のどちらを望むのかを問いかけているように思います。
ライブでは「現、忘我を喰らう」と同様、演奏率は低めですね。複雑な構成の曲なので、しっかりと覚えていないとノリにくい曲ですが、身体に馴染むと結構楽しいです。ライブだと京さんの声の使い分けがさらに多彩になります。終盤の「The pride and prejudice」連呼の部分がカオスで面白いです。
8 響
Dieさん原曲。儚く、耽美なミドルバラード。90年代V系的なセンスを感じさせる歌モノ曲ですが、ただの歌モノではなく、随所に挟まれるヘヴィなサウンドが不穏な存在感を放っています。『The Insulated World』の「赫」と、「谿壑の欲」を混ぜたような曲というような印象もあります。
序盤は古めかしいクリーンのアルペジオから静かなパートが続いていきますが、途中からヘヴィなアンサンブルが顔を出し、不穏な空気で曲が進みます。サビは高貴な美しさがあり、ラストは力強い高音の歌声とともに潔く曲が終わります。曲が進むにつれて少しずつ夜明けに近付いていくような構成が秀逸ですね。
ドラムはテンポ的には緩やかですが、タム回しの手数で曲の動きをコントロールしています。「間」の取り方というか、休符の入れ方が絶妙だと個人的には思います。ベースは手数としては多くないものの、的確に緩急をつけて流れを作っています。2サビ後の間奏で途中から入り込むフレーズが良いですね。
ギターは曲の綺麗さの割に太い音が多用されており、休符を混ぜながら断続的に現れる低音ディストーションがなかなかに暴力的です。一方、イントロ等で現れるクリーンのアルペジオは90年代の趣がある耽美な音ですね。終盤のDieさんの高音フレーズがカタルティックな盛り上がりを見せています。
ボーカルはクリーンボイスとファルセットのみで歌いきっています。やや初期のような低音を強調した粘り気のある歌い方ですが、高音部分は力強く歌い上げています。歌とともに漏れる吐息が色っぽいですね。個人的に、ラストの「抱き抱え声を枯らして」の部分の高音はアルバム内でも1,2争うくらい好きな所です。
歌詩は過去の後悔に苛まれる苦悩が表現されています。「洗っても取れない現実はきっと 過去を許してくれるから」というフレーズからは、今を生きることで過去へのとらわれから解放されるということなのかもしれませんね。ラストの「声を枯らして」に京さんの覚悟が込められているように思います。
ライブでは「TOUR22 PHALARIS -Vol.I-」から披露されており、その後もセトリの1曲目に配置されることもあるため、メンバーの中では特殊な立ち位置の曲なのかもしれません。確かに、夜明け感のある曲なので、1曲目にピッタリだと思います。ライブでは意外とノれるのが流石『PHALARIS』の曲だなと思います。
9 Eddie
Dieさん原曲。歌詩もサウンドもアグレッシブなハードコア曲。80年代に活躍したV系の始祖となるようなバンドの影を感じるような厳ついサウンドですが、サビではちゃんとメロディアスさも感じられる暴れ曲です。近年のライブの定番曲で、非常に盛り上がります。
曲は2サビ前にヘドバン系のリズムのパートが入る以外は終始疾走しており、とにかく激しいですね。特にドラムのフレーズが顕著ですが、どこか昔ながらのパンクの雰囲気があり、良い意味で古臭さがありますね。一方、サビについては、声は荒くとも聴きやすいメロディがあるのが特徴的ですね。
ドラムは根性溢れる裏拍連打系の高速2ビートで疾走しており、「JESSICA」と「羅刹国」を組み合わせたような感じですね。イントロのソロパートと、ドラムとボーカルのみになる部分が癖になります。ベースは高速でギターのリフを補強しつつも、サビでは魅惑的なコード進行で曲をリードしています。
ギターはイントロを始めとしたユニゾンリフを主体にガンガン攻めてきます。初期の頃と同じEのキーということもあり、音の太さは段違いではあるものの、やはりどこか懐かしい雰囲気がありますね。個人的には1サビが終わった後の、少し入り組んだテンポ感の部分のギターのフレーズがお気に入りです。
ボーカルはほとんどシャウトですが、『The Insulated World』の頃よりもさらにパワーアップした喚き声が猛威を振るっています。「What's? Give me answer」の部分のシャウトと、「ドブ夢飲み干した〜」の部分のグロウルが個人的にお気に入りです。サビでは荒めの高音で、吐き捨てるようにメロディを歌っています。
