【読書】2023年2月に読んだ本
「90年代の日本、茨城県。31歳の既婚女性美恵子は、2歳と3歳の男の子をもつ母親だ。再来年に市内に中層階マンションを購入しようと、毎週末モデルルームを訪問している。彼女の楽しみは、子供たちが寝静まった22時、台所で温かい緑茶を飲みながら社会学の本を読むこと。」とDALL E2に入力したら上図のようなイメージを得ました。
マーケティングでいうペルソナ設定をしているような気分になりました。さて、この美恵子さんが読んでいる社会学の本には、どのような本が該当するのでしょうか・・・
2月は論文を書いていました。もともと本を読めていませんが、今月はひときわ読めていません。
・坂口ふみ著『〈個〉の誕生 ─キリスト教教理をつくった人びと』(岩波現代文庫)
1996年の名著の文庫化と各所で注目されていたので購入。「実体がある」「存在している」という概念が、キリスト教世界でどのように要請され、成立し、変遷したのかを、歴史譚のように描いています。
この本で描かれたロゴス、ピュシス、ウシア、ヒュポスタシス、ペルソナなどの神に関する概念の取り扱われ方の神学論争と公会議が、もしZoomで開催されていたらどうなっただろうかと想像してしまいます。数百年間におよぶ会議のzoom録画物をまとめたら・・・こんな本になったように思います。
なお、この数百年分のzoom録画物のエグゼクティブサマリーに相当するのは、清水哲郎著『世界を語るということ ─「言葉と物」の系譜学』(岩波書店)だと思います。
さらに放言しますと、次の数百年のzoom会議録画物をまとめた本があるとすれば、それはルーベンスタイン著(小沢千重子訳)『中世の覚醒 ─アリストテレス再発見から知の革命へ』(ちくま学芸文庫)ではないでしょうか。こちらにもウシアとヒュポスタシスをめぐる論争やキリスト教世界における「個」の捉え方について説明がなされていますが、主眼にあるのは個の対極にある「普遍」の成立と変遷のほうです。
今月は他に以下も購入しました。
・ぺんたん・まきりえこ『母親を陰謀論で失った』(カドカワ)
本書のように実際の体験をもとに大幅に脚色して描いたものを「セミフィクション」と呼ぶようです。そのような造語をわざわざ用意したくなるのはどうしてなんでしょうか。多くのクリエイターは、人々に物語を受容させるには歴史的事実を含まなければならない、と前提しているのでしょうか。
長澤まさみ主演のテレビドラマ「エルピス」の各回にわざわざ示された但し書き─「このドラマは実在の複数の事件から着想を得たフィクションです」─からも、同じような印象を感じました。
そう思うと、冒頭の坂口本にも、歴史的事実を用いて物語を受容させることの便利さを感じてしまいました。
・・・2月は、見かけた瞬間に購入しないと当分手に入らない新発売本として『宇宙こそ帰る場所─新訳サン・ラー伝』、『生物学者のための科学哲学』なども購入していますが、読み始めるのはもう少し先になりそうです。