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中編『十一月に』追記~鴉はやはり沼であった
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蓋を開ければ「カフカの番外編」であった中編小説『十一月に』。
全六話で隔日で投稿しましたので、何だかあっという間の連載でしたが、正直、楽しんでいただけた方がいらっしゃったのか、自分では全然判断がつきません。
執筆を開始したのは『その名はカフカ』第四部Modulaceを終了した直後4月25日で、5月6日に最後まで完成させてから投稿し始めました。
もともと「カフカの連載を終えてしまった寂しさを紛らわすため」に書き始めたのですが、前々から書きたいと思っていた部分を扱ったこともあって、なかなか効果はあったようです。今、意外にスッキリしています。
たった六話完結で総計三万字程度の中編による番外編でしたが、ちょっといろいろ書き留めておきたいこともありまして、『十一月に』をお読みくださった方々にさらっと目を通していただけたら、と思いつつ書き綴っていきます(例の如く暑苦しい内容になることが予想されます、あらかじめご了承ください)。
どうしてエミルの十年前を書いたのか
本編カフカの重要脇役エミルと妹のジョフィエの両親が失踪している、という話が初めて出たのは第二部Kontrapunktの第二話でした。そして第三部Disonanceでジョフィエの出番がぐんと多くなり、エミルの家庭の事情というのも重みを増してきて、そのころ「これは一度当時のことを書いておきたいなあ」という思いが大きくなりました。
カフカの第四部Modulaceは2014年9月から12月にかけてのお話でしたが、『十一月に』はちょうどその十年前、2004年の11月の出来事です。少し個人的なことになりますが(というかカフカ自体が私の個人的な諸々を注ぎまくった話なんですけれども)この2004年の十一月がどっ寒かった、というのが今でも忘れられない思い出になっていて、「エミルの両親が失踪したのがだいたい十年前、それならその忘れられない十一月に起きたことにしよう」と決めました。それでお話の中でも「寒い」という表現が何度も出てきます。笑
エミル視点のないエミルの物語
エミルは観察者的な役割が多い、というか、基本冷静な人なので、本編に登場するとたいてい一緒にいる登場人物よりもエミルに優先的に視点を与えがちになるのだと思います。そこでこの番外編では「エミルが主人公だけどエミル視点が一切ない、という書き方をしてみたらどうだろう」という実験をしてみることにしました。しかし、両親の失踪事件が結局解決していない、ということをエミル視点ゼロでは語りきれなかったため、最後の最後でエミルの視点になっています。
当初は予定していなかったエミル視点ですが、最後にエミルに戻って、やっと私も「家に帰った」気分になりました。どうも落ち着かなかったですね、ずっと「他人目線」でエミルを描写するのは。それでも書いていて楽しかったのは第二話登場のエミルの友達です。今回限りなのが惜しいくらい。
もう一つ、『十一月に』を書いていて何だか居心地が悪かったのが、私自身は物語の中の立ち位置をどこにすれば良いのだろう、ということ。
というのも、本編カフカでは私の主軸になる立ち位置はアダム、と決まっているから。……あ、私、マッチョじゃないですよ?アダムの百分の一も筋肉ついてませんよ?頭もアダムよりかなり劣っていますよ?でも、アダムなんです。レンカがどんなお馬鹿な失敗しても駄々をこねても結局は「よしよし」って可愛がってやる存在。そんなところに立って書いているので、お話の中で行くと私ってアダムだな、と。
短編の番外編ならまだしも、三万字の長さがありながらレンカもアダムもいない。書き終わった今も、この中編を書きながら私はどこに立っていたんだろう、とよく分かっていませんが、もしかするとこの時のエミルの話を知ることになるかもしれない未来のレンカだったのかもしれないな、とほんのり思っています。
謎が解決しない物語
エミルの両親の失踪事件が解決していないことは本編の現時点(2014年)で分かっており、この番外編を書いたところでやっぱり解決しないことは最初から決まっていました。
これって、果たしてお話として面白いのでしょうか?もうこればっかりは私自身では答えが見つかりません。前から書きたかったことを書けた、それだけで書き手としては満足してしまっていますから。
創作大賞への出品をやめた理由
第一話を公開して最初の二日以内にお読みくださった方は当初「創作大賞2024」のタグを付けていたことにお気づきだったと思いますが、結局創作大賞への参加はやめることにしました。
最大の理由は、やはりこれは長編小説の番外編である、ということ。
「タグを付けるだけならタダ」と気楽に付けはしましたが、すぐに居心地が悪くなってきたのです。私は、エミルを晒し者にするのか、と。
いやいや、創作大賞に出したからって読者はそんなに増えたりせんぜ。それは、そうなのでしょうけれども。カフカをそういったところに出場させるって、やっぱり何かが間違っている。
そして、私の二十年以上に渡る海外生活で錆びついた日本語は日本語で勝負する土俵に立たせてはいかんのではないか、という思いも「創作大賞」のタグの居心地の悪さの原因でもあります。
挿絵について
せっかく六話だけなんだし、挿絵には統一感を出したい!と、ここは最初から決めて取り掛かりました。
本編カフカでは「あんまりきっちり挿絵のスタイルを決めておくと続けていくうちにその技法が辛くなってくるのではないか」と心配で、意図的にいろいろな絵を描いていますが、この番外編ではペン画に統一することにしました。
……あれ?この間君は十七万字越えの本『その名はカフカ 1』を作った時、ペン画で挿絵を六枚描いてなかったかい?