歌詩は「糞」や「首を狩る」といったワードが多用された暴力的な内容です。「始末書は書き終えたか?」などの印象的なフレーズもありつつ、どこか皮肉交じりに人間社会に怒りをぶつけています。ただ、「一緒に首を狩ろうか?」あたりは、抑圧からの解放を促しているようにも聞こえて爽快感もあります。
ライブではすっかり定番曲となり、今回の「TOUR24 WHO IS THIS HELL FOR?」ではアンコールのラストに採用されています。今後は「羅刹国」のような位置づけの曲として育てていくつもりなのかもしれませんね。ライブでは、「ドブ夢飲み干した〜」の前に「3 2 1」と京さんがカウントするんですが、ここめちゃくちゃテンション上がります。
10 御伽
東洋的な混沌とした世界観と、仏教要素のある歌詩、艷やかな低音で魅せる京さんの歌声が特徴的なミドルバラード。奥深くも空間を感じさせるサウンドは、まるで作品のEDのような終末感があります。『MACABRE』の曲のような宗教感とメロディアスさを兼ね備えた楽曲です。
終始メロディアスな曲ですが、全体的に壮大で、反響感が心地良いです。やや長めのアンビエントな雰囲気のイントロから始まり、「多陀阿伽陀」から始まるパートと「嗚呼 ソレが示す」から始まるパートの両方がサビのような存在感を発揮しながら展開し、ラストは短めのアウトロで潔く終わります。
ドラムは終始ミドルテンポで、他曲と比べると比較的シンプルですが、イントロや1サビ後のタム回しなどが特に印象的ですね。タムの反響音が曲の壮大な雰囲気を醸し出しています。ベースは緩やかながら流麗なメロディで曲のうねりを作っています。1サビ後の間奏では耳に残るフレーズを弾いていますね。
ギターはディストーションの効いたアルペジオを主体に、時折低音のフレーズを混ぜ込みながら曲が進んでいきます。イントロ等に入っているノイズっぽい音も実はギターの音でかなり凝ってますね。「茨の道でもいい」に入る前の高音フレーズが浄化されるよう美しさがあり、個人的に気に入っています。
ボーカルは艶やかな低〜中音域のメロディを基軸に、ファルセットのスキャットを混ぜています。「多陀阿伽陀 御伽 深い谷へと」の部分は怪しげな声で歌っていますね。「空へと行かん」では過剰なまでにビブラートをかけており、京さんの器用さを感じます。個人的に、ラストの「痛みからの解放」のファルセットが癖になります。
歌詩は仏教的なワードが散りばめられており、やや難解ではありますが、俗世を生きる苦しみからの解放されることのメタファーとして、「多陀阿伽陀」=超越者が用いられているのかもしれません。ただ、「深い谷へと」向かうことから、実際には俗世よりも底に沈んでいく覚悟を描いているように思います。「茨の道でも良い 生きてる証を」というフレーズからも、決意を感じ取れます。「空へと行かん」は「死」のことだとは思いますが、これは「13」の歌詩と同様、今までの自分を殺すという意味ではないでしょうか。自分を貫くというあえて苦しい道を選んだ先に「痛みからの解放」が待っているというか。
ライブでは、セトリの中で存在感を放っており、「TOUR23 PHALARIS FINAL -The scent of a peaceful death-」では一曲目に配置されていました。荘厳な雰囲気のある曲なので、映像演出含めグッと引き込まれるものがありますが、サビは意外とノリやすいリズムなのが良いですね。ビブラートの部分は野太い声で歌っており、迫力があります。
11 カムイ
薫さんとDieさんの原曲を組み合わせて作られた長尺バラード。アコギを主体とした穏やかさのある音像ですが、優しく死に誘ってくるような鬱々しい虚無感があります。バンドが長年向き合ってきた「痛み」というテーマを究極に体現した楽曲だと個人的に思います。
近年の長尺曲としては珍しく、劇的に展開が変わったりすることはなく、緩やかに深みにハマっていくような構成になっています。「蟲 -mushi-」のどこか距離の近い鬱々しさと、旧「MACABRE」的なノイズ混じりのプログレ感、「VINUSHKA」的な退廃美を混ぜて綺麗に整えたような雰囲気があります。
壮大なストリングスで始まり、その後は機械的なギターを主体に1コーラス終え、ノイズで場面が転換し息苦しくも穏やかなアコギのパートに入ります。終盤は歪みんだサウンドで盛り上がりますが、あくまでダウナーな雰囲気のまま進んでいきます。ラストはノイズ音で不気味な余韻を残して終わります。
