旅にも余韻があるのだよ
12/23(月) 曇りのち晴れ
旅にも余韻があるみたいだ。
放課後、しずかな音楽室で鉄琴を叩く。澄んだ金属音が黒板や曇り窓の方向に同じ速さで広がっていく。マレットを置いた後もその音はしばらく宙を漂っている。そんな余韻が。
先週の屋久島旅行で、自宅用にあごだしを買ってきた。飛行機に乗る直前まで買う気はなかったのだが、空港で保安検査場の列に並んでいる時、職場の人に「関東のスーパーの半額だよ」と教えられたのだ。パックに飛魚のイラストが描いてある。心なしか、そのあごが出ている。
昨夜は鍋をした。あごだしはさっぱりした味。使った後、台所の壁にパックを立てかけた。数ヶ月は保つだろう。その間、屋久島の余韻が、あごだしの形をとってぼくの家に残っている。お土産は旅を目に見える形で残す方法でもある。あごだしという余韻はそれを消費するたびに小さくなっていく。最後には消えてしまう。でも悲しむことはない。音楽室の鉄琴はそこにある。窓から射す夕日を浴びて、また鳴らされる日を待ち続けている。
12/24(火) 晴れ
最近「パペットスンスンのお悩み相談室」をよく見ている。癖になる。スンスンはすごくかわいい。でも、答えが絶妙に論理的なので、その背後には巨大な計算式がある気がして、たまにドキッとする。
12/25(水) 晴れ
会社の納会。南スーダンという国のビールを飲んだ。アルコール分12%のビールなんて初めて見たよ。その名も、SOUTH STRONG!
12/26(木) 晴れ
家の隣の駐車場に、兄妹自販機がある。
双子ではなく兄妹なのは、左の自販機のほうが新しいから。
友人ではなく兄妹なのは、商品の種類が四割同じだからだ。
二台は仲良く並んでいる。筐体に社名が書いてある。右側の白い自販機(兄)がダイドー、左側の新しい青の自販機(妹)がアサヒだ。ダイドーは台風の日の空みたいに薄暗いが、アサヒはカラフルに光っている。ぼくはランニングした後に炭酸水を買いにいく。同じ500mlのウィルキンソンなのに、二台で値段が違う。アサヒが130円、ダイドーが120円。カルピスも三ツ矢サイダーもダイドーのほうがなぜか10円安い。当然、贔屓はダイドーだ。
気になって、兄妹をよく見てみる。ダイドーはDyDoとAsahiの製品を両方売っているのに、アサヒの中身はAsahiの製品だけだ。ということは、兄妹の両親もまたダイドーとアサヒなのだろう。DyDoとAsahiの製品が両方ある場合、ダイドーになるということは、DyDoが優勢遺伝子だ。もしかすると、兄妹には、駅近くまで出稼ぎに出ているDyDo製品100%のダイドー(長男)もいるのかもしれない。
この間、二台に飲み物を補充している業者の人を見た。住宅街のど真ん中にあるのに、案外買う人がいるのだ。道ゆく犬の散歩をしている人や子供連れの母親に話しかけてみたくなる。ねえ、知ってますか。あの自販機、兄妹なんですよ。でも、ダイドーでばかり買っていると、そのうち、アサヒがいなくなってしまうかもしれない。十円の差には目を瞑って、時々はアサヒでも買うようにしている。
12/27(金) 晴れ
旅の余韻のつづき。
旅の余韻はだれかにあげることもできる。来週は年末年始で帰省。両親には、乗継地の鹿児島空港で買った薩摩揚げを持っていくつもりだ。賞味期限は真空パックで二週間。正月の間に食べなくてはね。
ところで、ぼくは時々無性にお金を使いたくなる。高価なものを買うことはあまりなく、シャトレーゼのお菓子を買って勝手に配ったり人におごったりする。大体はストレスが溜まっている時だ。お金のために働くのが嫌になって、お金から逃れたくて、お金を手放してモノに変える。小さな爆発のような浪費。ただの爆発は何ももたらさない。後には何も残らない。それはそれで必要なことだ。
旅の余韻は違う。だれかと分かち合うことで増えていく。それがまた次の旅につながるパワーをくれる。それは旅という行為が消費ではなく蓄積であり、音楽室の鉄琴を鳴らすような経験だからだ。
お金は、目に見えなくてもいいけれど、心に残る形で使いたいと思う。
12/28(土) 晴れ
仕事納めでした。朝、ため息をつきながら職場に向かう。白いダウンを着た小さな女の子が、ロッカーを指差して「ご飯を届ける郵便ポスト!」と叫んでいた。「本当だねえ、入るかな?」とお母さん。ロッカーはスーツケースも入るサイズ。いったいどんな料理が出てくるんだろう?
12/29(日) 晴れ
昨夜は遅くまで映画「レオン」を見た。感想はさておき(素晴らしかった)、久しぶりに朝九時半起床。着替えて、歯を磨く。洗濯物を回し、コーヒーを淹れてパンを焼く。今日は、今年の振り返りでもしようと思っています。
今年最後の投稿になりました。元旦から大変な一年だったけれど、落ち着いた心で皆さんが新しい年を迎えられますように。では、また来年に!
(おわり)
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