『物語の欠片』のカケラの裏話2024プリムラ・スグリ
本記事は橘鶫さんの大長篇『物語の欠片』で使っていただいている拙挿絵の制作裏話です。
「天鵞絨色の種子篇」に向けて描いた絵も五枚目と六枚目が公開され、今篇の制作裏話も三回目となりました。前回、前々回同様、新たに登場した二人をまとめてご紹介します。
これまでに拙画が挿絵として使われた物語とその裏話はこちら↓
今回のペアも物語の中では接点のなさそうな予想外なコンビネーションに。
では早速参りましょう。
尚、拙挿絵のほうはこれまで同様、埋め込みリンクから鶫さんの物語と共にお楽しみください。
プリムラ
今回の一人目はアグィ―ラ王国建築局長プリムラです。
鶫さんの物語の絵を描かせていただくときは私が勝手に描く人物を決めているのですが、どういう基準で決めているかと言うと「描きたいという衝動が起きるか否か」。で、どういうキャラクターに対してその衝動が起きるかと言うと、一つは「好きだから」ですね。純粋に描きたい。そしてもう一つは「この人物は私の画風に合っているだろう/私にとって描きやすいだろう」です。
プリムラは「好き」と言ってしまうと、ちょっと違う気もするのですが、ものすごく気になる人。時にお話に直接登場しなくても主人公カリンの思考を占領して存在感を見せつける学者肌。一度プリムラがカリンに「『無』とは何か」と議論を吹っ掛けた時、私はコメント欄に「プリムラは哲学者だったのか!」と書き込んだのですが、鶫さんのお返事は「物理学的観点からの発言」だったとのことで、あの時は自分の「骨の髄まで文系」をさらけ出した気分になりましたな。笑
そんな気になる存在のプリムラも、当初は今篇に向けては描く予定ではありませんでした。
前回医局長ツツジの奥方リリィを描いた時のお話をしましたが、リリィを描こうと思ったのもそもそもは「アグィ―ラ人を一人は描いておかないとバランスが悪い」と考えたのが主な理由でした。
しかし、そのリリィの合格作がなかなか完成しない。焦った私は「アグィ―ラ人の補欠を描こう」と思い立ち、それならプリムラだ!と挑戦してみることにしました。
実は少し前のことになりますが、鶫さんに「プリムラのモデルとなっている鳥」として、サシバを見せていただきました。サシバって、嘴の下にまるで顎髭のように細い茶色の模様が縦に入っているんです。以来、私の脳内劇場でもプリムラが茶色の顎髭を生やすようになってしまい、今回描いた時も深く考えずにプリムラの髭と眉を焦げ茶色にしました。
描き終わってから思い至りましたよ、「あ、アグィーラ人って王族以外はみんな銀髪だよね?他の体毛(笑)も、銀……?」と。
取り敢えず描き上がったものを鶫さんにお見せしたところ、やはり「顔はプリムラなんだけど、やっぱり髭も眉毛も銀毛なんですよ」とのこと。
えっ、髭を直せば、このプリムラは合格なの?(この台詞、アキレアの時にも言ってましたね?)
とにかく髭と眉を修正すれば使っていただけそうなので、プリムラを床屋に送りこむことにしました。
アグィ―ラで床屋と言えば!そう、アジュガ親子行きつけの城下町の床屋、ワカメ!
……このワカメ、もし鶫さんの物語の私のコメントにも目を通してくださっている方がいらっしゃったら「ワカメワカメってうるさいなあ、なんのこっちゃ」と思われていると思いますが、城下町の床屋ワカメとはある時から『物語の欠片』の中で私の分身として機能するようになったキャラ(?)でございます。
初考案はいつだったのかしら、と思ったらローゼル画の裏話のここでした↓
で、今回ワカメがプリムラに何を施したかと言いますと、紙はいつものBambooで水筆で「色抜き」が利くので、まず茶色を抜いて、それでも弱い気がしたので、水彩ではなくガッシュで白を重ねました。
無事に髭と眉の脱色が済んだプリムラ、採用していただけました。
並行してリリィも使っていただけることになったので、当初の「アグィ―ラ人を一人は描いておかなきゃ」から「アグィ―ラ人が二人も」になりました。
スグリ
そして次に登場したのはマカニの戦士、スグリ。
スグリを描かせていただいたのは今回で二回目で、一回目は2022年に初めて物語の登場人物を描いた時の一枚目でした。
今見ると、今回の絵のほうが大人に見えますね。今回こそが幼い頃の回想がメインのお話なのに。そこから成長した姿のスグリを描いたのかな、と思っています。
スグリは物語の登場人物の中でもファンが多いキャラだと思いますが、私も熱烈なファンの一人。そしてそういう熱のこもった思いを「暑苦しい」と言って相手にしてくれなさそうな人物像……そこが良いのですが。しかし今回の「天鵞絨色の種子篇」ではマカニ族長の息子カエデとの友情という新たな側面も見えてきて、単に「淡泊な人」なのではないのだ、と再認識できました。
この新しいスグリの絵、描き上がった時は「寛ぎすぎたかな」と思ったんです。前回の絵は「凛々しい若者」という雰囲気だったので余計に。でも今回挿絵として登場して「あ、やっぱり私はスグリを描いたんだな」と思いました。表情は豊かではないけれど、どこまでもスグリはスグリであろうとする、そこに「寛ぎ」が無くてどうする。そんなところが伝わる絵になっていればいいなあ、と思います。
こちらは制作段階ではすんなり描けた一枚なので、あまり言及しておくべきこともありません。
以上、『物語の欠片』の欠片の裏話、プリムラとスグリの回でした。
「天鵞絨色の種子篇」に向けて描いた絵も残すところあと二枚。最後の裏話も鶫さんが物語と共に公開された後執筆予定ですので、そちらも楽しみにしていただけたら幸いです。
前回お盆休みと称して青鷺名人がサボタージュしたのですが、青鷺名人が帰ってきたところ、今度は青いRu鳥が不在!どこかに幸せを振り撒きに行っているようであります。
と言うことで、私の分身の一人であるアグィ―ラ城下町の老舗床屋、ワカメの初ビジュアル化です!青鷺名人、冠羽が逆立っておりますが、どうもワカメに切られるんじゃないかとビビっているようです。