ドラムは比較的シンプルですが、1サビ後や、2回目の「嘆き もがき〜」の部分など、時折手数の多いフレーズが入ります。1サビ前のバスドラが静かに響いている部分も好きですね。ベースはかなり目立っており、穏やかなメロディで曲をリードしています。「誰にも言えない〜」の部分のフレーズが好きです。
ギターは序盤は機械的なクリーンギターが軽やかに響き、中盤は寂しげなアコギのフレーズで感傷的になり、終盤は地鳴りのようなディストーションが重く響いています。1サビ後の悲哀が込められたギターのメロディが胸に響きます。終盤の重たいギターとストリングスの融合は終末感あって良いですね。
ボーカルは終盤の僅かなシャウトを除けば、癒やしすら感じる優しい声で歌っています。ですが、どこか言葉では表現できない冷たさも共存しているあたり絶妙というか…歌唱テクニックでそこまで主張しているわけではないのに圧倒的な存在感があるのは流石です。サビの歌声と、随所に入ってくるファルセットのメロディが好きです。
歌詩は、散々心を壊され、今もずっと痛みに曝されながら毎日を生きる人間の姿が描かれています。私自身、「後何年ですか? まだ生きるんですか?」という問いかけは何度も考えたことがあり、この曲を聴くと、やっぱりDIR EN GREYというバンドに辿り着いたのは必然だったんだなとしみじみ思います。
「時には涙と笑顔の真似 捨てられた愛を拾う人生なんです」これも良いフレーズですよね。必死に自分を繕ったところで、得られるのは本物の愛などではなく、使い捨てのような関係のみ。「愛、投げつけられ」というのも面白い表現で、理解の伴わない愛はむしろ暴力でしかない時もありますよね。「時には温もりと 安らかな死の匂いを」という最後のフレーズは、京さんの声も相俟って、妙な安らぎを感じるんですよね。今までのアルバムのラストの曲のように高らかに歌い上げて終わるのではなく、静かに溶けていくような感じ。どれだけファンに想われても、京さんにとっての死とは、誰にも分かってもらえずに消えることなのかもしれません。
ライブでは「TOUR23 PHALARIS FINAL -The scent of a peaceful death-」でアンコールのラストで演奏されていました。正直圧倒されすぎて、棒立ちで観ているしかなかったですね…「Absolute」の後のシャウトの部分はこれでもかというくらい叫び倒していました。今後滅多に聴けないような気がしますが、ここぞというときにまた聴いてみたいものです。
DISC 2 (完全生産限定版)
1 mazohyst of decadence
1stアルバム『GAUZE』収録曲のリメイク。原曲の気だるい雰囲気を残しつつも、音が大幅に重くなり、京さんの声の変化によって、妖艶さが増しました。原曲は長尺でしたが、本作は必要最小限に削ぎ落とされ、6分弱に収まっています。
ギターのリフが低くなってドゥームメタル的な重さを獲得した一方、90年代特有の妖艶な匂いも残っています。また、セリフのパートが全てカットされたことにより、無駄なく旨味を感じられるようになってます。『GAUZE』リリース当時には手が届かなかった世界観を、満を持して表現できるようになったような雰囲気もありますね。
ドラムは分厚い音になり、本来この曲において必要だった重さに辿り着いたような感じがします。出だしのアレンジが変わっていますが、ここ結構気に入っています。ベースは指弾きになって音が滑らかになった他、フレーズも変わって動きが増えました。2回目のAメロに入る前のスライドが良い味出してます。
ギターはリフが1オクターブ下がって重苦しくなり、非常に格好良くなりました。ドラムと同様、原曲以上に本来感がありますね。薫さん、Dieさんがそれぞれディストーション、クリーンでお互いの持ち味を出しており、それぞれ妖しさ全開です。機械的だった原曲よりも、バンドサウンド感が増していますね。
ボーカルは叫び倒していた原曲と比べると、艷やかな声で丁寧に歌っており、狂気よりも美しさが強調されています。メロディが大幅に変わっていますが、原曲よりも変化に富み、聴き応えが増していますね。個人的に、サビの終盤で高くなる部分が好きです。ラストはシャウトと裏声で狂気的に暴れています。