そうなのです、考えてみたら十七万字に対してやったことと同じ仕事を三万字に対してやったわけです。
しかも!六枚のうち四枚が鴉で、ガリガリやった大変さを比べると本を作った時よりも今回のほうが重かったです。が、後悔はありません!楽しかったです、純粋に。
今一度、ここにその四枚の鴉を絵のタイトルではなくカラスの名称と共に一挙掲載したいと思います。
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別に「!」は要らないんですけどね……なんか、勢いよく紹介してあげたくなってしまって。
ちなみに「ペン画で統一する」と決めた時にはこんなにカラスを描く予定はありませんでした。第二話でポーの『大鴉』のタイトルが話題になっていて、それならチェコ語訳のタイトルに採用されているhavran(ミヤマガラス)を描こう、ミヤマガラスを描いたなら本来『The Raven』の訳であるべきkrkavec(ワタリガラス)のほうも描いておくか、という流れに。こんなにカラスを描くならやっぱり最終話はカフカ本家に戻る意味でもニシコクマルガラスを描いておきたい。それならチェコで「カラスの見分け方!」って言うといつもミヤマガラスとワタリガラスと共に登場するハシボソガラスも描いておいたら?と第五話もカラスに。
図らずも「鴉四天王」が揃うことになりました。
ミヤマガラスはもともと「不細工なカラスじゃのう」と(自分のことは棚に上げて笑)思っていたのです。
おでこの辺りが前に盛り出してるのも格好悪いし、嘴にくっつくような位置に目があるのも格好悪い。尾のほうの羽並みもボサボサ。うーん、なんて不細工ぅ、と思っていたのに。
観察するうちに、その不細工さ加減が魅力に感じるようになりました。
ワタリガラスは残念なことに私の生活圏には現れないのですが、ネットではカッコいい写真ばっかり出てきました。近いうちにお会いしたいです。
ハシボソガラスはカラスらしいカラス、という印象。
みんなそれぞれに素敵だけど、やっぱりニシコクマルガラスの目力とあのグレーの色合いの魅力には(少なくとも私の中では)打ち勝つことができません。
しかし、こんなにカラスについてグダグダ書ける、というところからして既にカラス沼に囚われの身のようあります……。
その他カフカ本編との違い
他に番外編『十一月に』とカフカ本編との違いを上げるとしたら、最初から最後までプラハに留まったところでしょうか。
あと、前々からどこかで書きたかったけど書く機会がなかった二つの世界名作のタイトル訳についての小話が組み込めたのも、普段本の話題はロシア文学に偏りがちな本編ではできないことだったかな、と思います。
あ、あともう一つ遊んだ部分があると言えば、刑事さんの名字。ストラカ(Straka)は「カササギ」の意味なんですよ、うふふ。
カフカの今後
えっと、連載は本当に暫くお休みの予定です。忘れた頃に第五部を引っ提げてスルっと戻ってくるつもりです。忍び足でスルっと現れた時は、またお付き合いいただけたら嬉しいです。よろしくお願い致します。
ではでは、まとまりの悪い追記記事となりましたが、今回はこの辺で。