歌詩は未公開ですが、中絶をした女性側の視点が描かれているように聴き取れます。「産女が哭く頃」という印象的なフレーズがありますが、中絶自体をテーマとしていた原曲とは違い、「愛への執着」に焦点を当てているように思います。言葉が抽象的になったことでアート感が増したように思います。
ライブでは実は2013年からこのアレンジに近い形で演奏されています。直近では、先日の「TOUR24 PSYCHONNECT」で演奏されていましたが、冒頭で非常に綺麗なホイッスルボイスが披露されていましたね。音源では綺麗に歌っていますが、このツアーでは叫び倒していて、ゾクッとするような狂気を感じられました。
原曲のあの無駄に長い感じも、それはそれで好きなんですが、完成度で言えば圧倒的に本作に軍配が上がりますね。ただ、『THE UNRAVELING』の頃から原型はあったようなので、欲を言えばその頃くらいの水準で音を詰め込んで欲しかったなと思います。本作も悪くはないんですが、やや淡白な感じがするんですよね。
2 ain't afraid to die
9thシングルのリメイク。原曲のイメージを残したまま、今の音で録り直したようなリメイクで、心なしか原曲よりも優しい耳触りになったような気がします。『PHALARIS』本編と「mazohyst of decadence」のリメイクでズタズタになった後に、ほんのりと癒しを与えてくれます。
粗めの音だった原曲と比べると、音が太くなったことで包容力を感じる音像になりました。構成は原曲のままですが、ピアノが原曲以上にフィーチャーされており、むしろポップス的なサウンドに近付いたように思います。子どもの合唱もなくなり、壮大だった原曲と比べると、より身近な感じがしますね。
ドラムは原曲のフレーズをそのまま再現したようですが、クリアかつ重たい音になり、耳への圧迫感が心地良いですね。ベースも概ね原曲と同じフレーズだと思いますが、ボリュームが上がったことで曲全体の重みが増しています。「明かりは静かに〜」以降のジワジワと盛り上がるベースラインが好きです。
ギターは分離が良くなっていますが、近年の曲としてはやや引っ込み気味ですね。ギターソロは生っぽい質感の音で、フレーズもアレンジが加えられており、アツく、激しくなっています。ギターが引っ込んだ一方、ピアノが前面に出ており、原曲で子どもの合唱だった部分もピアノでカバーされています。
ボーカルは長い年月を経て、ガラッと印象が変わりました。原曲はV系の癖全開でしたが、本作では癖が抑えられ、今の京さんの綺麗で優しい歌声を堪能できます。「色彩は」にメロディが付き、「そっと溶けてゆく」の後に高音域のメロディが追加されましたが、この変更がめっちゃ良いんですよね。
歌詩は変更はないものの、「まだ誰も愛せはしない」というフレーズが追加されたことにより、喪失感が増していますね。原曲の時点で、曲とマッチした非常に感動的で悲しい歌詩でしたが、今の京さんが歌うことで、遠い過去を振り返りながらも未だ癒えていない傷を感じさせるような深みが増しています。
リメイクされて以降は、「DIR EN GREY 25th Anniversary TOUR22 FROM DEPRESSION TO ________」と、「50th NEW YEAR ROCK FESTIVAL 2022-2023」でしか演奏されていませんが、ライブで聴くと、京さんの声が音源以上に太いので、その分悲壮感も増します。実際にツアーで聴いたときは、私自身、その美麗で力強いサウンドに圧倒された記憶があります。せっかくリメイクされたので、もっと聴きたいところですね。
ただ個人的に、この曲は原曲の方が好きです。本作も大人な感じで良いとは思いますが、原曲の空間を感じるサウンドと鬼気迫るボーカル、子どものコーラスなど、やや大袈裟なくらい盛り上がっている方がこの曲らしくて良いと思います。ギターがもう少し前に出ていたら印象が変わってたかもしれませんが…
最後に
濃厚かつバンドの総括的な『PHALARIS』という作品。その世界観が醸し出す閉塞感は、奇しくもコロナ禍の閉塞感とも重なるような部分もありましたが、その危機を乗り越えた今、DIR EN GREYというバンドの持つ解放的なパワーにますます磨きがかかったと私は思います。
そして次にアナウンスされたのは、メジャーデビュー25周年にまつわる取り組みでした。デビューシングルのリメイクと1stアルバム『GAUZE』のツアー、そしてその先にあるのは…?DIR EN GREYの歴史はまだまだ続きます。